05・幕間の日々

 カエルスープ事件以降、侍女たちによる小さな意地悪が増えた。ロッテンブルクさんが見ていないところで突き飛ばす、足を引っかけるといったオーソドックス系がほとんどだけれど、私の部屋に忍び込んでタンスに虫を入れる、というのもある。スカートを破かれたこともあったけど、気にしないようにしている。


そんなことより気にかかることがあるから。ゲーム開始前なのに、また新たにふたりの攻略対象にも出会ってしまった。

 ひとりはロッテンブルクさんの息子で侍従見習いのテオだ。本来ならすれ違いが続いて会う機会がなかったはずなのに、きちんと彼女に紹介された。


 もうひとりはクリストバル・ベネガスという、ゲームでマリエットに金属形成を教える24歳の宝石商だ。この出会いがまた腹が立つ。


 廊下をロッテンブルクさんと歩いていたら、チャラ王子に捕まって、連れていかれた先が商い中のクリストバルの元だったのだ。私がなにも装飾品をつけていないから買ってくれようとしたのだ。

どうしてなのか彼にはよく遭遇するし、気に入られてもいる。だけど贈り物なんて、ありがた迷惑以外の何物でもない。

頼れる侍女頭が、助け船を出してくれて逃げ出せたけど、一体どうなっているのだろう。


 チャラ王子は私がどのように振る舞ってもくじけないようなので、塩分100パーセントの塩対応をしているのだけどかえって喜んでいる節がある。もしかしたらドエムなのかもしれない。


 時おりチャラ王子と共にいるバルナバスは、冷めた目を友人と私に向けているから、興味がないか呆れているかのどちらかだろう。


 そして謎なのは私の最推し、カールハインツだ。

 カールハインツ・シュヴァルツ。男子はみな近衛に入隊する仕来たりの軍人家系で、代々の当主は近衛総隊長を任官されるのが当たり前。カールハインツ本人も若くして部隊をひとつ任されているエリートで、己にも他人にも厳しい氷の黒騎士。


 異性に対してもそれは変わらず、ヒロインに永久凍土並みの氷対応、眼差しも不審者に与えるブリザード並みに冷たく攻撃的というキャラだ。

 だけど精神も肉体も圧倒的に強靭で、どんな敵からも完全に守ってくれる。


 ゆっくり時間をかけて親密度をあげれば、氷が溶けるかのように少しずつ距離が縮まって照れが見られるようになり、最後は甘々のデレデレでヒロインに骨抜きになる。


 カールハインツはそんな攻略対象なのだ。

 ところが。まだゲームが始まっていないというのに、あちらから私に接近してくる。


 と言っても、目付きはブリザードだけど。

 私を見かけると必ずそばにやって来て、

「変わりないか」と尋ねるのだ。

 私を心配しているというより、不審者が悪事をしていないかの確認に見える。だけど一度、

「カエルなどはされてないのか」

 と訊かれたから、やはり心配しての声掛けなのかもしれない。 


 ◇◇


 ひとりで庭の小路を進む。パウリーネの遣いで庭師の元へ行くところだ。彼女は花好きで時々こういうことがある。

 こういうシチュエーションはゲームだと、攻略対象に出くわすか意地悪をされるかだよねと思っていると。


「捕まえた」

 と背後から突然肘をとられた。私の腕にするりと自分のそれを絡ませたのはチャラ王子だった。

「ひとりで庭を歩くのが見えたから、追いかけてきた。健気な私のために、少しは共に散歩を」

 にこりとする王子。

「やめて下さい」

 まあまあと言ってチャラ王子は

「息抜きも必要だろう?」

 などとほざく。

「ストレスでしかありません」

「どうしてだ。こんなにも素晴らしい男に口説かれているのに」

「自分を素晴らしいと自惚れる人に興味はありません」

「なるほど、謙虚なタイプが好みか。では君好みの男になろう──とは言わぬ。それは私ではないからな」


 強い力で拘束されている訳ではないのにどうしてか彼の腕を振りほどけず、仕方なしに話を聞きながら歩く。話題は意外にもまともで、なぜ留学をしているかや自分が留学生に選ばれた経緯についてだった。


「ほら。私に興味が湧いただろう?」

「少しは」

「『少し』とは手厳しい」

 嬉しそうに言うフェリクス。


 と脇道に気配があると思ったと同時に、人が目の前に現れた。

 なんと、カールハインツだ!

 ラッキーと思ったのも束の間、ブリザードの眼差しが更に威力を増した。

「お前はフェリクス殿下も惑わしているのか?」


 そのセリフにチャラ王子と腕を組んだままだったことを思い出した。

「違うのです、これはっ」

「行きましょう。デートの邪魔をしては悪いですから」

 と声がしたと思ったら、カールハインツの半歩後ろにレオンがいた。軽蔑の目でこちらを見ている。


 違うと言って腕を振り払おうとしたら、それより先にフェリクスが離してくれた。

「そうだったらよいのだが違う。マリエットはガードが固いのだ。ようやく捕まえたところだったのに、残念。それからシュヴァルツ。彼女は私を惑わせてなどいない。これから私が彼女を惑わす予定なのだ」


 カールハインツは興味のなさそうな表情で、そうですかと答える。


「仕方ない」とフェリクス。「では三人で彼女を護衛しよう」

 意外な単語にチャラ王子の顔を見る。

「こんな人気のない庭にひとりだなんて、苛めてくれと言わんばかりのシチュエーションだ。男が三人いれば、仕事をさぼって密会だなんて誤解もされにくいだろう」


「もしや私を心配して同行しようとなさったのですか?」

「そう」笑みを浮かべるフェリクス。「案外私も良いところがあるだろう?」

「腕組みは必要ない、というか余計ですよね?」

「それは私への褒美だ」


「苛めはされていないのではなかったのか?」

 カールハインツが割って入ってきた。

「酷いものは」と答えたのはフェリクスだった。「彼女が『たいしたことはない』と判断しているレベルならば日常茶飯事だ」


 レオンが目を見張っている。これは木崎に話さないようにと言わないとまずいぞ。

 というかフェリクスもよく知っているものだ。チャラいだけでなく目端も利くらしい。


「気になるのか?」

 フェリクスが煽り口調で尋ねる。

「城内の風紀の乱れは正さねばなりません」

 キリッとキメ顔のカールハインツ。

 なんだ、私に頻繁に声をかけていたのはそのためだったのか。拍子抜けだ。

 ま、当然か。


「彼女の左側を君に譲ろう」とフェリクス。

「私は仕事があります」と答えたカールハインツは部下を見た。「レオン、彼女に付き添いを。道中で苛めについて聴取」

 そう言うと隊長は他国の王子に丁寧に挨拶をし去って行った。


「どちらまで行くのですか」とレオンがフェリクスに尋ねる。

「どこだ?」とチャラ王子は私に訊く。

 レオンが知らないんかいとツッコミしたそうな表情になる。が、さすがに口には出さない。


 カールハインツの意図が分かってすっきりした。どのような理由だとしても、気に掛けてもらえるのは嬉しい。ここから徐々に距離を詰めればよいのだ。


◇◇


 一日の仕事を終えて、寝る前の短い勉強時間。小さい灯りの元で本の文字を目で追う。


 と。

 コツン、と窓が鳴った。


 そちらを見る。

 まさかね。間抜けな虫が激突したのだろう


 また、コツン、と鳴った。


 木崎のはずがない。用があるときは、ヨナスを通すことになっている。

 実際に彼を通じて一度三人で集まった。各自の現状確認のようなもので必要性があったのかいまいち不明だけど、ワインとチーズ、クラッカーにパンとフルーツがもりもり用意されていて、美酒美食を堪能する会のようだった。


 だけど三度目のコツンが来た。


 窓に寄って開ける。と、何かが飛んできて慌てて避ける。

「ナイス反射神経」

 頭から外套を被った不審者が小声で言って親指を立てる。


 振り返ると床の上に小石が落ちていた。

 拾う。

 再び外を見ると、まだ不審者はいた。おもむろに振りかぶり、的を目掛けて投げつける。的は「うわっ」と声をあげて飛び退いた。


 窓を閉めるとランプを手にした。


 ◇◇


 例の場所に行くと、暗闇の中に不審者が座っていた。今夜も半月に近く、雲も多い。

「何の用? ヨナスさんを通すんでしょ?」

「基本はな。あいつは今夜はデート。邪魔をするのは無粋だろう?」

「え!」慌てて木崎の隣に座る。「彼女がいるの? 何それ、詳しく!」

 すげえ食い付き、と木崎が笑う。


「だって恋愛に興味のないムスタファ王子の従者だから、てっきり」

「俺とあいつは別に決まっている」

 意外な優しい口調でそう言って、王子はワインの入ったタンブラーを差し出した。

「詳しく知りたいなら、本人にな。喪女に勧めはしないが。惚気まくられるだけだから」

「ええっ。予想外」

「あぁ、そうか。ヨナスさんがデートに行ってしまって淋しくなったんだ」

「ちげえよ。何で淋しさ紛らわすために宮本と飲まなくちゃいけねえんだ」

「友達がいないから」

「綾瀬がいる」

「私は優しいから『他には』とは訊かないであげるよ」

「チーズを食わせねえぞ」

「狭量王子!」

「陰険見習い!」


 やいやい言いながらワインとチーズ、フランスパンを堪能する。

「なんか、夜のピクニックって感じ。夜闇しか見えないけど」

「次はサンドイッチでも用意するか」

「BLTが好き」

「贅沢言うな」

「ならハムサンド」

「俺はカツサンド」

「木崎のほうが贅沢じゃん! ていうかムスタファにカツサンドは似合わなくない? 生ハムとモッツァレラのブルスケッタとか言ってよ」

「サンドイッチじゃなくなってるじゃねえか」

「イメージというものがあってだね」

「んなこと知るか」


 もぐもぐとパンを食べながら目の前の闇をみつめる。まったくの暗闇なわけではなくて、植木や城の窓に映る半月なんかは見える。ベンチの端には光度を落としたランプもあるし。


「……正直なところ、私もここには友達はいない。綾瀬は私を敵視してるから、悔しいけど素で話せるのは木崎だけだよ。情けない」

「褒められている気がしねえ」

「褒めてはいないもん」

「褒めてもいいんだぞ」

「ワインとチーズのチョイスは最高」

「だろ?」

「あと、城下の視察に行ったこと。褒めてつかわそう」


 以前のムスタファは滅多に城から出ることはなかったらしい。だけど私が庶民の生活と王宮の生活の落差が激しいことを伝えたら、興味を持ってくれたのだ。

「それは褒めないでいい。王子の務めだろ? 今までさぼっていたけど」

「木崎らしい言い方。素直にどうもと言えばいいのに」

「宮本も多い一言をやめればいいのに」

 ふんと鼻を鳴らす。


「真面目な話」と王子は声音を変えた。「俺は引きこもり王子だったから人脈がない。問題を解決したくとも協力者を見つけるところから始めないといけなくてな。時間がかかる」

「時間がかかっても木崎なら結果を出すでしょ」

「当然。お前はどうなんだ。ロッテンブルク付きから卒業できそうなのか」

今の私は常にロッテンブルクさんの指導下にいる。


「週明けに決まった」

「へえ。なら、これは祝い酒だな。よし、注いでやろう」

「お。気が利く」

 タンブラーに残っていた一口を飲み干して、差し出す。

「いや、赤ん坊レベルからようやくオムツが取れて、幼稚園児レベルぐらいになったんだろう? めでたいじゃないか」

「引きこもり王子も、ようやく卵から孵った雛というところだね」

「俺は天岩戸から出て来たアマテラス」

「図々しい!」


 魔王のくせに、と言おうとして、止めた。木崎が自分の血筋をどう捉えているのか分からない。

 こくり、とワインを飲んで考える。

 踏み込む? 踏み込まない?

「あ。魔王になる俺が太陽神って、おかしいな」

 ムスタファは、ははっと笑った。屈託ない声に聞こえて、ほっとする。

「通称『月の王』だしね」

「それだけ俺の美貌が神秘的ってことだな」

 見えないけど、今、隣に座る男は絶対にドヤ顔をしている。


「中身が木崎じゃね」

「木崎もモテた」

「ぐっ」

 暗闇からくっくっと笑う声がする。ムカつく。


「そう言えば」と少し落ち着いた声。「ゲームで俺のこと、出生とか母親とか、あとは魔族についてとかって言及されているのか?」

 ドキリ、とした。

「木崎が知っていることは?」

「母親が魔王の娘。人間に殺された」

 ムスタファの声は変わらなかった。

「うん。それだけ。やっぱり気になる?」

「そりゃな。この世界には魔物もいないのに、なんで魔王の娘なんだって思うだろ」


 そうだねと答える。


「昔に母親のことを調べたことがあるんだが、『何も分からない』ってことが分かっただけだった。当時仕えていた侍女なんかも退職していてさ」

「うん」

「魔王化は嫌だから深入りはしねえけど」

「うん。私も魔王化は反対」

「ていうか、そもそも『魔王化』ってなんだ?」


 ムスタファがこちらを見た。

「えっと、覚醒だよね?」

「いやさ、魔王の娘の息子だろ? 何で生まれた時から魔族じゃねえの? 半分人間だとしても、覚醒するまで魔力ゼロっておかしくねえか? 」


 考えてみたこともなかったけれど改めて問われると、おかしいのかもしれない。この世界の人間は、多少の差はあってもみんな魔力を持っている。ゼロなんてケースは滅多にないはずだ。

 それにバルナバスの強大な魔力は父親譲りという設定のはずだったし、それならムスタファの両親はどちらもかなりの魔力持ちということになる。それでゼロで生まれてくるというのは、理由があると考えたほうが妥当だろう。


「それに」と続けるムスタファ。「俺が覚醒したら世界は滅んで闇の世界になるってどういうことだ? 昨日まで人間で魔力ゼロだったのに、突然そんなことができるのか? たったひとりで?」

 口調はあくまで冷静だったけれど、その分、随分前から考えていたのだろうなという雰囲気があった。


「ごめん、分からない」

 踏み込む、踏み込まないと脳内でまた問答をして、ごくりと唾を呑み込んだ。

「もしかして、不安だったりする?」

 こんなことを私に訊かれるのは嫌だろう。不安だったとしても、いいやと答えるに違いない。それでも思いきって尋ねてみた。


「いいや」

 と木崎。やっぱり。

「魔王化はお前とハピエンしなければ回避できるんだから、いいんだけどさ。気にはなるよな」そう言ってタンブラーを口にする木崎。「ゲームにはなんか情報があるのかなと思っただけだ」

「お母さんのこと、分かることはひとつもないの?」

「ある。名前と俺と瓜二つってこと」


 名前なんて当然のことではないの?

「それだけ?」

 うなずく王子。「父親も話したくないらしい」

「なにそれ。父親の責任を果たせ!」

 隣から笑い声。

「木崎の記憶が甦ってから分かったけど、あれはダメだ。人の上に立つ器じゃねえ。中身が空っぽ。よく20年近くも王をやっていられるよ。周りが優秀なんだろうな」

「そうなんだ」

「ま、俺も人のことは言えねえ。王子の義務を嫌々こなしてたからな」

「これからは違うんでしょ?」

「民の生活は考えていたのと違ったからな」

「実力を見せてみろ、第一のエース」

「刮目してろ」と言った王子は不自然に口をつぐんだ。

「なに? やっぱり自信がない?」

「いや。まずは人なんだよと思ってな。引きこもり王子を信頼してくれる人間を集めないといけない」

「そこは八年の営業で培ったトークスキルがあるじゃない」

「人嫌いのムスタファが急に饒舌になるのか?」

「不気味がられるね」

「どう考えても、うさんくさい」


 しばらく真面目な話をしていてふと目前の城に目をやると、窓にうつる半月が最初のころよりかなり移動していることに気がついた。


 そろそろお開きの時間だろうか。今日は随分たくさん話をした。

 よし。終わる前にもう一杯飲んでおこう。


 んくんくとタンブラーに残っていたワインを飲んでいるとムスタファの木崎は

「そういやお前、カールハインツとは進んでいるのか?」と聞いた。

「難しい質問だね」


 積極的に話しかけられてはいるけど、城内の風紀のためだ。それを話したら、私がくだらない意地悪をされていることも打ち明けなければならない。


「存在を認識はしてもらえてるよ。それがなんだと言いたいだろうけど、カールハインツに限っては進展ありと言っていいレベル」

 うん、我ながらうまいかわし方だ。


「それで進展って、ハピエンは挨拶する程度か?」からかいを含んだ声。

「序盤は展開が緩やかなの!」

「気が遠くなりそうな道のりだな」

「いいの。チャラくないところが良いんだから」

「へえ。チャラ王子フェリクスに乗り換えるんじゃねえの?」

「なんで?」

「人気のない庭で腕を組んで密会していたんだろ?」

「ちがうっ!」

 顔から血の気が引くのが分かった。

「今日の午後の話だよ。もう木崎の耳に入ったの?」

「綾瀬」と木崎。

「ああ、そっか。綾瀬がいたんだっけ」

「あいつの存在を忘れるぐらい、いちゃいちゃしてたのか?」

 明らかにからかう声に、そんなはずないでしょと返す。


「綾瀬感が微塵もなかったからだよ。普通にしていたらただのイケメン近衛じゃない」

「ふうん。あいつ、俺のところには怒り心頭で乗り込んできたぞ」

「なんで?」

「あんな尻軽は絶対にカールハインツに近づかせないって」

「無理やり腕を組ませられたんだよ? いくらなんでも王子を突き飛ばせないでしょ?」


 カールハインツの前でやりかけてしまったけど。あんなんでも他国から来た留学生で王子。当然のこと賓客扱いされている。侍女見習い風情が突き飛ばしたりしたら、一大事だろう。


「カールハインツより攻略しやすいんじゃね?」

「やめてよ。私は彼一筋なの。チャラい男は嫌い」

 と、昼間のフェリクスを思い出した。チャラくて強引なヤツだと思っていたけど、第三者に対しては誤解されないよう気を配った発言をしていた。


「だけどゲームでの印象よりは、まともかな」

「ふうん。案外フェリクスにほだされるもアリなのか?」

「ないよ、絶対」

「ヨナスはそれ推し。お前じゃカールハインツは無理でフェリクスの押しに負けるって」

「負けないし無理でもないから」


 はいはいと笑い交じりに言った木崎は

「そろそろお開きにするか。三杯目をねだられる前に」と言った。

「気づいていたのか、卑怯者め」

「ほら、チーズの余りならやる」

 まだ沢山のチーズが入っていそうな袋を差し出される。

「遠慮するよ。ワインなしで食べても味気ないし」

「ワインはやらねえぞ」

「いらないよ。ありがと、今夜もご馳走さま」

「おう。出世払いな」

「今夜は祝い酒でしょ?」

「そうだった」


 タンブラーを返して木崎が一式をしまうのを確認すると、ランプを手に取り立ち上がった。

「おやすみ」

「ああ。おやすみ」


 ほろ酔い気分で暗い道をたどり、今夜はもう寝てしまおう、勉強は明日にしようと考える。


 ……あれ。今夜の木崎の用件は、なんだったのだろう?

 本当にヨナスがデートで淋しかったのかな?木崎らしくはないけれど。


 あ、魔王情報か。きっとそれを訊きたかったにちがいない。役に立てずにすまんとひとりごちて、ランプの灯りを頼りに小路を進んだ。

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