ログイン20 異様な王国の姿?
「ここからは、長く生きている私の方から説明しましょう」
ゆったりとした話ぶり。それだけで、この場の時間の流れが遅くなってしまったかと錯覚してしまうほどであった。礼央の目線を一身に集める付き人であったが、口籠ることは一切ない。自分が知り得ている事実だけを、考古学者のように淡々と述べていった。
「少々取り乱してしまい、申し訳ございません。先ほどレオニカ様が話された国名ですが、それが少し衝撃的でしてね」
「何か問題でもあったのか? 俺は、あくまで聞いた内容をそのまま話しただけなんだが」
「いえいえ。問題は特にありませんよ。実はですね、ホール王国という名の国は、今私たちが向かっている目的地でもあるのですよ。でもね、国名が変わっているんです」
「国名が変わってる・・・?」
首を傾げながら、礼央は付き人に尋ねかえす。
「えぇ。さっき、国民ですら暮らしている場所の国名を知らないと話しましたよね? あれはですね、あまりにも国名がコロコロ変わるので、気にしていてもしょうがないからなんですよ。理由は分かりません。そもそも、どのような方法で国名を定めているのかすら、国民には知らされませんからね」
「そ・そうなのか・・・。と言うことは、現在の国名を聞いても意味がないと言うことなんだな? もしかしたら、明日にでも国名が変わっているかもしれないから」
「その通りです。ちなみに、名前を持った王国は五つあるとも話しましたが、それぞれ奇妙なことがあるのですよ。一見するだけで、すぐにそれが異形だと分かるほどの異様。何だと思いますか?」
礼央は顎に手を当てて、眉間に皺を寄せる。そして、頭の中で凝り固まった王国のイメージを何度も作り上げた。だが、それはいくら外見を豪勢に装ったとしても、突貫工事によって作られたことは変わりなかった。まともに形を留めているのは、ほんの数秒ほどで、それが過ぎれば音も立てずに瓦解していく。つまり——何も分からなかったと言うことだ!
「なん・・・だろうな・・・〜。国民が全員筋肉ムキムキとか・・かな?」
「いえ、全然違います」
「それは、いくらなんでも常識的に考えて違うでしょう」
「・・・」
「すいません。もしかして、笑わそうとしてくれたのですかね。気持ちを汲めなくて、申し訳ございませんでした」
「いてぇーよ!! その気遣いが!!! 俺の心はガラスのハートなんだからな!! いつ、砕け散っても知らねーから!!!!」
大声を出して叫ぶが、高揚した気持ちは収まることがない。それどころか、熱を持ってどんどん上昇してきているようであった。熱が出たかと錯覚するほどの熱量を、首元に触れた手から介して伝わってくる。
「まぁまぁ・・私が少し意地悪な質問をしてしまいましたか。正解はですね、王国の形が少し変わっているんです」
「形が変わっている? なんだ、なんか変な紋章でも作っているのか?」
「的は得ています。それぞれ、このような形をしているのですよ」
付き人はそう言うと、自分の胸ポケットに手を伸ばす。そして、何かを探り当てるように手を動かし、一度ピタッと静止させた。目当てのものを見つけたのだろうか。そう思った次の瞬間、礼央の前に何枚かの紙が折り重なった長方形の物が突き出される。
「これは・・?」
「古文書のイラストを模写した物です。ぜひ、一度目を通してみてください」
付き人の手から、それを受け取る。見た目とは裏腹に中々の重量感があった。紙一枚一枚の重量が、現実世界よりも重たいのかもしれないな。そんなことを思いながら、礼央は折り目とは逆の方向に紙を伸ばしていき、中に閉じ込められたイラストを解放させていった。
「おいおい・・これって!」
「やはり——見覚えがあるようですね」
手渡された紙の束は、合計五枚から構成されていた。王国の数が五つしかないから、当然といえば当然だ。しかし、礼央が驚いたのはその部分ではなかった。描かれている王国のイラスト。角度的に考えてそれは、上空から見下ろした時のそれぞれの王国の全容を模写したもの。それを正確に脳に映し出した刹那、礼央を隠しきれない驚愕が襲った。
「だって——これは!!!!」
次の言葉を、二人は待ち望んでいるように静寂で次の言葉までの間を埋めた。
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