第21話:旅路・2


「おはよう、マジル君。昨日は、よく眠れた?」

 宿屋併設の食堂で宿泊に付いている朝食を摂りに来たミモリとマジル。

 ミモリは、向かいに座って眠そうに欠伸をしたマジルを揶揄う様に言った。

 ここではミモリは顔を晒している。宿のスタッフにも、利用客にも、顔見知りは居なかったからだ。

「んん、余り……」

 答えながら、マジルはショボショボする目許を押さえた。

「今日からは基本的に馬車で走り通しだし、交代で休みながら行こうか。私も、馬車の扱い位は出来るし」

「でも、それだと……」

 ミモリの提案に、煮え切らない言葉を返すマジル。

「毛布とかも積んであったよね?」

「あるけど……」

 不満気に頬杖を突いて、ミモリから顔を背けたマジル。

「ああ、私が隣に居ないと寂しいのか」

「っ! 良いよ! 交代で行こう!」

 ミモリが再度揶揄うと、耐え切れなくなったマジルは、顔を真っ赤にして立ち上がりながら叫んだ。

 そんなマジルに、何事かと、疎らな客の視線が集まった。

「うん、決定!」

 丁度そこで朝食のプレートと小皿が運ばれて来たので、ミモリは嬉しそうに、小皿のサラダから食べ始めた。


「でもさ、何で眠れなかったの? マジル君って、寝付き悪い人?」

 昨日さくじつと同様に帽子と布で顔を隠したミモリは、前を黙々と歩くマジルに訊ねた。

「いや、いつもはそんな事は無いけど……」

 マジルはチラリと後ろのミモリを一瞥し、また黙って歩き出した。

「……そう。ちゃんと寝てね……」

 そんなマジルに、ミモリは心の中で謝った。



 途中で当日分の食糧を買った2人は、拘束を解いた馬の食事も済ませた。

 先ずはミモリが御者台で馬を操り、マジルが荷台で寝る事になった。

「マジル君、今日急いだら、何処まで行けると思う?」

「ええと……。この川を渡った所に在る、3つ先の街位かな」

「そう、……良かった」

「……そうか。じゃ、最初は頼んだ。余り遅くならない様に気を付けてな」

「うん、任せて! お日様が真上に行った位になったら起こすから、ご飯を食べようね」

「ああ、頼む。じゃあ、休ませて貰うわ」

 そんな会話を交わし、それぞれに乗り込み、東への旅を再開した。

 ペラペラの毛布を敷いた位では荷台の硬さは如何いかんともしがたいが、マジルはそんな事は関係無く直ぐに眠りに落ちた。


 旅路を急ぐ馬車に揺られながら、マジルは夢を見た。

 新天地で頑張ろうとしたミモリが、迫害を受け、行く街行く街、追い出される夢を。

 思い切り手を差し伸べて、マジルは目を覚ました。そして、仰向けに寝転がったまま天井に向かって真っ直ぐに手を伸ばしている自分に、失笑した。

 そして、彼は改めて誓った。


 ――この旅の結果がどうなるかは分からないが、自分だけは、ミモリの味方で居ると。

 

 そして、――必ずミモリを守ると。

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