第5話 突撃インタビュー(転生って、いろいろありますねぇ……) ☆

 桃の中華風コンポートを食べながら、心の声さんと話す。

 うん、このデザートもなかなかの出来ださらっとした甘さと桃の旨味、それに「むっちり」とした食感!。幸せー。

 お茶を出してくれた。和朝食が出たんで当然に緑茶かと思ったら、私の作ったメニューに合わせてくれたのか、なんとこれが烏龍茶。

 そう言えば、ガイアさんはコーヒーよりも紅茶派らしいから、紅茶だけじゃなくて、いろんな種類のお茶も揃えてあるんだろう。

 熱い烏龍茶のいい香りがして、はあ、なんだかやっと落ち着いた気分。


 しかしですよ、それはそれとして、ここで私は言いたいんですよ。

 そう、昨夜の件です。

 改めて思うに、あれはちょっとないんじゃないの。

 そうですよ、心の声さん、あなたのことですよオ・マ・エ・じゃ!

 昨晩の会話の間、君はずっと沈黙していたが、いったいあれはどういうつもりかね?

 私はがっかりだよ。

 えへん、こう見えて、ワシはけっこう信頼しておったのに。

 何か言い分があれば、聞こうじゃないか。



 はあ?


(我が寝るのが大好きなのは知っておろう。一日最低9時間は寝ないと、次の日に調子が悪いのだ)


 どのあたりから寝てたの?


(ゼブルの説教が始まってすぐだな)


 だったら全く最初からじゃん!

 あのくどいお説教が延々と続いて、それから議論っぽくなって完全に言い負かされてたけど、大変だったんだからね!


(それは災難だったな。まあしかし我も、あ奴の話に付き合うのは疲れるのだ。言葉をこねくり回すからな)


 だそうだ。

 これにはさすがに温厚な(?)私も頭にきたぞ。

 よーし、まだ初仕事が始まるまで多少の時間はある。

 この際、一番気になっていることを尋ねてやる。話題が話題なので、ここはやはり、古代文化が歴史に誇る「」的に迫ってみたい。

 その厚顔無恥、迷惑千万、公共の電波(?)の無駄使いぶりをとくと見よ。


 ということでトートツですが


 はーい、こちら現場でーす。勇者テレビのアスラ子でーす。

 あ、今やっと渦中の人物である心の声さんが自宅から出て参られました朝のワイドショーのテレビの画面を想像しましょう

 早速、突撃してみたいと思いまーす。

 おはようございまーす。勇者テレビでーす。今日は何の取材に来たか、御当人の心の声さんは当然おわかりになっておられますよねえ。


(いきなり何の真似だ。我にはいったい……)


 まーたまた。心当たりがあるでしょうに。とぼけちゃって。

 今や視聴者の皆さんの関心の的は、あなたとGさんとの間柄ですよ。

 いつの間に、あんな美しい方と噂にあるような仲になられたんですかぁ?

 それに歳の差も随分とおありになるでしょうに。

 今はやりの歳の差カップルですかぁ。

 やりますねえ。

 是非是非、今日こそは率直なお話を伺いたいと思いまーす。


(だから何を言っておる? Gさんとは誰の事だ?)


 おーや、はっきり言ってよろしいんですか?

 だったら言わせていただきますよぉ。

 (一応小声で)ガイアさんですよ、ガ・イ・アさん。

 いったいどういう御関係なんでしょう?


(ああ、その事か。まあ、今となっては話しても良いだろうが、我がガイアを育てたのだ)


 え、父親なんですか!?

 これは意外、驚きですねえ。

 しかし、そうすると、いわゆる 近親相姦あってはならない関係 ということになりますねえ。

 ますます大変なことになりますがぁ。


(近親? 大変な事は何もないぞ。ただ、血の繋がった父親ではないが、ある時期までの育ての親というだけだ)


 ほーお、あくまでただの父親代わりだと言い張られるわけですかぁ?

 それにしては、ガイアさんの態度が気になりますねえ。

 もっと、ではないかと、当然、誰もが思ってますよ。

 もっと正直に話して頂かないと困りますねえ。

 視聴者の皆さんは却って、あらぬことを勘ぐってしまいますよぉ。


(ある時期からは、勇者パーティーとして一緒に旅をしておったな)


 え、勇者だったんですか?


(そうだぞ)


 これは初耳ですねえ。

 それで、旅をしながら次第に深い仲にというわけですかぁ?


(それはないぞ。ガイアが成人する頃には、我は火あぶりになってしまったからな。ティア婆から聞いたであろう)


 そ、そうでしたねえ。


 でも、


(我のやったことに対する意図的な曲解と罪の捏造ねつぞうだ。教会と王侯貴族の脅威となる者に対しては頻繁にあることよ。ただし勿論、我は決して自らに恥じるような事はしておらんぞ)


 弁明はなさらなかったんですかぁ?


(法廷ではしなかったな。弁明などしても素直に聞く相手ではない。陪審員までもがグルなのだ。最初から我を罪に陥れるのが目的の相手に、弁明などしても無駄に決まっておる。裁判の記録も自分達に都合の悪い部分は抹消よ。我は無駄な事はせぬ主義なのだ)


 せめて民衆には?


(それはしたぞ。処刑の日、何万人という群衆が集まった国一番の広場でな。いたる所に花々が飾られ、華やかな音楽が演奏され、まさに祭典であった。知っての通り、戒律の制約のせいでヒト族の国には娯楽が少ない。それで、異端者の処刑の日こそが最大の祭りという訳だ)


 おお、盛大ですねえ。


(まず司祭が説教をし、次に我の身柄を官憲に下げ渡す。まあ、自分達は直接手を下してはいないという事を示すための偽善的儀式だな。それから世俗の責任者が、でっち上げた我の罪状を長々と読み上げ、最後に何か言い残す事はないかと聞く。ここで懺悔ざんげしたって、どうせ許す気はないのだが、せめて罪を悔いた後で処刑されれば魂が救われることもあるかもしれぬ、その機会を与えたと、慈悲の格好をつけたいのだ。全くの茶番よ)


 あらら、それは陰険、姑息こそくな。


(そこで我は広場の隅々まで聞こえるよう、大声で言ったのだ。自分の罪とされる事件は全て我の側にはそれを為すに正当な理由のあった事、非は相手側にある事、多くの罪状は捏造である事、そして真なる神は美食を禁忌、異端とはされていない事を。

 まあしかし、教会の歪んだ教えに洗脳され切っておる者たちの、どれだけが話をまともに聞いていたかは疑問だが。すると、慌てて指示された処刑人が、我をくくり付けた柱の周りにうず高く積まれた薪の束に油をかけ、火をつけた)


 …………。


(炎熱無効、痛覚無効の能力もあったが、あらかじめそれらは解除しておいたのだ。…… どうした、この辺りが一番良いところなのに。何か、額など押さえて気分が悪そうだが?)


 ええ、まあ、なんだか今朝の味噌煮にしたワイルド・ボアの蒸し焼きとか、昨日の羊の丸焼きを思い出したり、これからしばらくローストビーフが食べられなくなりそうな気がして…… もうこれ以上の詳しい描写を聞くのは遠慮しときます。


(そうか。折角なのに残念だが、まあ良かろう。とにかくその様にして我は死んだのだ)


 なぜ逃げようとしなかったんですか?

 その気になれば、簡単に逃げられたでしょうに。


(めったにない経験をする良い機会だったからな。それに、どうせ転生すると分かっておれば、死ぬのも別段どうという事もない。旧世界の殉教者と呼ばれる者たちも、死後は神の国に入れると信じていたからこそ、敢えて棄教ききょうせずにはりつけや火あぶりを選んだのだ。我の場合も、復活を信じていたという意味では似たようなものよ。

 それに、どうせガイアもゼブルも、おそらくはティア婆でさえ知っている事なので話すが、我はそれまでにも様々な生き物に転生し、つまりは色々な死に方をしたからな。その中には、火あぶりよりも、もっと悲惨なものもあったぞ)


 その前があるんですか!?


(勿論だ。生命エネルギーは循環する。大抵の者が前世の記憶を失っているというだけの事だ。我は覚えているがな。転生するようになってから、そうだな、およそ8200年になるか)


 8000年!

 あ、それ、前に聞いた。冗談じゃなかったんだ。

 ふぅ、あなたたちは、軽ーく300年とか3000年とか8000年とかおっしゃいますが、普通の人間である私たちや視聴者の皆さんにとっては、想像もつかない世界ですねえ。


(鳥や獣などの、人間以外の動物に生まれた事も何度もあるぞ。特に転生を始めた最初の頃は)


 いやいや、もう驚かない。驚きませんよお。


(一番寿命の短かったのはだった時だな。生まれて1週間で魚に食われたのだ)


 ミジンコ? 1週間!?


(何を驚く? ミジンコも生物だぞ。転生することがあっても何の不思議もない。それに、ミジンコの一生なんてせいぜいそんなものか、長くて2週間あまりだ。魚の餌になってしまうのも至極当然の事だぞ。水と一緒に丸飲みされて、腹の中で溶けていくのだ。あれは珍しい経験だったぞ)


 う、その話はもういいです。


(ウミガメに転生した時は割と長生きしたぞ。普通は70年から80年の寿命らしいが、我は特別に長寿でな。120年程も生きたであろうか。おかげで身体の方も大きく育ち、終いにはちょっとしたサメも襲ってこれない位の堂々たる体躯よ。まあ、その海域の言わば「ぬし」であった)


 お、少し、かっくいーかもですね。


(このままどこまでも育って、寿命も体格もウミガメ界の記録を作ってやろうかと思っていたのだが、そうは上手くいかぬものよ。近隣の漁師に有名になってしまい、数人がかりで網で捕らえられたのだ。ウミガメからは良いスープが取れるしウミガメのコンソメはフレンチの宴会料理では最高級のスープだそうです、肉もシコシコして美味だからな。まあ、スッポンと同じようなものだ)


 あらまあ、それは大変。


(普通はまず首を落として殺してしまってから料理をする。暴れるとそれだけ味が落ちるからな。ところが我の時は料理人が未熟だったのか、何を考えたか、。最初はじんわりと熱が伝わって、ゆっくりと熱湯になり、まあその熱かった事、長く苦しかった事。あれと比較すれば、火あぶりなど全然マシだ。さすがにもう二度とあんな目には遭いたくないぞ)


 う…………


(タコだった時は、長いあいだ餌が見つからず、自分の足を食べた事もある。これはさすがに自らの肉であるから味覚にも合致して人肉が実は人間には最高に美味しいって言いますけど……、意外と旨いのだ。ただ、他のタコに味覚などあるかどうかは分からぬが)


 げげげ。


(鳥や獣だった時も、人間に捕らえられて……)


 心の声さんの体験談は更に続いたが、私はもうなかば聞いてはいなかった。

 火あぶりの件はもちろん衝撃だったが、他の動物に転生した時の話にも考えさせられるところがある。肉や魚にしろ、野菜にしろ、人間は生物を食べて生きてるんだよねえ。鏡をのぞいて自分の歯を見ても、野菜を食べるための門歯があったり、肉を引き裂くための犬歯があったり。

 魚や野菜は痛みを感じないからいいんだベジタリアンの人は言うよね~って考え方もあるけど、生命を美味しく頂いてるのは一緒なんだよね。罪深いなあ。

 それに、そんな死に方をした経験を豊富にお持ちなら、火あぶりにされるのにもそれ程の抵抗感はないって、わかるようなわかんないような結局どっちなの?(作者・談)


 あ、そう言えば、結局ガイアさんとの関係については、上手いことはぐらかされた気がするぞ。

 うーん、この野郎、さすが8000年。

 突撃インタビュー不発。残念。

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