ログイン25 俺は、アレを確認したいんだ!!

「この王国の法律、ってどう言うことなんだ? そういえば、ここに来るまでも、時折話を先延ばしにしていたよな。ちゃんと説明してくれよ!」


「まぁまぁ。興奮されるのは分かりますが、まずはその濡れ切った体をこのタオルで拭いてください。話はその後でも十分にできますから」


 ザキナから手渡しされたタオルを、礼央は不機嫌そうに力任せに奪い去る。そして、視線を二人から逸らすことなくそれを頭の上に乗せると、勢いに任せて濡れた髪の毛を拭いていった。何度も顔を出す、頭皮から髪の毛が抜き去られる痛み。だが、そんなことは、お構いなしと言わんばかりに、周囲に水滴を撒き散らす。


「ふぅ⋯⋯ これは、順に話していかなければ理解が難しいんですよ。ここまで、先延ばしにして申し訳ないとは思います。ですが、それも仕方ないことなんですよ、神の遣い人様」


「その呼び方は好きじゃないからやめてくれ。ちゃんと説明してくれるんだろうな?」


「えぇ、当然ですわ。そのために、レオニカ様にこんな場所まで来ていただいたんですから。まず、率直にお聞きしたいのですけど、この王国についてどのようなイメージを持たれたましたか?」


 閉ざしていた重い口を開くように、ビエラは一歩前に出る。そして、力強い視線で、礼央の方を見つめる。その瞳の奥には礼央には持ち合わせない、この世界で生きてきた彼女だからこそ、宿らせることのできる強さが込められているような気がした。


「王国のイメージ——正直言って、かなり悪いよ。皆んなが今日生きるだけで精一杯って感じが伝わってきた。それだけ、毎日過酷な生活を強いられているってこと⋯⋯ だと思う。世界最強の王族が統治しているはずなのに、これはどうなんだって、シンプルに疑問を抱いたよ」


 礼央の言葉に、二人はゆっくりと首肯する。


「レオニカ様の仰る通りです。この王国が取り繕う活気、そして平和。それら、全てが表面上だけのもの。実情は、王族の腐敗で疲弊しきった国民が、健気に毎日を生き永らえているだけなのです」


「ザキナの言う通りよ。王族の腐敗は今に始まったわけではないけど、それが顕著に現れ出したのはが終わった後から。それまでは、紛いなりにも平和が保たれていたわ。でもね、その時から国民は決して裕福ではなかったの。全ては、私腹を肥やすことだけを考える王族たちのせいでね!!」


「それは——この王国に整備された法律も関係しているのか?」


 興奮のあまり高揚で顔を赤く染め上げるビエラ。彼女を落ち着かせるため、極めて冷静な声で尋ねることに尽力を尽くす。だが、声色程度では彼女を平常に戻すことは困難だったようだ。


「関係大ありですわ!!! あの法律のせいで、何人もの国民が無様な死を——!!?」


「ビエラ⋯⋯ ?」


 突如として彼女の声が萎んでいく。それと同時に、立つ力も失われたのか。膝から急に曲がりを見せると、そのまま前方に受け身を取ることもなく倒れていく。


「ビエラお嬢様!!!」


 地面とビエラの顔との距離は、まさに目と鼻の先と言う言葉を体現しているようであった。間一髪のところで、ビエラの腹部に滑り込んだ礼央の手によって地面との衝突は避けられる。しかし、ビエラが動く素振りは見せない。礼央の手によって支えられるがままに、体勢を維持していた。


「おい、ビエラ! 大丈夫か!?」


「お嬢様を助けていただいてありがとうございます。恐らく、意識を失っています。今まで理性で封じ込めていた足の痛みが、限界を迎えたのでしょう。昔から、我慢をし過ぎる性格でして⋯⋯ 。奥に寝室がございますので、そこで寝かして参ります。話の続きは、また後で行いますので、しばらくお待ちください」


 ザキナはそういうと、ビエラの身体を激しく揺らすことなく慣れた手つきで礼央の手から、自分の手に移動させる。そして、身軽にヒョイとビエラを抱え込むと、お嬢様抱っこの形で、そのまま奥に消えていった。


「大丈夫かよ、ビエラのやつ」


 急に静寂が訪れた部屋に、礼央は一人呟く。その声に呼応したのか、光源が僅かに揺れた。しかし、そのことに意識は向くことなく、ザキナの消えていった扉の奥をじっと見つめていた。暗闇だけが、その奥に続いているというのに。


「そうだ⋯⋯ 。一人になったら確認したいことがあったんだった」


 その奥をどれほどの時間見つめていただろうか。途中から呆けて眺めていたため、時間感覚が少し狂ってしまっているかもしれないが、それほど長い時間は経っていないだろう。そのため、扉の奥からザキナの足音が聞こえてくることもない。


礼央は、頭の片隅にずっと燻っていた衝動を抑えきれぬように、右手で例の形を作ると、そのまま勢いよく振り下ろした。ウィーン、というこの部屋の雰囲気に合わないシステム音が部屋に響く。しかし、その音は一瞬にして、意識の奥に消えていった。


「見たいのは、レベルとかが表示されているステータス画面じゃねーんだよ。あれだよ⋯⋯ を見せろよ!!」


 礼央は首を移動させることなく、目だけを動かして目的の項目を探す。左下⋯⋯ にはない。では、右下か——? 忙しなく動き続けた礼央の目は、瞬時にその動きを止める。


「——あった! アイテムボックス!!!」


 そう、礼央の頭はスポットから入手できたアイテムのことで頭が一杯だったのだ。もちろん、この王国のことについても、ビエラの身体のことも心配だ。でも、それを差し退けて今は、アイテムだ。この世界で触れたスポットは二つ。


誘いの森と、侵入禁止の池。どちらも触れた瞬間に強い光に襲われて、その後バタバタしていたため確認することができていなかった。しかし——間違いなく入っているはずなのだ! この中に、スポットのアイテムが!!


「手が震えていやがる⋯⋯ 。これが、武者振るいってやつか!」


 止まることを知らない右手を、震えていない左手で抑え込む。そして、そのままアイテムボックスのアイコンをタップした。画面が切り替わり、今まで表示されていた数字の列は今は消えている。


代わりに、上部に『アイテム』と書かれた文字の下に、複数個の文字列が列挙されていた。それを、上から順にいつの間にかもれていた声に乗せて読んでいく。


「全部で、四つか。一つのスポットにつき二つのアイテムドロップが固定か。いや、試した数が少ないから、もしかしたらランダム要素もあるかもしれないな。落ちたアイテムは、回復薬、回復薬。いきなり同じアイテムがドロップしてるじゃねーか。まぁ、これはいくらあっても腐るもんじゃないからいいんだけど」


 一瞬肩を落としたが、すぐに立ち直り再びアイテム欄を見つめ直す。


「次に⋯⋯ お! レア度4のアクセサリー! これは使えるぞ⋯⋯ ! 最後は、なんだレア度3の剣武器か〜」


「なんだか騒がしかったですが、何かございましたでしょうか?」


「いや!! 何にもないぞ!!??」


「そうですか。動物でも出たのかと思いましたよ」


 急に現れたザキナに、礼央は瞬時に画面を消して応対を始めた。背中に冷や汗をかきながら。

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