ログイン26 権力格差が生まれた要因

 ザキナは礼央の不自然な態度に違和感を覚えながらも、特に追求することなく奥から運んできた、湯気が立ち上るお茶を机の上においた。丁度二人の間くらいに位置する机で、ザキナはそのまま座るように手で合図を送る。それに反抗する必要性もないので、礼央はゆっくりと椅子に近づくとそのまま腰掛けた。


「温かいお茶を淹れましたので、どうぞお風呂が湧き上がるまでの間これを飲んで温まってください」


「あ、あぁ。お気遣い感謝するよ」


 そう言いながら、礼央は茶器に手を伸ばした。触れた瞬間に、手から伝わってくる温かさ。思わず反射で後退してしまうほどの、熱量をそれは放っていた。これではすぐに飲めそうにもない。礼央は伸ばした手をそのまま何も掴まず、元の場所に戻すとザキナの顔を正面から捉えた。


「それで? ちゃんと話をしてくれるんだよな?」


 顔を歪ませることなく、熱々のお茶を口元にまで運ぶザキナ。湯気が重なってしまい、その顔を正確に拝むことは叶わないが、神妙な顔つきをしていることは容易に想像ができた。


「えぇ、もちろんです。私の知っている限りの範囲ですけどね」


「じゃあ、早速で悪いが、さっきビエラが倒れる直前に言いかけたことを教えて欲しい。この王国の法律がどう関係して、国民の平和を脅かし、私腹を肥やすことに繋がったんだ?」


 コトッ⋯⋯ 。茶器と机がぶつかり合う音が静かに響く。湯気というモヤが晴れ、クリアになった視界が捉えたザキナは、想像通り難しそうな表情を浮かべていた。


「この王国の法律は、大きく分けて三つに分類されます。制度内容としては、一つが商いを興した際の税を支払うこと、二つが、犯罪を罰する旨の制度、そして最後に、


「どれもが——普通の法律に見えるがそれのどこが問題なんだ?」


「神々が作り上げた土地に対して! いくら王族といえど、それを独占するのは罰当たりもいいところなのです!! それに、法律といっても機能しているのは、一つ目と三つ目のみ!! 今のこの国では、犯罪に関して暗黙の了解とされている節があるのです!」


「ちょっ、ちょっと待ってくれよ! 話が飛躍しすぎていて、よく分からなくなってきた。そもそも、私有地を認めたらなぜ、格差が広がるのか。それに、なんで犯罪のところだけ法律があやふやになっているんだよ!? おかしいだろ? どう考えてもよ!」


「王族が私有地と認めた場所。それは、我々が代々巡礼を行ってきた場所なんですよ。誘いの森を始め、この王国に刻まれた直線が交錯する池。起源は知りませんが、我々はそれらを崇め、手を合わせることで祈っていたんですよ。神の洗礼が、我々に振りおりませんように、と」


「神の洗礼が襲ってこないように祈っていた⋯⋯ ? いくつかのスポットの場所を⋯⋯ ?」


 頭の中に散りばめられているピースが激しく衝突する。その影響だろうか、頭が割れるように痛む。今まで経験してきた頭痛とは、また違った痛みだ。まるで、何か大事なことを導こうとしているようであった。


私有地と化したスポット。犯罪すら許させる王国。しかし、私腹を肥やす王族は手を出さない。彼らが手を出すのは——スポットだけ⋯⋯ ということなのか? ダメだ、思考が纏まらない。それどころか、痛みを増す頭が、痛みに耐えかねず考えることを放棄した。


「スポッ⋯⋯ ? それは分かりませんが、そうです。神の洗礼とは、この世の不条理を全て洗い流す神の所業。それは、万物に降り注ぎ、何人も免れることはできないはずだったんです。しかし、王族はそれを覆してしまったんですよ、そして力を蓄え始めたんです! 決して埋まることのできない差を。五つの王国の王族しか乗船できない、超巨大な方舟を作ることで!!」








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