第5話 名前をつけよう

 すると鳥は羽根を広げ、大きくはばたいて宙に浮いた。

 そして空中で、ぴーっ、ぴーっと甲高く連続して鳴く。

 なんだか、飼ってもらえると聞いて喜んでるみたいだ。

 もともとが獣王の部下の細胞だから、言葉がわかるのかな?

 でも、鳥に生まれ変わってまだ3日の子供だから、飛ぶのに慣れてないみたい。

 右と左の羽根の使い方が不揃いで、いかにもぎこちない。

 部屋中をふらふらと、あっちにぶつかったり、こっちにぶつかったり。


 でもこれでやっと私は上体を起こせるぞ。


 と、ここで、それまで黙っていたバベル君がベッドの上にぴょんと飛び乗って、私の脇から抗議を始めた。


「アスラ様。こんな鳥を飼うのはやめるのである。獣王の部下の細胞の生まれ変わりなんて、吾輩、やっぱり信用できないし、それにコイツは悪いヤツなのである。つい先程も……」


 その話を聞いたからだろう。鳥は今度は怒ったような更に甲高い「ぴーっ」の声と共に、その足の爪と嘴でバベル君を攻撃にかかった。

 これに対してバベル君も


「あ、コイツ、吾輩に対して生意気なのである。シャーッ!!」


 とか、猫科特有の擦過音っぽい威嚇の声と共に、後ろ脚で立ち上がり気味に、左右連続の猫パンチで応戦する。

 おーっ、顔が逆三角形になっちゃってるよ。

 これは相当怒ってるな。


 猫と鳥の戦いなら、普通は猫の方が強いんだろうけど、なにしろ子供とはいえ大型の鳥なんで、意外といい勝負だ。

 そんな互角の勝負が1分あまりも繰り広げられて、私のベッドの上に羽毛と毛が飛び散らかった。


 見かねたガイアさんがバベル君を、ゼブルさんが鳥を取り押さえてくれた。

 でも


「放して下さいなのだ、ガイア様。コイツに思い知らせてやるのである。シャーッ!!」

「ぴーっ、ぴーっ!!」


 なんて、双方とも背後から抱きかかえられながら、まだまだ戦意旺盛だ。


 あ、そうだ! この鳥に名前をつけなくちゃ。

 それで私は聞いた。


「ゼブルさんなら知ってるんじゃない。この鳥は、何ていう種類なの?」

「自然発生した鳥類ではありませんから、わたくしにも正直わかりかねますなあ。オウムやインコなどの南方の鳥類に少し似てはいますが、それよりも、もう既に遥かに大型ですし。しかも生まれて僅か3日でこの大きさならば、成長すれば相当の巨大な姿になるでしょうし。伝説の巨鳥ならば、ガルーダ、ロック鳥などが有名ですが……」


 おお、ガルーダか! とすれば名前は「」だね!

 いやいやいや、さすがにそれはマズいだろ。

 ロック鳥は少しネームバリューに欠けるかな。


「なぜ、そのような事をお聞きになるのです?」

「だって、いつまでも『鳥』って呼ぶ訳にはいかないでしょ。仲間にするんなら名前がなくちゃ。その参考にしようと思って」


 これを聞いてバベル君が


「名前?! ヒドいのである。吾輩の名前はなかなか覚えてくれなかったのに」


 と、ガイアさんに抱えられたまま、がっくりと首をうなだれる。

 鳥は勝ち誇ったように、また「ぴーっ、ぴーっ」とご機嫌だ。

 それには構わずに


「他は、有名どころだと、鳳凰とかフェニックスとか」


 と、ゼブルさんが続ける。


 鳳凰かあ。中国っぽい鳥には見えないしなあ。

 フェニックスは炎に飛び込んで生まれ変わるってイメージからか、何だか赤っぽい鳥の感じがするぞ。この鳥の羽根は、もっと南の国の、森林の奥にある湖の色っぽい緑……


 私は考えた末に言った。


「よし、決めた!」

「ほう、何になさいますか?」

「妾も興味があるぞ。どのような名前にするのじゃ?」

「緑色だし、獣王の部下の細胞が 鳥だから、グリーンフェニックス 999スリーナイン号。略して『ふーちゃん』です。『ふー』 はェニックスの

「「「はあ?」」」


 あれ、何か文句ある?


「いや、アスラ様…… わたくしが思うに、グリーンフェニックスは良いとしても、999号はマズいのではないかと。確か旧文明の『あにめ』に、そんな名前の宇宙列車、銀河特急が出てきたのではないかと」

「じゃあ999はやめて、007ダブルオーセブン号はどうよ?」

「いやいや、アスラ。それは妾でも知っておるぞ。世界的に有名なスパイ映画の主人公であろう。それではますますマズいのではないか?」

「いろいろ面倒くさいなあ。じゃあ001号でいきます。これなら問題ないでしょう。えへん!」


 すると二人と一匹は、なんだか顔を見合わせて、小声で


「まさか、鳥の名前にナントカ『号』とか、ネーミングセンスが酷いにも程があるのじゃ」

「常識を疑われますな」

「吾輩、アスラ様に出会う前から名前があって良かったのである」


 とか言ってるけど気にしない。

 鳥はゼブルさんの手元を離れて飛んできて、私の頬に頭をスリスリして、喜んでるみたいだし。


 私は鳥に言った。


「さあ、今日から君の名前は『グリーンフェニックス001号』、略して『ふーちゃん』だよ。いい名前でしょう。もちろん気に入ったよねえ」

「ぴー、ぴー、ぴーっ」(喜・喜・喜)


 ということで、鳥の件は落着。

 と思ったら、バベル君から懇願があった。


「では、この鳥を飼うのは仕方ないとして……」

「ただの『鳥』ではありません。『ふーちゃん』です!」

「ぶすーっ。では、その『ふーちゃん』を飼うことに関して……」

「『飼う』のではありません。『仲間にする』のです」

「ぶすぶすーっ。では『仲間にする』ことに関して、吾輩からアスラ様へ、どうしても聞いて欲しいお願いが有るのである」


 それは ――――

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