第20話:旅路・1


 ミモリとマジルを乗せた馬車は、野を越え、森を越え、東に真っ直ぐ順調な旅を続ける。

 この日の昼は、マミがパンに野菜や燻製肉のスライスを挟んだ物を持たせていたので、川のほとりで馬車を停め、暖かな日差しの中、マミに感謝をしながらそれを愉しんだ。


 そして陽が沈み掛けた頃、街の様な外壁が見えて来た。

 マジルが手綱をおさえると、馬車はゆっくりと動きを止めた。

「このまま出ても暗くなって危ないから、ここで宿をとって行こうか」

「うん……」

 マジルの提案に、ミモリは表情を曇らせた。

「どうした? もっと進むか?」

「あ、ううん、泊まるのは良いんだけど、……何か顔を隠せる物、有ったかな?」

 御者台から荷台に移ったミモリは、自分の荷物を解いてはみたが、それらしい物は見当たらなかった。

「これだったら首元に巻いて口許まで位なら隠せそうだけど……」

 大きな布を、ミモリは首元に巻いて見せた。

「ああ、じゃあ、これはどうだ?」

 そう言ったマジルは荷台に乗り込み、自分の荷物からの広い麦藁帽を取り出した。

「あ、それ良い! でもマジル君、何でそんな物を?」

「いや、母さんが持たせてくれたんだ。『日差しが強い時とか、ミモリちゃんに被せてやりな』ってね」

「あれ? ちょっと真似した?」

「あ、ああ——」

「似てるね! 流石親子!」

「そ、そうか?」

 ミモリに褒められ、照れるマジルであった。


「——どうかな?」

 布で口許を隠したまま帽子を目深に被り、ミモリはマジルに訊いた。

「うん、可愛い」

「じゃなくって!」

「冗談だって。……俺はこれがミモリだって知ってるからアレだけど、そうでも無ければミモリには見えないだろうな」

「ん、ありがと。なら、これで行こうかな」

 ミモリは満足気に頷いたが、マジルからはその表情は確認出来ない。

「でもどうしたんだ? そんな事を気にするなんて」

「私、前にここに住んでたんだけど……」

「あー、そっか。悪い、それ以上言わなくて良い」

「……ん」

 マジルはミモリのその反応でその理由を察して、ミモリの前を馬を引いて歩き出した。この街は、以前住んでいた時にミモリがその力を見せて、迫害されて追い出されていた街だった。


「——でも、そんな事が有ったのに、何で俺らの村では力を見せてくれたんだ? 結果的に皆も受け入れてくれたけど、また追い出されるかも知れなかったのに」

 馬を指定の場所に繋ぎ留めながら、マジルは疑問に思った事をそのまま口にした。

 これがこの男の悪い処であり、良い処でも有る。

「……3つ、思っていた事が有ってね」

「3つ?」

 繋ぎ終えたマジルは、以前来た時の記憶を頼りに、宿に向かって歩き出した。

 ミモリも三歩下がって目立たない様に、マジルの後ろに隠れる様について行く。

「うん、3つ。1つ目は、或る程度住んでから力の事で追い出されるなら、最初に見せて判断して貰った方が気持ち的に楽だって思った事。2つ目は、こういう大きな街に比べて、長閑のどかな村だと割と受け入れて貰えて来たっていう経験則。それで、3つ目は……」

「3つ目は?」

「——マジル君が、庇ってくれるかなって思ったの」

 思わず立ち止まって振り向いたマジルに、ミモリはを押し上げて、目で笑い掛けた。

「そ、そうか……」

 口許をムズムズさせたマジルは、再び前を向いて歩き出す。

「マジル君?」

 しかし、その手を力強く掴まれた所為で、進む事は叶わなかった。

「……な、何だよ……」

「宿、ここだよ?」


 偶々2部屋空いていたので、2人は別々の部屋に泊まる事が出来た。

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