第20話 ある小さな星の野心

 物心ついた時から、私の前にはずっと姉の背中があった。


 両親もおばあさまも私達を平等に愛してくれていたけど、幼い頃の私は本当に、お転婆で。何かしら物を壊したり身体に生傷を作って帰ってきては、それはもうみっちりと叱られた。


 大人からすれば支離滅裂だったのだろうけれど、子どもには子どもなりの理由がある。

 親に聞いてもらえず頭ごなしに叱られて悔しがる私の話を聞いて、傷を癒やしてくれるのはいつだって、姉だった。


 華奢な体躯に物憂げな雰囲気、月明かりを思い起こさせる白銀の髪は神秘的で、人柄もよく分別を弁えた行動を取る姉は、常に周りの大人から信頼され、大切にされていたように思う。


 そんな姉の背中が見えなくなったのは、おばあさまが星になってすぐの事だった。


“第〇〇年度 大聖女選定の儀 任命状”


 それが届いた日、私達は喜んで迎えの馬車に乗り込んだ。


 自分達の暮らしていた村は貧しさ故に治安が悪く、年若い女のみの二人暮らしは正直危険であったから。王都で身柄を保護してもらえるなんて願ってもない機会だと思ってしまったのだ。

 それがどんなに愚かだったか、今でも後悔している。


 教会入りしてすぐ、姉と自分は分かたれた。


『ステラの魔術は素晴らしい!同世代の者とは比にならない精度だ。それに比べてセレーネは……』


『ステラの笑顔は見るだけで幸せになるわ。癒やしの力も私達の代で一番だし、次の大聖女はあなたで決まりね。きっとお姉さんは教会には残れないだろうけど……、お可哀想よね。せめてあなたの半分でも才があれば良かったのに』


 姉は隠していたようだが、周囲が聞いてもいないのに口々にそう言うものだから、自分がどうやら姉に勝る魔術の才があると自覚するにはひと月もかからなかった。


 人生で初めて、ずっと追いかけるばかりだった姉に自分が勝った瞬間から、私はひたすらに魔術の道を極めることにのめり込んでいった。


「ステラ、あなたちょっと根を詰めすぎよ。今やあなたと並び立つ聖女見習いは居ないんだから、そんなに頑張らなくたっていいじゃないの」


「いいえ、まだまだ足りませんわ。もっともっと学ばなければ。私は、お姉さまよりずっとずーーっと強くならないといけませんの」










 しかし、あと少しで大聖女という我が国の魔術師の頂を掴もうと言う時、私が目的を果たす前に、姉は行方を眩ませた。






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