第22話 Our Compliments to the Chef, and … (料理長に我らの賞賛を、そして…) ☆☆

 料理を終えてお客さんたちの所へ行く。

 おお、わざわざ立ち上がって拍手喝采スタンディング・オベーション?で迎えてくれたではないですか。

 苦心した甲斐がありましたやったーっ!

 でも、あーらら、案の定ドワーフさんたちは相当に酔っぱらってるみたいだ。顔が真っ赤っか。


 ティアお婆さんやガイアさんと同じテーブルに座って話す。

 ちょうどデザートの途中だったので、私もチーズやフルーツを食べながら。


「いやあ、予想以上に旨かったわい。儂はまず最初の『タタキ』でびっくりしたのう。牛肉の『サシミ』ではなく、軽く火を通してある絶妙のレア加減じゃったな。それに、あのソースは何じゃ? 今までに味わった事のない種類のものじゃったが」

「あれは、『ショーユ』っていう大豆で作ったソースに近いものを、味噌の上澄みを使って作ったんです」

「ほう、あれが『ショーユ』か。話には聞いていたが、作り方までは知らなかったのう。味噌と同じく大豆から作るのかえ?」

「そうです。だから味噌の上澄み液は、その原型みたいなものですね。『ショーユ』は旧文化では最も肉に合うソースだって言う人もいたみたいです。作り方は、補助をしてくれた竜人さんが知ってるから、その人ならこれからも作れますよ。おサケも自家製で作ってるぐらいなら、もっとちゃんとしたショーユも作れるかも」

「おお、それは嬉しいわい。早速、皆に命じて試してみようかのう」


「妾は『ウニトースト』がいたく気に入ったのじゃ。ウニというものを食べたのも初めてじゃが、バターを塗ったトーストに、いその風味のするウニがあんなに合うとは驚きじゃったぞ」

「ウニもパンも新鮮で良質のものがありましたから。今日は生ウニにしましたけど、少しあぶって焼ウニ風にすると、ますます磯の香りは立つし、独特の癖やねっとり感が薄まって、慣れない人でもイケると思います。ウニは気味悪がる人も多いけど寿司好きの欧米人でもウニだけはダメって人が多数です、旧文化の『二ホン』では高級珍味だったそうですよ」


「ワタシは、なんと言っても『ロブスターのビスク』が美味しかった」

「「「うんうん」」」

「あんなもの、アスラは今までワタシたちに食べさせてくれたことがないのだ」

「だって、いい材料が手に入らなかったでしょう? ロブスターはやっぱり北の海で獲れたものが身も締まって臭みもなくて味も格別で、南のものは質が落ちるから。上質の材料が手に入らないのに、無理に作ってもねえ。でも今日はロブスターも生クリームも完熟トマトも、凄くいいものがあったんで……」

「あれは吾輩も旨いと思ったのである」

「え、食べたの? 猫舌なのに」

「匂いがあまりに良かったので、魔王様にねだって小皿に少し分けてもらったのを、勿論もちろん冷ましてから食したのである。いやあ、猫まっしぐらの味皿までペロペロであった」

「ああ、冷たいスープならだいじょうぶなわけかあ。だったら、いっそ最初から冷製スープのつもりで味を整えて作ったなら、もっと美味しくできたかも。料理の温度によって、同じ味でも濃く感じたり薄く感じたりと違ってくるんだよね」

「そうなのであるか?」

「うん。でも、どっちにしても、猫には人間と同じ味加減は塩分の摂り過ぎで毒だけどね」

「吾輩はそんじょそこらの只の猫ではないどういう意味? 喋るのと空間使いである以外は、まだ内緒ので、その点は大丈夫なのである」


「俺はやっぱり鰻かな。サーモンも旨かったけど、鰻のあのコッテリ感が堪らないっすねぇ。客の前で焼いて見せる、あの演出と匂いも最高っすよ」

「儂も鰻には感動したわい。鰻という魚がいるとは知っていたが、この辺の海や川には居らんしのう。それがあんなに美味じゃとは。香ばしい匂いも、『タレ』の甘辛い味も、何か、の心を根源的に惹きつけるものがあるわい」


「あの料理は『』といって……」


「妾は最後のトナカイのステーキにも感心したぞ。野趣のある風味もじゃが、そこにあのソース、特にジャムを合わせたところが乙女や『ぎゃる』の味覚と心をソソるのじゃ」


 料理の名前、誰も聞いてくれないんですけど。

 、うなぎなう、鰻なう、unagi nowウナーギ・ナァウ

 名前ガ一番ノ自信作ナンデスケド……


 ちょっとがっかりしていると、ここでティアお婆さんが、なにやら難しい顔をして言う。


「しかし、これをヒト族に食べさせたら大変な事になるのう」


 え、大変なこと?

 私が「異端」だってとがめられるのはもちろん承知の上だけど、それ以上に大変なことが何かあるのか?


「何故であるか、ティア婆様? 吾輩の聞くところではヒト族には味覚が無いそうである。どれ程の美味でも、それを感じる器官を持っていなければ、何の影響も及ぼさないのである」

「確かに大半のヒト族はそうじゃの。味覚を有しておらん。しかし、稀にこのお嬢ちゃんの様に、生まれながらに優れた味覚を持った者が現れる。これは決して表沙汰にはされないが、皆が薄々知っておる事実じゃな。それに」


 お婆さんは、ちょっと考えるようにしてから続けた。


「美味なるものを食べ慣れることによって、次第に味覚が発達してくる者も居ろう。そこの戦士さんと賢者さんのようにな。

 徐々にそのような者が多くなっていけば、教会の教えの支配力は怪しくなり、それを後ろ盾とする王侯貴族の権威も失墜しっついするじゃろう。終いにはヒト族の社会全体が引っ繰り返るぞ。これ程の美味なら尚更じゃ」

「妾はそれを目指しておるのじゃ。美食によって平和裏に、ヒト族のひとりよがりな権威を打倒し、魔族とヒト族の不毛な争いに終止符を打てるのではないか?」

「ふむ、それはルシフェルも考えなかった事じゃな。あ奴は、自分で美味しいものを作り、美味しいものを食べ、周りの者にも食べさせる事には熱心じゃったが、それで魔族とヒト族の関係をどうこうしようとは、少なくとも儂はあ奴から聞いた事がない」

「そうじゃろう。これは妾の発案じゃ」

「面白いな。そういえば、ルシフェルに連れられて来て、ガイアが初めて儂と会った時は、まだ、今のお嬢ちゃんの様な細っこい小娘じゃったのう」

「ほっそりとした、はかなげな美少女と言え」


 あれ? どこかで聞いたような。

 ふーん、そうなんだ。ガイアさんもねえ……


(おい、何を考えている?)


 別にぃ。


「で、ルシフェルじゃが……」


 お婆さんは私をじっと見て、それから


「アスラちゃんだったな。


 えーっ! 何ですとぉ!!


(…………)


「ティア婆も、やはりそう思うか。ゼブルもそう言っておるのじゃ。妾も今では確信しておる」

「ああ、ゼブルなら、あ奴とは古い付き合いじゃから分かるじゃろう。このお嬢ちゃんからはルシフェルと同じ気配がする。魔力も同質じゃ。まあ、料理はルシフェルのものより少し上じゃったが、これも同質じゃ」


(ぶすーっ!)


「しかしゼブルが妾に言うには、ルシフェルは確かにアスラの中に居るが、まだその人格が表面に現れてはいないそうなのじゃ」

「儂が感じるに、それは違うぞ」

「どういう意味じゃ?」

「不完全な転生なぞではない。ルシフェルは既にアスラちゃんの中で目覚めておる。この嬢ちゃんはきっと心の中で常々、ルシフェルと対話しておる筈じゃ。そうじゃろう? 自分の意識とは違う別の誰かの声が心の中で聞こえてはおらぬかえ?」


 私は唖然として、でも、その通りだとうなずいた。


(このクソ婆、カンが鋭いのを良い事にベラベラと。だから我はここに来るのは気が向かなかったのだ)


「ほーらみろ。儂の言う通りじゃろう。2つの全く別個の自我を備えた転生体とは世にも稀な偶然か、それとも、の深遠なる御計らいか」

「それで、転生体ということは、そのルシフェルっていう人は一度死んだんですよね」

「勿論そうじゃ。死ななければ、転生することは出来ないじゃろうて」

「どうして死んだんですか」



「「「えーっ!?」」」

「まあ、その辺の詳しいところは、儂よりもガイアの方が良く知っておるから、後で聞くことじゃな。ただ、先刻感じた創造の魔力じゃが」

「妾の城からこれ程に離れていながら感じたのか?」

「当たり前じゃ。あれだけ強力で特殊な魔力なら、儂でなくとも感知する者が居るじゃろうて。その者達がどのような動きを見せるか気をつけることじゃな。儂も何か起こったり気付いた事があれば、すぐにお主に知らせようて」

「うむ、ありがたい。妾も充分に気をつけよう」


 そしてガイアさんは言った。


「よし、決めた。妾はやはり魔王を辞めるぞ!」

「え⁉ 魔王様、唐突にそんなことをおっしゃっても、吾輩には何が何やら?」

「妾の次の魔王は」


(…………)



「「「「ええ―――っ⁉⁉⁉」」」」(ティア婆以外、全員合唱 (笑))




・・・・・・・・・ ◇◇◇・・・・・・・・・




 なんと、勇者が魔王に指名されるとは!

 とりあえず第1章終了。

 「面白い」と思って下さった方は ★ なんかポチっと押して下されば作者は感謝感激です。


 第2章は短いけれどシリアスな教会史。

 ヒト族と魔族の因縁の起源を語ります。

 その後、第3章はまたコメディーと、更なるバトル満載です!

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