第1章 真夏の光

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「翼ー、起きなさーい! 夏休みだからってダラダラしないのー!」


 部屋のドアがノックされる音と、母さんの声で目が覚めた。

 ふわああ、よく寝た。

 大あくびをしながらベッドの上に起き上がって、部屋の外にいるだろう母さんに、ふにゃふにゃした声で「起きてるよ」と返事をした。

 何だか、なつかしい夢を見たなあ。

 もうずっと昔にいなくなっちまった、友達の夢。

 布団から出て、あくびを噛み殺しながら、お気に入りのTシャツに腕を通す。

 ジーワジーワ、ジワジワジワ。

 窓の外で、早起きのセミが、せわしなく誰かを呼んでいた。




 中学生になってから、2回目の夏休み。

 朝ごはんを食べたら、宿題もそこそこに家を出る。

 使い込んで少しいたんだリュックの中には、財布と水筒と母さんのお手製弁当、それに、スケッチブックと何本かの鉛筆。

 それらをお供に、俺のまだ知らない新しい景色を探しに、いつもみたいに『冒険』しに行くんだ。

 俺は小さい頃から、この地域のあちこちへ遊びに行くのが好きだ。

 近所の神社の近くにあるちょっとした洞窟とか。

 山を少し上ったところにある水源地とか。

 線路の下をくぐる、真っ暗な暗渠あんきょ(主に地下に作られた水路のことだ)とか。

 中学校に上がってからは、自分だけで隣町に行ってもいいってお許しをもらったから、たった一人で遠出をして、海を見に行ったこともある。

 冒険が好きになったのには、5年前に死んじゃったじいちゃんの影響がある。

 じいちゃんは、世界中を飛び回る冒険家だった。

 そこに山があれば登っていくし、そこに海があれば潜っていくし、そこに未開の地があれば先陣を切って探索をする。

 そうして訪れた場所や、そこで見た景色や出会った人たちの話を、じいちゃんはよく、俺に話して聞かせてくれた。

 こことは違う世界にいたことがあるとか、大きな鳥に乗って戦ったことがあるとか、本当か嘘か分からないような話も混じっていたけれど、俺は、じいちゃんの話を聞くのが好きだった。

 そのおかげで、俺は、この目で見たことのないものを見て、自分の足で行ったことのない場所へ行くのが、めちゃくちゃ大好きになったんだ。


 ……それに。

 色んな場所へ出かけていれば、そのうち、〝あいつ〟とまた会えるかもしれない。

 だから、今日もこうして、俺は、住み慣れた町や、その周りを冒険するんだ。

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