最初の王国!

ログイン21 ここは、やっぱりゲームの世界だ!

 礼央は、一度手渡されたイラストが描かれた紙から目を逸らし、二人の方を見つめた。衝突し合うそれからは、真剣さが垣間見られる。何かテストの類で、自分を試しているのかと勘繰ってしまったが、どうやらその心配はないようだ。彼らは、本気で、見当もついていないように見てとれた。


もし、これを礼央以外の他のゲームプレイヤーに見せたら、どのような反応を見せるだろうか。その答えは分かりきっている。十中八九、礼央と同様の反応を取るだろう。それほどまで、それぞれの王国が作り上げる国の全容は——見覚えのある形をしていた。


「これはさ、からかっているとかそういう訳じゃないのか? 本気で、この国の形が何を表現しているのか分かっていないのか?」


 付き人は、静かにかつ力強く首を縦に動かす。


「本当でございます。各王国が輩出する天才の類に部類される知識人が、頭を突き合わせても答えが分からない。この世に存在する最大の謎の一つとも呼ばれていますから」


「マジかよ・・・。何でこれが分からないって答えに辿り着くんだ? 皆んな、難しく考えすぎて、頭が固くなっているんじゃないのか。こんなの、このゲームをプレイするときに必ず出てくる——プレイヤーに割り振られる五つの役職じゃないか!」


 五つの役職。俗に、他のゲームではジョブや職業とも言われるものだ。それらは、各々の個性に合わせた力を伸ばし、また他の役職と手を取り合うことで、レイドバトルにおいて有利に働いたりすることがある代物だ。


このゲームに初めてログインをした際に必ず一つ選ばされ、その後の変更は効かない。どれか一つが突出して強力に設定されているわけでもなく、プレイヤーの好みによって選ばれることが多いと聞く。当然、礼央も選ばされたわけで、このイラストを一目するだけで、それらが何を表しているのか分かった。


「役職とは一体何なんですか!!??」


 先程までの冷静さとは一転。身を乗り出しながら、付き人は尋ねてくる。それもそうか。今まで世界最大の謎とか呼ばれていた疑問が、今まさに目の前で解き明かされようとしているのだから。


「言葉通りだよ。俺たちは、最初に既に決められた五つの役職から、自分の戦闘スタイルを決めなければならないんだ。そして、それらは名称と共に、各々の役職を表すイラストが決められていた。この紙に描かれているのは、正しくその役職のイラストだよ」


 そう言って、礼央は再び視線をイラストに戻す。一番上に描かれているイラストは、一見すると何を表したいのか分からない形をしていた。外郭で言うと、人間の顔の骨格のようだと、初見では思うだろうか。


まるで人間の顎のように、下部が突き出したような形をした五角形。その内部の中央には、十字架が刻まれていた。これは間違いなく、あの役職のイラスト。選択するものが一番少ないという不人気で有名なほどで、見れば見るほどそれにしか見えてこない。


「例としてだけど、この一番上のイラスト。これは、細長の五角形に思えるかもしれないけど、正確には盾を表している、と言われているんだ。役職名は、ガーディアン。五つの役職の中で、一番体力数値が高くて、かつ防御力も抜きん出ている。戦闘において、長期戦を好むタイプの人が選ぶ傾向がある役職だよ」


「な・・なるほど・・・。ガーディアン?ですか。このイラストの王国は、丁度今我々が目指している王国ですか。もうすぐ、この国を現実に見ることが叶いますよ。しかし・・・これが何を表しているのか。それを、分かった状態で見る王国は、また違った趣があるでしょうな〜。一つお聞きしたいのですが、外枠は盾を装っていることは分かったのですが、この中の十字架は何を意味するのでしょうか?」


 付き人の問いに、礼央は首を横にふって答える。


「それが、俺にも正確なことは分からないんだ。そもそも公式がさ、このイラストの意味を公表してないんだ。だから、俺がさっき話したことも、あくまでそう言われている、程度に頭に留めておいてほしい。一般的には、十字架って言われているけど・・・、それだと余りに単純すぎてつまらないだろう?」


 それだけ言い終わると、常に一定のリズムで動いていた馬車はゆっくりとスピードを緩めていった。馬の鳴き声が荒々しく、礼央達の鼓膜を震わせる。何か異変でもあったのか、と礼央は急いで窓の外を確認するため、顔を窓に近づける。


そこに広がっているのは、一面緑の平原ではなかった。まるで、強固な壁だと思わせるほど高く聳える白色の石壁。それが、視界の先まで伸びており、グルリと何かを覆っていた。それが放つあまりの壮大さに、気づけば礼央の口から言葉が失われる。代わりに漏れるのは、感嘆の吐息だけだ。


「おっと、そうこうしている内に目的地に着いてしまいましたか。話に花が咲いてき始めた頃合いだと言うのに。何とも、間が悪いですな」


 付き人が漏らす言葉すら、礼央の耳には届いていなかった。現実世界では見ることの叶わない代物に、心すら奪われてしまったのかもしれない。誘いの森での戦闘という非日常を経験したにも関わらず、礼央はその時以上に強くこう思い知らされた。ここは、正真正銘ゲームの中の世界であると!

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