第3話:死に至る病の治癒
集中した意識の中で、ミモリは問い掛ける。
マミの身体の中で、今何が起きているのかを。
……そうなの? じゃあ、それが原因なのかな? 何とか出来るかな?
聞こえて来た声に、更に問い掛けるミモリ。
……うん、ありがと。ごめんね、私は訊いてばかりで。
そして、心を研ぎ澄ませる。
………うん、うん。そうなんだね。じゃあ、それでやってみてくれるかな。
「……お願い」
そしてその返事を聞き取ると、ミモリはふうっと深い息を吐きながら目を開けた。
「……ミモリちゃん?」
ミモリを見るマミの目は、キョトンとしている。
無理も無い。
傍から見れば、マミの手を強く握って目を閉じたミモリが、暫くしてから「お願い」とボソッと呟いて目を開けただけなのだから。
「……マミさん。暫く、身体の中が熱く感じるかも知れないけれど、それは良い事だから、気にしないで、くだ、さい、ね……」
ミモリの目が虚ろになり、その身体が大きく揺れた。
「ミモリちゃん!」
慌てて身を乗り出したマミの手は届かなかったが、膝を突いたマジルが、落ち着いてその身を受け止めた。
「んん……」
「……ミモリ、起きた?」
その声に身体を横に反転させると、椅子に座って心配そうな目で自分を見るマジルと目が合った。
「マジル君……。私……」
「ああ。目を開けて母さんに話し掛けたと思ったら、倒れちゃったんだよ。水、飲むか?」
「うん、ありがと。貰う」
言いながらマジルが水を注いだグラスを上体を起こして受け取ると、ミモリは一気にそれを飲み干した。
「ふう」
そして水分を帯びた落ち着いた息を吐く、ミモリ。
「それで、……ここは?」
辺りを見回しながら、マジルに問い掛ける。
「ああ、俺の部屋だよ。他に寝かせられる所も無いから、俺のベッドで御免な」
「ううん、態々運んでくれたんだよね。ありがとう、マジル君」
頭を掻きながら答えたマジルに、ミモリが笑顔で謝辞を告げると、マジルのその手は速度を増した。
「……ミモリ、大丈夫なのか?」
「ああ、うん。ちょっと、集中し過ぎちゃったみたい」
ミモリはそう言って、たははと笑った。
「でも、多分、上手く行ったよ。マミさん、治ると思う」
「本当か?!」
「うん、本当。……とは言っても、医術的な裏付けは無いから、未だ断言は出来ないけど」
「へえ?」
思わず、素っ頓狂な声を上げてしまった、マジル。
「治らなかったとしても仕方ないけど、……どう云う事?」
「ええとね、『どういう病気でどうすれば治る』って言うのが分かっていれば、それを伝えるだけなんだけど、マミさんの場合はお医者さんも分からないって言っていたから……」
説明をし始めたミモリの言葉を、マジルが「ちょっと待って」と遮る。
額に手を当てていて、目は泳いでいる。
「伝えるって、……誰に?」
「マミさんの身体を作っている物に」
自分の質問へのあっさりとしたミモリの答えに、マジルは更に首を捻った。
「えっと、それは、今までに食べて来た牛とか豚とか?」
マジルが必死に捻り出した言葉を訊くと、ミモリはフフフと笑った。
「それも有るかも知れないけど、……何て言うか、もっと観念的に考えると理解し易いかな」
「観念的?」
「そう、イメージで。実際にどうかって云う事じゃなくて。……私たちの身体の中では、身体を守る為に、維持する為に、色々な物が働いてくれている。そう考えてみて?」
そう言われた所で、マジルは合点が行った様に、手を叩いた。
「成る程、それに伝える訳か。……伝える?!」
またしても、室内にマジルの破調の声が響いた。
しかし、ミモリは全く意に介さない。
「そう、伝えるの。……話を続けるね。だから、……例えば昼間のタケル君の場合は、前にも何度かやっていた事だから、その方法をタケル君の身体に伝えて、その働きを助けてあげたの」
「……へ、へえ、働きを………」
「うん。私が理解している事なら、それを伝えてあげれば済むの。でも、マミさんの病気はお医者さんも分からないって事で、調べる事も出来なくて……」
「ああ、そんな事言っていたな」
「そうなの。だから先ず、マミさんの身体に、ここ数年の間に変わった事が無いか訊く処から始めたの。そうしたら、所々に、元々の設計図とは違うパーツが出来て来ているって教えてくれて……」
「ふう……」
ミモリがそこまで話を進めた時、マジルは自分のグラスに水を注ぎ、一口で飲み干した。
「……あ、ごめん。こんな説明、ついて来れないよね」
ミモリはそれを見て、表情を曇らせた。
「いや、話の腰を折って悪い。何とか飲み込むから、続けて欲しい」
真っ直ぐ自分の目を見ながら放たれたその言葉に、ミモリは思わずマジルから顔を背け、窓から外を見た。
外はもう暗くなっており、少し欠けた月が、綺麗に輝いていた。
「……ありがとう……。……えっと、それで、……何だっけ?」
「違うパーツが出来てどうとかって」
「ああ、そうだったね。だから、それが原因じゃないかって当たりを付けて、『何とか出来る?』って訊いてみたら、『熱に弱い』って事だったから、マミさんの身体に異常が出ない程度にそのパーツを温めて貰う様にお願いしたの」
「成る程……。……それじゃ、確かに断言は出来ないな」
漸く自分の中でイメージをする事が出来たマジルは、腕組をしながら、うんうんと頷いた。
ミモリが恐る恐るマジルの顔を見ると、想像に反して優しい顔をしていた。
「あ、それで終わった後に母さんに『身体の中が熱く感じるかも』って言っていたのか」
「あ、うん、そう。良かった、ちゃんと伝えられていたんだ。……だからまた後で、マミさんの身体に、首尾を訊いてみたいんだけど、良い?」
「うん、勿論だよ」
不安気なミモリに、優しく答えるマジル。
「それが、ミモリの力って云う事?」
その優しい声に、ミモリは再び、マジルの顔を真っ直ぐに見た。
「……誰にも言わないでね。……うん、色々な物と話す事が出来て、その働きを助ける力。これが、私の力」
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