第23話:再会
石柱の間を通る時、ミモリは何だか不思議な感覚を覚えた。
振り返ってみると、まだそんなに離れていない筈のマジルが、とても遠くに見えた。少し滲んだ様に見えるマジルは、何故だかキョロキョロと左右を見回している。
ミモリは、寒気を覚えて身体を縮こまらせた。
洞窟の中の空気は凛として冷え切っているが、ミモリにはそれだけでは無い様に思われた。
『着いたね、ミモリちゃん』
「風さん? ここ、何か凄く寒くて。どうにかならない?」
『うん。ミモリちゃん達一族以外の人達が、簡単には入って来られない様にこうなっているんだ。少し、力を貰うね』
「あ、うん、温めて!」
返事をしたミモリは、フッと少し力が抜けた様な感覚がした後、回りの空気が温まって行くのを感じた。
「そっか、だからマジル君は入って来れなかったんだね」
『うん。温められているのも、君の周り薄皮一枚分って云う感じだから。彼も居ると、その分君の力の減り具合が速くなって、多分持たなくなっちゃう』
「そうだね。……待っていてくれるマジル君の為にも、目的を果たして帰らないと」
『その意気だよ、ミモリちゃん!』
そしてミモリは、鍾乳石にぶつからない様に気を付けながら、洞窟の中を奥へと進んだ。
暫く進んだ所で、ミモリの前には地面全面に広がる沼が立ち塞がった。
「これは、……もしかして、大地さん?」
『そうですわ。良く分かりましたね、ミモリちゃん』
「じゃあ、通れる様にして!」
『勿論ですわよ。ただ、全てをどうにかしようとすると矢張り力を使い過ぎてしまうので、貴女の足元だけね』
「うん、よろしく」
そう言ってミモリが沼地に足を踏み出すと、ミモリの足元にだけ確かな足場が出来た。
もう一歩、もう一歩と進み、遂にはミモリは沼にはまる事無く沼地帯を通り過ぎた。
ミモリが振り返ると、既に足場は消えていた。
「ありがとう、大地さん」
『もっとワタクシを頼ってくれても宜しいんですのよ? 例えば、あのタケル君とか』
「だって、タケル君は気付いた時には転んでいるんだもん」
『ふふ、そうですわね』
大地と笑い合ったミモリは、そして洞窟を更に奥へと向かった。
そうして、幾つかの侵入者除けの罠を力を使う事で越えて行ったミモリは、やがて、今までとは違って天井が高くなっている広い場所に辿り着いた。部屋と言っても良いのかも知れない。
「……何、ここ。キラキラしていて、凄く綺麗……」
部屋に足を踏み入れたミモリは、その幻想的な光景に恍惚とした表情を見せた。
ドーム状の部屋のそこかしこに鍾乳石が上へ下へと伸び、至る所で光が瞬いている。
そして中心にはつらら石と石筍に囲まれた空間を、玉虫色に輝く円柱状の光が埋め尽くしていた。
「これ……」
ミモリは一歩一歩確かな足取りで進み、やがてその光に触れた。
何故だか、迷いは生まれなかった。
すると、ミモリが光に触れた途端、光の中に、一対の男女の姿が象られた。
「お父さん! お母さん!」
それは、ミモリの生みの親、マモリとミノリの姿だった。
「なんで? ここは何なの?!」
『ここはね、世界の全ての記憶、意識、そして僕達の力が集まっている場所だよ』
ミモリに、話し掛ける声。
「風さん?!」
『そして、君のご両親のマモリ君とミノリちゃん、それにご先祖様達がずっと昔から護ってきた場所なんだ』
「……そうなんだ」
風の説明に、ミモリは何故だか納得が行った。
「じゃあ、大きくなったら連れて来てくれるって言っていたのは……」
それはミモリの小さい頃の、両親との約束。
『うん。ここを護るお役目を継がせる為だろうね』
「私に、ここを……」
『ミモリちゃん?』
「うん、分かってるよ」
ミモリは風にそう返すと光に触れ、力を注いだ。これまで何百回、何全快と繰り返して来た様に。
「……ミモリ、大きくなったな」
「お父さん……」
喋り出したマモリの像に、ミモリは涙を浮かべた。
「ミモリ、ごめんね。一緒に居られなくて……」
「お母さん……」
もう顔を涙でぐしゃぐしゃにしたミモリは、二人に飛び付きたくなった気持ちを、ぐっと堪えた。それが出来ない事は、分かっていた。
「ううん、あの時お母さんが庇ってくれなかったら、私、死んでいたんだもん。生んでくれて、育ててくれただけでも充分だよ。ありがとう。それにね、今はマジル君達と再会できて、同じ村に住んでいるんだよ!」
「そう、それなら良かったわ」
――とその時、新たに3つの像が現れた。
「……う、そ……」
それを認めたミモリは思わず、膝を落とした。……それは、ミモリの二番目の親のタケルとサリナ、それに、ハヤトだった。
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