ログイン24 王国に残る法律

 大通りの街道から、少し右に逸れた細く狭い通路。四人ほどで横に並んで歩いてしまった時には、横幅は一杯になり追い越すことすら困難になる。何十人もの人が、一列に介して歩いていた大通りとは一目瞭然の賑わいの差だ。


人通りも大通りのそれと比べてしまえば、雀の涙ほどしかいない。しかし、不思議と夜の暗闇を打ち消す自然の光源の強さだけは、大通りのものと比較しても遅れをとる事はなかった。


 石造りの建物が入り乱れるように、狭い土地の隙間を這うようにして建築されている。どうやら、大通りから右に逸れると、その先には住宅街が広がっていたようだ。背の丈が小さいそれぞれの建物に備え付けられた四角い窓からは、部屋の中の光と共に、談笑の声が漏れていた。


先程までの、鼓膜が破れるかと思うほどの賑わいとは、ほど遠い細々とした幸せの形が、周囲から途切れる事なく溢れ出している。その心地よさに酔いしれながら、礼央は小走りで追いついた、二人の後を追って一つの建物の中に入っていった。


「う〜、冷えるな!! 全くひどい目にあったよ!!」


 入っていった部屋は、月明かりのみが部屋を照らしていた。部屋の奥すら暗闇で見通せそうにない。礼央は、一度大声を出したものの、すり足で部屋の中に入っていく。ゆっくりと直進を進めていた最中に、不意に足元で何かが触れたような感覚に襲われる。


何か動物でも住み着いてしまったのだろうか。埃っぽい様子からそんなことを思案する。だが直後、ドサっと物が床に倒れ込む音が静寂の部屋に立ち込めた。どうやら、物が足に当たった感覚は気の所為ではなかったようだ。


ビエラが今いる場所は見えていないにも関わらず、背中に彼女から向けられる冷たい視線を感じられる。これは、もうこの場から動かない方が良さそうだ。そうこうしていると、ザキナが何度か電気のスイッチのオンオフを繰り返した後に、ようやく部屋の隅々まで光が走った。


「ご足労をおかけしてしまい、申し訳ありませんでした。ここは、我々がこの王国内で所有している建物の内の一つでございます。不憫なところではございますが、後ゆるりと過ごしてもらえれば幸いです。今、お風呂の準備をしますので、しばしお待ちください」


 頭を下げながら一度も噛まずに言い切ると、ザキナはそのまま部屋の奥に繋がる扉を開けると、この場からいなくなる。人間とは不思議な生き物で、言葉で言われるとより強く、その感覚を意識してしまうものだ。


身体の表面から体温を奪う冷たさに、意識が突如として集中してしまう。その結果、礼央の口から何とも情けないくしゃみが出ると同時に、鼻から一筋の雫が垂れ下がった。


「自業自得です! しっかりと前を確認しながら歩かないから、そういう事になるんですよ? ちなみに、池というか噴水というべきか分からないですけど、あの水が張り詰められた場所は侵入禁止になっている場所なんですよ!? どうして、もっと慎重に立ち振る舞えないのですか?」


「え? 俺、また禁忌を犯していたの!? 今日だけで二度目じゃん!! もしかして、指名手配とかされてしまうんじゃねーだろうな。いや——それはそれで面白いか⋯⋯? どことなく、カッコ良さが滲み出ていて」


「ぜんっぜん、カッコ良くないです! それに、そんなこと起きることは絶対にあり得ませんから!!」


「どうして、そう言い切れるんだ? 王族たちの所有地に無断で何度も侵入してたら、危険人物と見なされたりするんじゃないのか?」


 首を傾げる礼央に、ビエラはため息で返す。


「五つの王国はそれぞれ、単独で国を統治しています。なので、一国から危険と判断されても、それが五つの国全てで認識されると言うことには、ならないと思います。だからと言って、バンバン国のルールに叛いていいと言うことではないですけどね!!!」


「ふーん、何だかつまらないな〜。ところでさ、聞きそびれていたけど、どうして俺が飛び込んだ場所は侵入禁止なんだ? 何か警備が敷かれている訳でもなかっただろう?」


禁止で、もし破ったら神の洗礼を一番に受ける。それが、この国に定められているです」


 扉が開かれる音と同時に、冷静な声が部屋に響いた。







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