第10話:ミモリの歩んできた道・6/何よりの願い


「ハヤト君! どこっ?!!」


 見失った友の姿を呼びながら森を駆けるミモリの足は、自然と速くなっていた。

 踏み付けて折れた小枝が足を襲うが、気にしている余裕は無い。


「返事して!! ハヤト君!!!!!」


「……う、……うぅ……」


 何度目か呼び掛けた時、ミモリの耳に、男の呻き声が聞こえて来た。

 

「ハヤト君?! えっと、こっちかな……」


 その声が聞こえた事で、ミモリは些か安心した。

 状態がどうであれ、生きている事には間違いが無いのだから。


 声がしたと思われる方に急いだミモリの視界が急に開け、ミモリは慌てて重心を後ろに戻した。

 その衝撃を受けた小石が、足元の崖をカンカンカンと乾いた音を立てて転がり落ちて行く。


「……う……」


 その石がポフッと鈍い音を立てた時、再び呻き声が聞こえた。

 ミモリは自身の脇の木に捕まり、落ちない様に気を付けながら恐る恐る谷底を覗き込むと、そよそよと流れる小川の横に、肩があらぬ方向に曲がった状態で横たわっているハヤトの姿を認めた。


「風さん! お願い!!」


 言うが早いか、ミモリは宙にその身体を投げ出していた。

 親譲りの無鉄砲からでは無く、じっとしては居られなかったからだ。


 その身体を支える様に足元に渦巻きが起こり、ミモリはそのままゆっくりと谷底に降り立った。


「……ミモリ……ちゃ……オレ……」


 その気配に気付いたハヤトは、途切れ途切れに言葉を吐いた。


「ダメ! ハヤト君、喋らないで!!」


 ミモリがその脇に膝を突いて涙を浮かべながら叫ぶと、ハヤトは未練がましい目をしながらも、言われた通りに口を噤んだ。

 ミモリは、横たわるハヤトの身体を、改めて眺めた。

 所々が血に塗れていて、呼吸も安定していない。

 関節も幾つか、おかしな方向に曲がっている。


 ミモリは震える手でその身体に触れ、目を閉じて話し掛けた。

 ……感情を全て、押し殺す様に。


「……ハヤトの身体さん……何とかならないかな……」

『うん、相当厳しいけれど、何とか……。……でも、ミモリちゃん、良いの?』

「……良いに決まっているでしょ。私の力を全部使っても良いから、お願い、早く治して……」

『そこまでは要らないけどさ。……じゃあ、行くよ』


 そうして気を失ったミモリは、その場に倒れ込んだ。



 そよそよそよそよそよ。

 流れる川の運ぶ涼気に起こされたミモリは、辺りがすっかり暗くなっている事に気付いた。


「……あれ、私……」


 混濁した意識の中、フラフラとする身体を支えながら起き上がったミモリは、熾した火に向かって座るハヤトの姿を見付けた。


「良かった、ハヤト君、治ったんだ……」


 そして、自分の方を静かに見るハヤトに微笑みながら、再び微睡みの中へと吸い込まれて行った。

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