1-2

 ――小学4年生の頃。

 1年間になるかならないかの間だけ、近所に住んでいた友達がいた。


 そいつは、近所の神社の本殿に倒れていたところを、神社の息子さんに見つかったらしい。

 神社で暮らし始めたそいつと俺は、ある日、たまたま俺が神社に遊びに行った時に知り合った。

 何か特別な話をしたわけじゃないし、していたとしても、内容はもう忘れた。

 けれど、俺たちは、不思議とすぐに仲良くなっていたんだ。


 毎日のように、町の中を走り回って遊んだ。

 神社の近くにある洞窟へ行ったり、川へ水遊びに行ったり。

 その頃は子どもだけで通っちゃいけないと言われていた暗渠(あんきょ)へ、こっそり行ってみたこともあった。

 俺は、暇さえあれば、そいつを色んな場所へ連れ回した。

 あいつは、嫌な顔一つしないで、むしろ楽しそうにしながら、俺に付き合ってくれた。

 毎日が、楽しかった。

 あいつと一緒にいられる日々が、すごく、楽しかった。


「なあ。俺たち、これからもずっと、友達でいような!」


 ある日、俺は、山の上にある神社の境内で、あいつに小指を差し出した。

 あいつは、ちょっとびっくりしてたみたいだけど、笑って、俺の小指に自分のそれをからめてくれた。

 約束したんだ。

 ずっと友達でいようなって。

 ずっと一緒に遊ぼうなって。


 ……だから、次の日。

 あいつが突然いなくなったって聞いた時は、めちゃくちゃショックだった。


 心のどこかにぽっかり穴が開いたみたいで、涙すらも出てこなかった。

 何で?

 どうして、何も言わないでいなくなっちまったんだ?

 ただ、そんな疑問だけが、ぐるぐるぐるぐる、頭の中でうずまいていた。


 ――あの日から、俺は、ずっと探している。


『ずっと、一緒だよ――翼』


 神社の境内で、そう言いながら笑って、指切りげんまんをした友達。

 ある日突然現れて、ある日突然消えてしまった、女の子。

 笑顔がめちゃくちゃかわいくて、どこかはかなげな雰囲気をまとったその面影を、俺は、ずっと探している。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る