フィーネ・デル・モンド!~遥かな未来、終末の世界で「美食王になる」的に冒険を満喫していた少女が、なぜか魔王と、そしてついに神(?)と戦うことになっちゃった件~
第6話 ヴァルプルギス(新魔王の初仕事)
第6話 ヴァルプルギス(新魔王の初仕事)
皆様いかがお過ごしでしょうか?
私はと言えば、何だか良くわからない
部屋に帰って着替えを済ませた。
「そろそろ時間ね。じゃあ、初仕事といきましょうか」
自分に言い聞かせようと、あえて声に出して言ってみた。
(ほう、あれだけ嫌がっておったのに、魔王になる事を納得したのか?)
いーえ、今だって決して割り切れちゃいませんけど、これ以上、あんまりウジウジしてたり、鬱入っててもしょうがないしね。
脱走してもどうせ使い魔の監視は付くだろうし、どこに逃げても魔王は魔王なそうなんで、だったら魔王城にいても一緒でしょ。
それに、何をするにしても、初めての時ってなんだか高揚感がある。
ゼブルさんの言う通りなら、手っ取り早くやるべきことを済ませて、今度は私が次の適当な人を見つけて指名すれば、その人が新しい魔王になるわけだし。
とっととそうしよう。
(きっとガイアも同じように考えながら300
う…… お婆さんになるまで魔王とか、嫌だなあ。
腰が曲がって、皺だらけで、曲がりくねった杖でもついて、それでも「魔王様」って呼ばれてる自分なんか、想像しただけで、ぶるぶるぶる。
悪い未来は考えないようにするのだ。
背の高い魔族さんに案内されて豪華な広間に入ると、この国の主だった顔ぶれなんだろう、数十人の盛装した魔族さんたちが、既に片膝付いて頭を下げた礼の姿勢で私を待っていてくれた。
床は大理石造りで、壁には金銀の装飾、アーチ型の天井には青空や雲が描かれてて、ちょっと屋外に出たみたいな開放的な雰囲気の部屋だ。
さすがにこの部屋には変な飾り付けは無かったんで、ちょっと安心したけど、同時に少しがっかりもした。私、ミスマッチに毒されてきたのかも。
正面に数段高くなった部分があって、そこに、いかにも偉そうな作り付けの椅子がある。あれが王座なんだろう。
椅子の横にガイアさんが立って、こっちを向いて手招きしてる。
呼ばれるままに赤い絨毯の上を歩いて壇上へと進み
気を取り直して、イヤー、ナニカアッタカナ、てな知らんふりの顔で立ち上がり、
ガイアさんが良く通る声で皆に言う。
「昨夜、使い魔を通じて知らせた通り、妾は魔王を引退する。新たな魔王はここに居るアスラじゃ」
すると、まず一番前にいたゼブルさんが、次に皆が声を揃えて答える。
「この宰相ゼブル以下、我ら一同、身命を尽くして新魔王であるアスラ様にお仕えすることを誓います」
「「「「「
あ、執事なだけじゃなくて、
まあ、この人だったら納得かな。
「アスラは本来はヒト族の勇者じゃ。勇者が魔王になるなど前代未聞であろう。面白い事になったと、皆も思わぬか?」
「「「「「おおーっ!」」」」」
これは初めて聞いたらしい。
「ただし妾は、ヒト族を驚愕させるためにアスラを魔王に指名した訳ではないぞ。新たな魔王に最もふさわしいと思ったからじゃ。さあここで、そのアスラ自身から魔王就任の
「えっ?」
「何を驚いておる」
「だって、挨拶するとか聞いてませんって」
「前もって伝えておかなくても当たり前じゃろう。所信表明とか抱負とか、ほら、そういったものを語ってみよ」
うーん……
で、私はほんのちょっと考えてから、ごくごく当たり前のことを、とりあえず言った。
「ええと、抱負ってほどでもないけど、私の思うのは皆が楽しく暮らせる国にしたいってこと。だから、ここに居られる皆さんにも、魔族の国に住むみんなにも、たったひとつ、これだけはお願いします。仲間の嫌がることはしないように、自分がされて嫌なことは相手にもしないようにしましょう。
これは相手を不快にすることもそうだけど、
(まあ、至極ありきたりの、よくある「
だそうだ。ところが
「「「「「おおーっ!」」」」」
「自分が嫌なことは他人にもしない、そんな考え方は初めて聞いた。目から鱗だ!」
「確かにその通り。さすがガイア様が選ばれた新たな魔王様だ。発想が常人とは違う!」
え、何、この反応? フツーに考えて、誰だって守るべき当然の心掛けでしょうに。
「うんうん、規則は簡略で分かりやすい方が良い。なかなかのものじゃ」
なんて、ガイアさんも喜んでくれてる。
うーん、なんか釈然としないけど、とりあえず良しとしよう。
うん、そうしよう。
それから
「次に、本当の意味で初仕事として、この街と国の名前を決めたいと思います。城の名前はヴァルハラのままでいいけど、考えてみれば街には名前がないから。まず、
「何じゃと!? や、やめろ! 妾はそれには反対じゃ」
「なんで? ガイアさんの作った街だから『ガイア・シティー』って、わかりやすくて、覚えやすくて、いいじゃないですか」
「ま、待て! そんな、自分の名前を街に冠するなど恥ずかしいではないか」
「自分で決めたわけじゃないから、別に恥ずいことはないと思いますよ。それに、ガイアさん、もう魔王じゃないし、決定権は私にあるんじゃ?」
「むむむ」
「何だったら、みんなに意見を聞いてみてもいいですよ。反対の人、いたら手を挙げて」
しーん。
「ほら、誰もいないじゃないですか」
ということで、街の名前はサラッと決まった。
次は国の名前だが、こっちは割と大変だった。
今度はまず、みんなのアイディアを募ってみたからだ。
「はい、アスラ様。吾輩に良い考えがあるのである」
「あら、いたんだ。猫ちゃ…… ではなかった、ベベル君。言ってみなさい」
「ベベルではない。バベルである。いい加減に記憶して頂きたいのである」
「わかりました。善処します。それで、君の意見とは?」
「『バビロニア』は如何であるか? これは遠い昔、旧文明でも非常に古い時代に繁栄した強大な国家の名前で、縁起も良く、音の響きも荘厳なのである」
「却下!」
「えーっ、何故であるか」
「君、自分の名前にひっかけて国の名前にしようとしてるでしょう。『バベル』に由来して『バビロニア』なんて、いい神経してるねえ」
「しかし、その国には天にも届く巨大な塔さえあったとか」
ここでゼブルさんが小さな声で「しかしもタカシ君もヒロシ君も……」とか呟いてたが、見なかったこと、聞かなかったことにする。
「はいはい、その塔に神様の怒りが落ちて破壊されたっていう、古代の聖典にあるおとぎ話ですね。それからは人間の言葉も幾つにも分かたれてしまったとか」
「その通りである。有名なバベルの塔。だからこそ『バベル』とは、猫や人の言葉は勿論、カラスの言葉も狼の言葉も話せる吾輩の名にふさわしいのである」
「ほら、やっぱり君の名前でしょ。だからこそ『バビロニア』は却下。他の案は?」
ここで、文官らしい魔族さんが立ち上がって言った。
「本国は、美食をもってヒト族を
「それは確かに愚考です。却下。なんだか田舎の居酒屋か安っぽいテレビ番組のタイトルみたいだから」
「むむむ、残念」
今度は鎧を着た、いかにも貫禄ある武官って感じの熊の獣人さんが言った。
「
「却下。それは伝説ではなく『あにめ』です。パクリはいけません。著作権侵害になります」
「『ちょさくけん侵害』とは何の事でありましょう?」
「旧文化において厳しく禁じられていた行為で、他人の創作物から物語の筋書や重要な要素を無断で借用することです。今の世界には存在しない概念ですが、とてもとても恥ずかしいことです。バレないからとか罰せられないからといって行うと、自身の倫理感や羞恥心を疑われます」
その後、あれやこれや、いろんな案が出た。
例えば
伝説の楽園系で、「アヴァロン」「エルドラード」「アルカディア」「
旧文明に存在した地名系で、「江戸川河川敷公園」「びっぐ・あっぷる」「原宿竹下通り」「鈴鹿サーキット」など。
飲食物系で、「ロコモコ」「ガンボ」「元祖タピオカ本舗」など。
ふざけんな、なに考えてんだ系で、「地球防衛軍本部」「農業協同組合」「ハローワーク」「火曜サスペンス劇場」など。
真似やパクリばっかり。
「ワシはやはり『マル・デ・アホ』が良いと思うな。はるか昔、アルゼンチンという国にあったという地名で、何と言っても笑えるではないかね」
「笑えるか否かが重要ならば、わたしは『アフォバッカ』を推しますね。これもやはり旧文明時代の、南米と呼ばれる地域に実在したという村の名前らしい。村人は何も知らずに可哀そうに……」
「その系統でいいのなら、ギニアに『バカ』と『ボケ』、
「やはり、厨二病患者は誰でも知っていたという『エロマンガ』は外せない」
てな感じで全然まとまらない。
まあ、みんなが自由に意見を言える雰囲気って大事だけどさ。
で、私は、ごく軽い気持ちで言ってみた。
「ヴァルプルギス」
「「「「「ん?」」」」」
「『ヴァルプルギス』って、魔族や魔物の饗宴の日のことで、年に一度、春の訪れを告げる五月一日の前夜に集まって…」
「「「「「おおーっ!!!」」」」」
え、えっ?
「良いぞ。音の響きが」
「意味は分かりませんが、何だか恰好いい」
「さすが魔王様の御発案。迫力があって素晴らしい名だ!」
「うーん、極めて『ごーじゃす』な国名ですなあ」
「禿同!」
誰も意味の説明なんか聞いちゃいなかった。
そんなこんなで、国の名前は「ヴァルプルギス」に正式決定。
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