第13話:村の一員として
マミが作った朝ご飯をそのまま一緒に食べたミモリは、マジルの仕事について行った。
この村の主要産業はミモリの想像通り林業で、村の直ぐ傍にある森の入り口に作業者の為の小屋が有り、人々が挨拶を交わしていた。
小屋に集まる人々は、順番にミモリに挨拶して行った。
「ありがとね、マジル君」
「良いって。大切なのは、ミモリの身体だろ」
お礼に返されたその言葉に、ミモリはドキリとした。
そして、それを圧し殺して見なかった事にした。
この日の仕事は、前日に伐採した場所の後処理だった。
マジルについて、山を登って行くミモリ。
「ミモリ、大丈夫?」
時々振り返ってマジルは心配するが、ミモリは野山を這いずり回った経験に依り、ややもするとマジルよりも山歩きは達者だった。
何よりもミモリは、いざと云う時には文字通り大地に包み込んで貰える。
高い木々の葉っぱに遮られた日差しが、不意に降り注いで来る。
ミモリは手で庇を作りながら、眩しそうにそれを見上げた。
村から村、集落から集落へと渡り歩いている時にはどうにも心中を不安で包み込む日差しも、皆で居る時だけは、ミモリのその心を癒してくれる。
(今迄のどの村にだって、私はずっと居たいと思っていた……)
先程、朝食の前にマジルが言おうとした言葉を思い出し、心の中で、万物の創造主たる太陽に話し掛けた。
『ずっと居たい』——しかし、ミモリの今迄のこの想いは、ずっと叶わないままだ。そもそも、叶っていたら今、ここには居ない。
(だからもう、私はそれを望まない。ただ、生きていたい。願わくは、私の周りの皆も、健やかで居られる様に)
ミモリの足に当たった小石が、コロコロと坂を駆け下りて行った。
翌日は、マミと一緒に仕事に出るマジルを見送り、マミと一緒に村の中の事をした。
村に残っているのは殆どが、林業に従事するには力の足りない女性や老人達、食堂等の店を開いている者、林業では無く畑作等の農作業に従事する者。それに、怪我や風邪等で療養している者等であった。
そんな中でミモリは基本的にはマミに付いて、農作業をしている者達に食堂に用意された弁当を配ったり、集会場で行われた村の経営会議に顔を出したりした。
林業だけでは、ほんの少しの天災でこんな小さな村等は窮地に陥ってしまうので、第2の矢をどうするのかを話し合う会議であった。農業も、空いた土地と人材を活用する為の手段でもあった。いざと云う時、備えが有れば直ぐに立ち行かなくなると云う事は無い。
それは裏を返せば、備えが無ければその時点で座して死を待つしか無くなると云う事で、リスクを分ける事は即ち、この村の存亡の礎であった。
尤も、この村に来て日の浅いミモリは、特に意見は出せなかったのだが。
会議の間中、連れて来られていた小さなタケルは元気に走り回り、皆、それを自分の子供を見る様な優しい眼差しで見守っていた。
暗くなる前に水浴びをしたミモリは、マミに誘われて3人で夕飯を食べてお喋りに華を咲かせた後、自宅に帰って寝る前に大きな窓から吸い込まれる様な夜空を見上げた。
「おとうさん、おかあさん、それにタケルお父さんとサリナお母さん。私、この村では受け入れて貰えたよ。マジル君一家が居てくれたお陰も有るけど、最初に力を見せたのも良かったみたい。今までの村でも何度か、後になって止むを得ず力を披露した時に裏切り者だの魔女だのって言い出して追い出された事が有ったけど……。そうそう、タケルお父さん! ここね、タケル君って云う、小さい男の子が居るんだよ! ……私、その子は何が有っても守ろうと思うの……」
笑顔で話し掛けるミモリに、しかし、夜空は何も答えなかった。
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