第11話:ミモリの歩んできた道・7/帰村


 安全の為にと日が昇り明るくなってから村に戻った2人は、村の入り口に集まっていた人々に、涙ながらに迎えられた。

 そして2人に何にもない事を見届けると、ミモリとハヤト、ハヤトの両親、ミモリの両親であるサリナとタケルを残して三々五々帰って行った。

 遅くならないと云う約束を違えてしまったミモリとしては、酷く叱られる事を覚悟していたのだが。


「良かった、無事に帰って来てくれた……」


 ミモリの肩に顔を埋めながら、サリナはしみじみと呟いた。

 そんな2人を、タケルは「いや、良かった、良かった」と横から抱き締めている。


「心配させてしまってごめんなさい……」


 自然と、ミモリの瞳からも涙がボロボロと零れ出した。

 

「でも、どうしたんだい、こんなに遅くなって」

「それは……」

「……俺の所為なんです」


 タケルに問われたミモリがどう言ったものかと躊躇った時、近付いて来ていたハヤトが口を挟んだ。


「どう云う事?」


 ミモリの身体から顔を離し涙を拭いながらハヤトに訊ねる、サリナ。


「俺が崖から落ちちゃって……。それで、……遅くなっちゃったんだ……」

「……え? でもハヤト君、怪我して無いよね……? 服は何だか擦れたりしているけど……」


 ハヤトを見る皆の目が、丸くなった。

 ミモリはただ俯いて、横目にハヤトの動向を伺っている。


「うん、何か運が良かったみたいでさ。打ち所が悪かったら死んじゃってたかもね」


 悪びれずに笑い出したハヤトに、サリナはそれ以上の追及の手を止めた。


「……ミモリ、ハヤト君に何かされたとかじゃない? 大丈夫?」

「何かって、何?」

「……ううん、何でもないの。とにかく、無事で良かったわ。お腹減っているでしょ? ご飯にしましょ」


 そしてミモリの背に手を当てて歩き出そうとしたが、ミモリは「ちょっとだけ、待っていて」とその手から逃げ、ハヤトたちの許へ駆け寄った。


「……どうしたんだい、ミモリちゃん?」


 同じ様に家に帰ろうとしていたハヤトの母親のシノがそれに気付き、足を止めた。


「ハヤト君は悪くないんです! 私が気を失っちゃって、帰って来るのが遅くなったの!」

「そうなのかい、ハヤト?」

「えっと……」


 ハヤトは頬を掻きながらミモリを見た。

 彼には、彼女がどうして今更そんな事を言い出したのかが分からなかった。


「そうなんです。だから、ハヤトを怒らないで、……怒るなら、私を怒って下さい……」

「ミモリちゃん……」


 ハヤトの両親は、再び泣き出してしまったミモリをどう宥めたら良いのかと慌てた。


「……まあ、俺が崖から落ちて、それからミモリちゃんが気絶したのは、本当だな……」


 そんな両者の様子を見ながらハヤトがポツリと口にしたそれは、嘘では無かった。

 あいだに有った事を掻い摘んではいるが、起点と終点には間違いは無い。


「そうなの! ……私、私、ハヤト君と遊べなくなるのは嫌だから……だから……」


 それを聞いたハヤトの母親は、「しょうがないねえ」と溜め息を吐いた。


「本当なら、あなたを危険な目に合わせたハヤトには、もうあなたに近付かない様に言う心算だったんだけど……、………そんな風に言われちゃあねえ…………」


 ここでハヤトは漸く、ミモリの意図を理解する事が出来た。

 あのまま別れていたら、親に反対されて一緒に遊ぶ事が出来なくなっていたであろう事も。

 ……尤も彼は、反対されようとも全く厭わない性質たちだが。


「暫くはバツとして今まで以上に家の手伝いをして貰うけど、その内にまたミモリちゃんと遊べるようにしてあげるよ」


 そう言ったシノは、ミモリの頭を優しく撫でた。


「……ありがとうございます、シノさん……」

「じゃあミモリちゃん、また遊んでやってね。サリナさん、そう云う事で、このバカが済みませんでした」


 そう言って自分も頭を下げながら手で押してハヤトに頭を下げさせたシノは、夫のアキラと共にハヤトの手を引っ張って行った。


「さ、ミモリ。私たちも帰ろう」

「うん!」


 頷いたミモリは、遠ざかるハヤトの背中に、

「またね、ハヤト君!!」

と大きく手を振った。 

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