第11話
別に私は士郎と付き合う気は無いのだけど、あまりにも爽やかな親切心に反抗する気も起きなかった。
そして翌日。体育の授業にて。男女混合でバドミントンをやることに。
男女でコンビにならないといけないケースがあると色々と問題が起きそうだという先生の判断によって4人1組のチームを組まされることに。
「おーい白崎、一緒の班でやろうぜ」
落久保君は士郎を引き連れて私と美世の元へやってきた。
ちなみに北さんは別のお友達と一緒にチームを組んでいた。
「私たち?」
誘ってきたのが落久保君だったため、美世の頭にははてなが浮かんでいた。
「勿論」
「まあいいけど……」
士郎の事は嫌いな美世だが、落久保君のことに関しては別にそういうわけではないため、邪険に扱うことが出来ないでいた。
「ということだから。よろしく」
士郎が笑顔で私に話しかけてくる。
「ええ」
「ということでだ。俺は水仙とチームを組むから、そっちは二人でチームを組んでくれ」
かなり強引にチームが決められた。
とは言っても逆にした場合犬猿の仲の二人が大喧嘩しそうなので一択しかないのだが。
二人もそれが分かっているようで、不服そうな表情を見せながらも文句は出なかった。
「にしても周りの視線がいつもよりも厳しいわね」
主に女子。最近は別れる宣言をしたことによって士郎との距離が離れていたからヘイトがたまることは無かったのだけど、露骨に二人という状況を作り出された場合、こうなるわよね。
「なんだ、文句あっか?」
そんなことを考えていると落久保君がその視線に気が付き、反応する。
流石に落久保君に強く当たることは出来ないようで、全員大人しく引き下がった。
そして落久保君はこちらの方を見て、白い歯を見せて笑顔を見せる。
無事に班決めが解決したということで、授業が始まった。
まずは美世たちと試合をすることに。
「ぶっ飛べ!」
「甘いよ!」
お互いにお互いの事しか見えていないらしく、二人による乱打戦となっていた。
その間私と落久保君はお互い苦笑いしていた。
落久保君はその後も私と士郎を事あるごとにセットにしようとする。
その度に他の人からの視線が強くなっていった。
「流石にやめて欲しいわ。このままだと心労で倒れてしまいそう」
耐えかねた私は落久保君を呼び出し、直談判することに。
「心労?前まではずっと一緒にいただろ。別にそれと変わらないんじゃないか?」
「なんで別れを告げた女が士郎と一緒にいるのかって思われているのよ」
せっかく別れてチャンスが出来たのに、以前と変わらず仲が良いのかと余計に怒りを受けている気がする。
「正直そんな視線なんて無視してしまえばいいとは思うんだが、白崎がそう思うのなら仕方ねえのか」
今回の落久保君は話が通じるタイプの人間だったためどうにかなったようだ。
強引なアシストも終わり、心の平穏を保つことが出来ると思っていたのだけれど……
「白崎さん、ちょっといいかしら」
女子の方々に捕まってしまった。
美世が居ないタイミングを狙い打ってきたので逃げることは無理なようね。
「分かったわ」
私は体育館裏に連れていかれた。
本当にこんな場所に誘う人なんているのね。
体育館裏と言えば誰も寄り付かない人気のない場所ということに定評があるけれど、実際にここはそういうわけではなく。
「サッカーボールをグラウンドに持って行ってくれ」
「分かりました」
ほんの少しくらいは人が通る。
でもこれ以上の場所となると部室棟裏になってくるのだけれど、草木が生い茂っていて好んで入りたい場所ではないのよね。
「じゃあ本題に入ろうかしら」
この女子集団のボスと思われる坂下恵さんが私に詰め寄ってきた。
テニス部で鍛え上げられた筋肉と持ち前の身長が相まって威圧感が凄い。
思わず私は一歩後ろに下がった。
「本題って?」
「黒羽君のことよ」
「何も言うことは無いわ」
私は身の危険を感じて帰ろうとする。
しかし多勢に無勢。あっさりと囲まれてしまった。
「なんで別れたのに黒羽君とそんなに距離が近いのよ!」
怒りを隠さずに私に文句を言うのは大町瑠香さん。身長は小さいが、その分強気な性格でバスケ部を牛耳っているとか。
5人ほど集まっているけれど、本気で怒っているのはこの二人くらいかしら。
「士郎とは幼馴染だから。この程度普通よ」
「その言い草が生意気なのよ」
私の返答にイラっとした反応を見せるのは坂本さん。
この人、私の一挙手一投足全てに文句を言ってくるのよね。
「生意気?その言葉は格下相手に使うものよ」
ただの同級生にそんな言葉を吐かれる謂れは無いわ。
「黒羽君が居なかったらクラスの片隅で一人ぼっちでしかないあんたはどう見ても屑よ」
坂下さんはそう吐き捨てる。
これまでの態度は私を舐めていたから出ていたのね。
「だから私に対して何をしても良いってことなのかしら?」
「別に私たちが何かしたかしら?」
挑発的な口調で言い返す大町さん。
「どうしたらアレでバレていないと思えるのかしら」
「アレって?」
威圧する坂本さん。
まあ実の所落久保君の時の方が怖かったわ。あの時と比べると大したことは無いのよね。
「私が売春しているって噂を流しているわよね?」
私が距離を置かれている大きな理由である、事実無根の噂。
「アレって噂なの?事実じゃなくて?」
私を嘲笑うように口を出してきたのは神原美咲。恐らく噂を流した張本人。あることないこと並べ立てて、人が落ちぶれていく様を見るのが大好きな女。
まだ先程の二人は直接的に何かしようとしてくれるので分かりやすいのだけれど、この人は自分が絶対に安全なところからしか攻撃してこない。
それだけに最悪の敵とも言える。ただ、彼女のお陰で教科書を捨てられるような直接的な害を受けなくてすんでいる側面もある。
「どう考えたらそういう結論になるのよ。馬鹿じゃないの」
「だって、友達は少ないし、人づきあいも悪くてクラスのイベントに参加しようとしないし、学校終わったらすぐに居なくなるじゃん」
「それってさ、学校終わったらすぐそういうことしているから放課後に私たちと関わる暇なんて無いからじゃないの?それに、友達が少ないのもそういうことなんじゃない?」
つらつらとそれっぽい理由を並べ立てる神原さん。
正直ツッコミどころは数多くあるけれど、噂として広めるには十分な程度。
「本当に低俗ね」
女子の流す噂とは思えないわ。けれど否定するために真実を話してしまった場合、光と夏芽に危害が及びかねない。
「そんな女が黒羽君と関わるなんておこがましいわ。生きている世界が違うのよ」
生きている世界、ね。確かにそれはそうだわ。
「あなた方に言われる筋合いは無いわ。そちらこそどうなの?」
でも、この人たちに言われるのはなんだか癪だわ。
「は?舐めてるの?」
「舐めてなんかいないわ。ただ私は感想を述べているだけよ」
「私たちの何に問題があるっていうのよ?」
怒りのあまり胸倉をつかんでくる坂本さん。
「こんな大人数でか弱い女子を囲むような人が、あの士郎と釣り合うわけないじゃない」
この人たちが士郎と未来を描くくらいなら、私が一緒だった方がまだ幸せに出来る。
「白崎……」
憎悪の表情で私を睨んでくるクラスメイト。
「ではさようなら」
ただの時間の無駄。そう思い私は帰ることにした。
「何勝手に帰ろうとしているの?」
女子の皆さんは帰ろうとする私を引き留めてきた。
「時間の無駄だもの」
「はあ?私たちが直々に忠告してあげているのに何よそのセリフ」
どうやらこれ以上何かをするらしい。
仕方なく私はひっそりと電話をかけた。
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