第6話 鳥って雑食なんですね

 私は聞いた。


「何でしょう?」


 するとバベル君は勢い込んで


「この鳥、いや、『ふーちゃん』は、吾輩が食事をしていると匂いを嗅ぎつけてやって来て、その大きな身体で吾輩を押しのけて、半分以上も食事を横取りしてしまうのである。そのせいで、吾輩はここ二日も、まともに食事もできずに痩せこけてしまったのである!」


 ありゃりゃ? それはマズいぞ。

 ゼブルさんに確認すると


「はい。最初は街の業者から買い求めた小鳥用の飼料を与えておったのですが、段々と量に不満になったとみえて、バベルさんの『さいえ〇す・だい〇っと』を横から突ついたり、魔王城のキッチンの食材を狙ったり……」


 するようになったのだそうだ。

 うーん、どうしよう。


 でも、ここでガイアさんが言った。


「別に良いのではないか」

「え?」

「実は先程、また腹が空いたのか、あまりにうるさく鳴くから、妾が挽肉やらコメやら屑野菜やら与えてみたのじゃ。すると、そのままでは好みではないとみえて食べないので、チーズと生卵を加え、味付けに適当にトウガラシや塩コショウ、オリーブオイル、赤ワイン、砂糖にシナモン、それに目についたクローブやニンニク、ミソやオレガノを加えてかき混ぜ、後はバジルとパセリを大量に振りかけ、その上に生クリームを乗せてやったら、さも美味しそうに食べておったぞ」


 はい? 何ですかそれは?

 聞いただけで胸焼けどころか、お腹の下りそうなトンデモない代物ですけど。


「まあ、とにかくじゃ、この鳥、おっと『ふーちゃん』だったか。とにかく、こ奴は極めて雑食性で、しかもなかなか味の分かる美食家だということじゃ」


 ふーん。つまり、ガイアさんの料理さえも美味しく賞味できるバカ舌、悪食あくじきだっていうことね。

 だったら話は早い。ガイアさんにこの子の食事担当になってもらって…

 とか考えてたら


「いやいや、妾は二度と餌は作らぬぞ。今回だけはアスラが眠っておったので仕方なかっただけじゃ。以降はやはりアスラがやると良い。飼うと決めたのじゃからな、その責任がある筈じゃ」


 う、見抜かれた。

 そうかあ、やっぱり私が面倒見るしかないかあ。


 するとゼブルさんが助けてくれた。


「ガイアさま、それはちょっと……」

「何じゃ? 支障があると申すか」

「はい。魔王自ら家畜の餌係というのも如何なものかと。アスラ様にはそれ以外に新たな魔王として学んで頂かねばならぬ事、して頂かねばならぬ仕事が山程ございますので」

「ふむ、それはそうじゃな」

「それに、ガイア様のそんな餌さえ食べるようなら相当のゲテモノ食い……」

「妾のそんな餌さえ? ゲテモノ食い?」

「あ、いえいえ、そのような各種の食材を混ぜ合わせた餌を食べるようであれば、結構な雑食性でありましょうから、城の厨房の方で餌は調整できるかと。それよりも他に、鳥に関してもアスラ様には他にやって貰わねばならぬ仕事がございます」

「それは何じゃ?」

「アスラ様はこの鳥が巨鳥に育った暁には、御自分の乗騎となさるつもりでございましょう?」


 う、これも見抜かれてる。

 私は仕方なく首を縦に振った。


「でしたら、御自分の乗騎として訓練して頂かねば。基礎のしつけや運動、世話などは馬や飛竜の厩務係の方で致しますが、やはり実際に乗る者が普段から馴らして、共に訓練しておかないと、戦場等の実際の場では役に立ちませんからな」


 ああ、それはそうだね。

 じゃあ、例えば朝夕は必ず空の散歩とか。

 うーん、楽しそう。


「それから、これが一番心配なのですが……」


 と、ゼブルさんは言葉を濁した。

 え、え? そういうの却って気になるんですけど。

 何だろう? 私が続きを促すと


「まあつまり、たったの3日でこれですから、成長すればどれ程の大きさになるか想像もつかないという事ですな。そうなると、バベルさんの『さいえ〇す・だい〇っと』どころではない。ひょっとすると自分で野山から餌を獲ってくるようになるかもしれません。それが野牛や猪ならば問題ありませんが、この街に住む魔族や亜人、ヒト族、あるいは家畜を襲ったりすれば大変ですな。アスラ様には、決してそうならないように、この鳥をしっかりと教育して頂かなくてはならない」


 そうかあ。考えてみればそういう危険だってあるんだよね。

 動物と一緒に暮らすって、いろいろ責任が伴って大変だなあ。

 でも、もう、仲間にするって決めちゃったもんね。何とか頑張ってみよう。


「まあしかし、先の事をあまり心配ばかりしていても仕様がありませんからな。今のところ、あまり凶暴性があるようにも見えませんし、しっかりと餌を与えておけば、そのようになる可能性は低いかと。それよりも、アスラ様はもっと大切な事をお忘れになっているのではありませんか?」


 え、何だろう?

 私がキョトンとしていると、ゼブルさんは軽く微笑みながら言う。


「鳥の餌よりも御自分のお食事、でございますよ」


 そうだ!

 獣王軍が突然攻めて来たんで結局お昼ご飯は食べられなくて、戦いの後すぐに倒れちゃって、それから三日間眠り続けて何も食べてないんだった。

 そう考えると急に猛烈にお腹が空いてきたぞ!!


「そう思って、お目覚めになったと聞いた時に、厨房の方に申し付けておきました。そろそろ出来てくる頃でしょう。昼食の時間にも丁度いいですな」


 え、厨房?

 私、ここの料理にあまりいい思い出が無いんですけど。

 それに、もしかしてまたガイアさんが作ってくれた料理とか?

 少し恐怖してると、ゼブルさんが言った。


「アスラ様が倒れたと聞いて、ある料理人が心配して急遽駆け付けてくれたのです。それで、お休みになっている間、我が城の厨房を手伝って貰ったのですが、これがなかなかの腕前で、厨士長を初めとして他の料理人も驚いておりました。今日はその者が調理を担当致します」


 誰だろう。

 もう話を聞いて、それで急いで駆け付けてくれたって、私の知り合いにそんな料理人さんいたっけ?


 待つほどもなくドアにノックの音がして、入って来たのは ――――

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