第8話:ミモリの歩んできた道・4/2人目の、パパとママ
「ねえ、ミモリちゃん」
「なあに、サリナママ!」
数日もすると、ミモリはすっかりその家に馴染んでいた。
子供が出来なかったサリナもタケルもミモリをお姫様の様に花よ蝶よと大事に扱ったし、ミモリはミモリで、2人を本当の両親の様にも感じ始めていた。
ただ、本当の両親が心の中から消えたのではなく、2組目の両親として並立ではあったが。
本当のパパとママは死んでしまったけれど、この2人も、大切なパパとママ。
そう思える存在が出来た事で、ミモリは再び心からの笑顔を浮かべる様にもなっていた。
「今から晩御飯を作るけど、お手伝いしてくれる?」
「うん! する!」
サリナの頼みに、ミモリは素直に力強く頷いた。
二人一緒に何かをする事は、ミモリにとっても又、掛け替えの無い楽しみであった。
「きょうは、なにをつくるの?」
「タケルパパがお魚を釣って来てくれたから、煮物でも作ろうかな?」
「やった! おさかな!」
ミモリが喜びの声を上げると、サリナは「あらあら」と笑った。
何を作ると言っても、ミモリは素直に喜ぶからだ。
……結局の処、ミモリには、何でも美味しく感じられた。
サリナの料理の腕が良いと云うのも有るだろうが、皆でテーブルを囲んで食べるのが、ミモリには最高の調味料になっていた。
そして、この家には笑いが絶えなくなっていた。
また、サリナは、ミモリをよく散歩に連れて行った。
表で畑作業などの仕事をしている者と会うとミモリは元気に挨拶をして、その内に、村中の人と知り合いになった。
村の人もまた、元気で良く笑うこの小さな少女を、村の一員として受け入れて行った。
「お、ミモリちゃん、そんな大きな荷物を持って、お出掛けかい?」
未だ小さなミモリが自分の身体程も有る大きな風呂敷を持って歩いていると、自分に話し掛ける男の声がした。
荷物の脇からミモリがひょいと顔を出すと、農夫のトオルが畑仕事の手を止め、汗を拭いながら自分に笑い掛けているのを認めた。
「うん、おつかいなの! 川にさかなをつりに行っているパパに、おべんとう!」
「へえ、偉いんだな。……それにしても、タケルさん、そんなに食べるのか?」
畑の脇の柵に近寄って嬉しそうに言ったミモリに、トオルは優しく言うと、その荷物を上から下へ下から上へとマジマジと眺めた。
「パパのだけじゃないの! わたしも食べるんだよ!」
「ああ、そうか。……って、それにしても多くないか?」
「わたしね、パパといっしょに食べるとおいしくて、止まらなくなっちゃうの! パパもそう言ってたよ! わたしといっしょだと、食べすぎちゃうって!」
「……そうか、それは良かったな」
そう言ったトオルの目は、
当然彼も、ミモリの境遇は聞き及んでいる。
「あ、あんまりおはなししていると、パパおなか空かせちゃう! トオルさん、またね!」
ミモリは慌てて言うと、大きな荷物を片手で支えてトオルに手を振りながら再び道を進み始めた。
「ああ、またゆっくりお話ししような! って、前見なきゃ危ないぞぉ!」
自分の方を見て手を振りながら歩いているミモリを心配してトオルが声を掛けた丁度その時、ミモリは足元の石に
「あっ!」
「ほら、言わんこっちゃない!」
トオルは慌てて柵を飛び越えて駆け寄ったが、荷物を守る様に身体を捻らせて頬から落ちたミモリは、その勢いの為ズザザザと激しい音と砂埃を立てた。
「ミモリちゃん、大丈夫?! 怪我は無い?!」
トオルがミモリの体を起こすと、ミモリは左の頬に手を当てながら、ニッと笑った。
「大丈夫だよ! わたし、ちゃんとおべんとうを守ったよ! えらい?!」
「ああ、偉い偉い。でも、ミモリちゃんの方が大事だろ。怪我は無いか?!」
そう言ってミモリの左手を
その頬に擦り傷等は出来ていなかったからだ。
トオルは少女の頭に手を当てると、
「気を付けてくれよ、ミモリちゃん。今や君は、この村の皆の娘なんだからね。怪我したりしたら、皆悲しむよ」
と優しく撫でた。
「うん、気を付けるね! ありがとう!」
ミモリは立ち上がってお礼を言うと、よいしょと弁当を両手で持ち上げ、再びタケルの居る川への道を急いだ。
トオルは遠ざかって行くその小さな背中を見送りながら、
「あれだけ派手に転んでいたのに、ミモリちゃん、頑丈なんだな……」
と、独り言ちていた。
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