第15話 公爵復活?
てなことで15分経過。
つまり、さっきの時点に戻るわけだ。
最初は息をのんで注視してた魔族軍も獣王軍も、あんまり長くかかるから途中から退屈して、今では腰を下ろしてたり、楽しそうに隣と雑談してる兵士さんまでいるもんね。
あーあ、緊張感なくなっちゃったなあ。
(相手がぐずぐず悩んでいる内に、速攻でボコってしまえば良いではないか。何も、変身がすっかり終わるまで律義に待ってやる必要はあるまい)
まあまあ、心の声さんも、そう言わずに。
これが彼にとっては最後の戦いなんだから、これで昇天させてやるんだから、ここは黙って、自分の納得のいくようにさせてやろうよ。
(お前がそう言うなら、我には別に異論はないぞ。だが、腹が空いたのだろう?)
うん、それはねえ。本当だったらもうとっくに、お昼ご飯の時間だからねえ。
だんだん身体に力が入らなくなってきたような、集中力にも欠けてきたような気がするぞ。
あー、何とかして朝食摂っといて良かったあ。そうじゃなかったら、きっと今頃は… でも、これはガイアさんには言えないなあ。
(…………)
すると
「よし! ついに決めたぞ。これこそ余に相応しい」
待ってました! やっとやっと戦えるぞ。
瞬殺で片付けて、お昼ご飯にしよう。
すると獣王は、今までにも増した力一杯の気合を入れて、背中からむくむくと生やしたのは、少し褐色がかった灰白色の、大きな大きなコウモリのような、グライダーのような翼だった。
「わーっはっはっはっ。
自慢するだけあってデカい!
左右の翼開長は軽く40フィートはありそう。
鋭い爪の付いた細長い腕の下から、薄い膜のような翼面が腰の辺りまで広がって…… ということは正確には10本腕になっちゃったということだ。
はぁ、まあいいですよ。
もうここまで来たら、今さら何も言うことはないですけど。
それにしても、恐竜好きだなあ。
まあ、地上最大の生物だし強そうだから、気持ちはわからないでもないけどさ。
でもねえ、その図体で飛べるの?
だって、ケツァルコアトルスって、身体はキリン以上の大きさだけど、体重は70キロ程度だったって話だよ。
骨なんて、軽量化の為に内部は空洞だったっていうし。
目の前のこのやり過ぎキマイラは、いったい何トンあるのさ?
で、私は興味が湧いてきて、ちょっと意地悪な気持ちにもなって、獣王に言ってみた。
「飛んで見せて」
「何だと?」
「折角の翼なんだから飛んで見せてよ。だって今まで待ってあげたんだから、そのくらいのサービスはあってもいいと思うけどなあ」
「これは飾りだ」
「はあ?」
「立派な翼は、やはりそれだけでも格好いいだろうが。実用性はこの際は問題ではない。だいたい、この逞しい体格で空を飛べるはずはないではないか。明らかに物理的に無理だ。そんな事も分らんのか。やはり教養の無いガキだ」
これですよ。
散々相手を待たせておいて、そのあげくこんな事をほざくヤツですよ。
よーし、上等じゃないか。
これでこそやっぱり、こちらも遠慮なく戦えるってものですよ。
でもねえ、目の前の姿を見ると何だかねえ。
だって、ちょっと姿を想像してみてよ。
まず、身長は40フィート近くはある。
それで、下半身からいくと、アラモサウルスの後ろ脚は太腿の直径はおよそ4フィート、ということは太腿周りはちょっとした大木の太さはあるよね。
これが人間の脚じゃなくて恐竜だから、やっぱり超巨大な、幅12、3フィートもありそうな腰の両側から生えてるわけで、だから脚と脚の間にはマヌケな広ーい隙間がある。
その上に乗ってるのが巨大なマウンテンゴリラの胴体。
それだけ見ると逞しくて絶大な迫力だけど、竜脚類の下半身と比べるとさすがに貧弱で、笑えるぐらいにバランスが悪い。
しかも、脚はほとんど無毛なのに、上半身はいきなり剛毛がみっしり生えて不自然で、いかにも取って付けた感じだ。
8本腕はクマや大型の猫科と種類がバラバラで、2本だけ人間の手っていうのも却って気持ち悪いし、脇の下から生えてるティラノの手(前脚?)は、爪は鋭そうだけど細っこくて短くて、何の役に立つのか、ちょっとよくわかんない。
翼は見た目が立派だけの単なる飾りだっていうし、おまけに首から上だけは人間のサイズのままで、最悪の人相の小さな小さな3つの顔が憎々しげに私を睨んでる。
全体として考えて、これどう思う?
さあここで、解説担当の心の声さんにも意見を伺ってみましょうか。
(誰が解説担当だ! まあしかし、8000年以上生きてきた我だが、自然の生物にも魔物にも、こんな変態的な怪物は見た事がないぞ。正に、奇怪を通り越して醜悪極まる。滅茶苦茶であり、支離滅裂だな。ギャグにもならん)
でしょう!
どうしようかなー。
と、ここで、その醜悪な怪物の小さな顔が、はるか上から私を見下ろして、聞き覚えのある声で偉そうに言ったんだよぉ。
「おいアスラ!」
あーあ、とうとう声まで陰険な親父の声になっちゃってるよ。
えっ!?
「アスラ、貴様に話しておるのだ。返事をせんか!」
あーあ、尊大な話し方まで公爵そのままだ。
もう、その顔と声で馴れ馴れしく話かけないで欲しいなあ。
で、無視して返事をしないでいると
「貴様は親に向かって何だその態度は。ふん、相変わらず可愛げのない娘だ!」
え、どういうことだ?
とうとう私は獣王に言った。
「なんで、そんな嫌な声になってるのよ? 不愉快だなあ。あんな奴の声真似なんかして、悪趣味だよ!」
すると
「真似などではない。貴様の父親と兄たちの細胞を取り込んだのだからな。声だけではなく、記憶まで全て余の物になっておるぞ。
獣王の声に戻った!
記憶を取り込んだ? 面白い事実を知った?
コイツ、もしかして……
するとまた、獣王と入れ替わりに悪党公爵の声がした。
「誰のおかげで今まで生きて来れたと思っておる。貴様の様な厄介者を、これまで育ててやった多大な恩も忘れおって!」
来たよ! 耳タコになるぐらい何千回と、顔を合わせる度に聞かされた恩着せがましい説教だ。
育ててやった、だとお。誰がそんなこと頼んだ?
厄介者だとお。こっちだって、好きでお前の娘になったわけじゃないんだぞ。
お前たちと暮らしてる間、一度だって、この世に生まれて良かったなんて思ったことはない!
それを、恩だとお!?
それに、お前、私にどんな仕打ちをしてきた?
少し自分の思い通りにならないと、怒号、折檻、狭い部屋に閉じ込め、始終他の兄姉と酷く差別してきたじゃないか。
そのくせに人前では手のひらを反すように、さも可愛がってるかのような振り。
見え透いた綺麗ごとばかりを恥ずかしげもなく口にして、まるで愛情深い父親が我儘な娘に困ってるかのような演技をしやがって!
「王子を半殺しにし家を飛び出し、貴様のその我儘のせいで、数百年続いて来た我が公爵家は滅亡したのだぞ! 恩を仇で返すとはこの事だ。半端者は大人しく、愚かな王子の嫁にでもなって、せいぜい精一杯に我が家の役に立っていれば良かったのだ。どうせそれぐらいの能しか無い癖に。あぁ? 何様のつもりだ!」
お前こそ何様のつもりだ!
役に立つだとお。
自分たちの欲のために私をバカ王子の結婚相手に差し出して、王子を篭絡させて、王家を自分たちの都合のいいように操ろうってかぁ。
その裏では、王家をいつか攻め滅ぼして、自分たちが取って代わろうと計画してたことも私はわかってんだぞ。
その時は平気で私を王家の巻き添えにするつもりだっただろうが!
「犬でも三日飼えば恩を忘れぬと言うに、貴様の様な奴をこそ人でなしと言うのだ。その上、今度は魔王だと? 悪ふざけもいい加減にせい!」
飼う、だとお。
おまけに、人でなしだとお。それは自分のことだろう!
「何だその顔は。この上、更に親に逆らおうという訳ではあるまいな。今となっては、素直にその首を差し出す事だけが貴様に出来る贖罪ぞ! そうでもすれば、少しは貴様の歪んだ魂も救われるかもしれんぞ」
はぁ…… ひたすら呆れる。
私を罵倒する時には本当によく口が回るな。
この人でなしの下衆野郎は、一度死んでも相変わらずだ。
その身勝手な言い草も、人を人とも思わない口振りも、全く昔のままだ。
(…………)
兄貴たちもこいつの言いたい放題の悪態を聞いて、にやにや嬉しそうに笑うばかりか。ふん、これも全く昔のままだ。どいつもこいつも、やっぱり悪党は死んでも「反省」なんて言葉には無縁なんだなあ…
すると
「貴様など、あの御方の娘でなければ、なにも好んで我が家に引き取る事もなかったのだ。それを、何かしらの常の礼があるどころか、我らがかの窮地に陥ってさえ援助は皆無とは… 信じられん。つまるところ、これ程の不快と落胆、破滅を我らにもたらすとは、全く信じられん!
「知った」とは、やっぱりそういうことか。
黙れ! これ以上言うと…
「あぁ? 今何か小声で言ったかあ? ぐがっ!!??」
よし!!!!!
でも、やったのは私じゃない。
心の声さんが久し振りに、本当に久し振りに私の身体を軽く操って、足元の小石を蹴り飛ばし、こいつの顔にしたたかに命中させてくれたのだ。
(全く聞くに堪えんな。アスラよ、こんな下劣な輩の悪口雑言に、これ以上付き合ってやる必要はないぞ。さっさと片付けてしまえ)
うん、ありがとう。
そうだね。心の声さんの言う通り、速攻で片付けてしまおう。
「
(おい、地獄なんて物の存在を信じておるのか?)
いやいや、場の勢いってものがあるでしょう。
これも大事な雰囲気作りですよ。
すると
「「「「死にたがりの小娘が、偉そうに! ならば貴様の望み通りにしてやろうではないか!!!」」」」
おお、獣王と悪党3人の声が重なった。
下衆同士で気が合うのかな。良く声の揃ったコーラスだ。
コイツ(コイツら?)には全く同情や憐憫の余地なんてない。
二度と甦って来れないよう、徹底的に消去してやる!
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