第16話:両親


 “マモリおとうさん”と、“ミノリおかあさん”。

 それが、ミモリの最初の、——実の両親の名前だった。

 ミモリは2人を大好きだったし、マモリもミノリも、ミモリをいたく可愛がった。


 当時の、未だ何も分からなかった小さな頃の自分なら、2人にそう云う顔が有っても分からなかっただろうと、ミモリは思った。


 そして、想いを巡らせた——。


   ✙✙✙


「ごめんね、ミモリ。今日はお父さんとお母さん、大事な御用が有るから、マジル君の所で遊んでいてくれる?」

「ええっ?! ミモリもついていく!」

 自分を置いて家を出て行こうとした母親の足元に取り付いた5才の頃のミモリはブルンブルンと首を横に激しく振った。

 すると、そんなミモリの小さな身体が、ヒョイと高く上がった。

「ミモリ、ごめんな。未だ連れて行く訳にはいかないんだ。今日はマジル君と遊んでいてくれ。な?」

 マモリは自分の左腕にミモリを座らせて、その小さな手を握りながらお願いをする。

「……うん……マジルくんとこ……いく……」

「帰って来たら、いっぱい遊ぼうな!」

「うん! やくそく! ゆびきぃ!」

 寂しげな顔を一気に綻ばせたミモリが出した小指に、マモリは自分の小指を絡めた。


   ✙✙✙


 ——ハッとして、ミモリは大きく目を開いた。

「……そう言えば、お父さんとお母さんが出掛ける事が有って、マジル君の所に遊びに行かされていた事が有ったな。いつものお出掛けの時は連れて行ってくれたけど、“大事な御用”って言っていただけは、どうしても連れて行ってくれなくて」

「そうなのか?」

 ミモリの告白に、顔を歪めながら問い詰めるマジル。

「……あっ、マジル君の所に遊びに行くのが嫌だったって訳じゃなくてね? マジル君に会うのも一緒に遊ぶのも楽しかったよ?」

「おっ、ふっ、うん、それは良いんだけど……」

 とは言いつつも、満更でも無いマジルであった。

「そう? 何だか変な言い方になっちゃったし、気にしてそうだったけど、なら良かった。……と、それでお父さん達の“大事な御用”の話なんだけどね。今、ふと思い出しんだけど、いつも出掛ける前に『大きくなったら、ミモリも連れて行くからな』って言っていたの。これって……」

「ふぅむ……」

 腕組をしたヤマトが唸った。

「ミモリちゃんは毎日の様に遊びに来ていたけど、偶に、わざわざ『ミモリをお願いします』って挨拶して行った時が有ったなぁ」

「有ったねえ。確か、7日に1回位だったかね。……若しかして、その時はその“大事な御用”だったってのかい?」

 ヤマトの意見に、驚いた声を上げたマミ。

「まあ、今となっては確認は出来ないし、それが何かの管理なのか、会合なのか、全く見当は付かないがな。可能性は有るんじゃないか?」

「ちょっと飛躍させて考えると、小父さんも小母さんもミモリと同じ力を持っていて、いずれミモリが受け継ぐ予定だったとか?」

「それはいきなり飛躍し過ぎな気もするけど……、無くは無いかねえ。確認する方法が有れば良いんだけど……」

 ヤマトもマミもマジルも、考えに没頭して黙りこくってしまった。


 ——パン!

 静かになった食卓に、破裂音が響き渡った。

 ミモリが思い切り手を叩いたのだ。

「え?」

「あら?」

「うえぇ?」

 マジルとその両親は我に返って、ミモリを見た。

「ごめんなさい! 折角のご馳走が冷めちゃいます! 早く食べましょ!」

 ミモリは3人の視線を無視して、肉を切り分ける。

「まあ、当のミモリちゃんがそう言うなら……」

 ヤマトとマミとマジルの3人は、納得は出来ないながらもそれぞれ目の前の自分の皿に手を付け始めた。


 未だ少しばかりの温もりを保っていたマミが腕によりを掛けた料理達は、香ばしい匂いを立ち上がらせた——。

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