第2話 チートを見たこと、決して誰にも言ってはいけませんよ
気が付くとチー太郎はおとぎの世界に入っていました。
周りは超弩級の田舎で、池に映った自分の姿を見て驚きました。
少し前まで黄ばんだスウェットにボサボサの髪の毛、お菓子の食べ過ぎで顔中デキモノだらけだったはずが、立派な鎧甲冑に髷を結い、腰には刀を差してまるで戦国武将の出で立ちです。
まるで教科書に載っている武将の肖像画です。のっぺり顔とか狐のような細い目なんてもう瓜二つ。
え? 褒めているように聞こえないって?
気のせいですよ、うふふ。
「おう、おう、よく似合っておる」
「ほんに、立派になって……」
「ああ? なんだよ
チー太郎の前にはおじいさんとおばあさんが立っていて、二人とも涙を流して喜んでいました。
「さぁ、桃太郎や。きび団子をこしらえました。道中でお供を見つけ、立派に鬼退治を果たすのですよ」
「げぇっ! 俺ってば桃太郎になっちゃったわけ!?」
最初の桃が流れてくるシーンなどはすっ飛ばして、いきなり旅立ちの場面から物語は始まりました。
さて、順応性の高さには定評のあるチー太郎は桃太郎として鬼退治に向かうことにしました。
「よーし犬だ。きび団子やるから鬼退治についてこい」
「バウッバウッ」
大型犬が仲間になりました。
「よーし猿だ。きび団子やるから鬼退治についてこい」
「ふむふむ、チートを広めたい、と。それは面白そうだ」
猿は猿でもサトリという人の心が読める妖怪の猿が仲間になりました。
「よーし雉だ。きび団子やるから鬼退治についてこい」
「ケーンッ」
雉が仲間になりました。
なんで猿だけ妖怪なんだよ、というツッコミもなくチー太郎は鬼ヶ島まで到着しました。
そもそもきび団子ってチートじゃね? という考えが一瞬頭をよぎりましたが深く考えないことにしました。
さぁ、いよいよ鬼退治です。
「ごめんなさい財宝はお返しします」
チー太郎……というか物語の主役としての桃太郎の強さの前に鬼たちもタジタジです。
こうしてチー太郎は無事桃太郎として財宝を取り戻し、桃太郎の物語を終えることが出来ました。
めでたし、めでたし。
「めでたくねーよ。チートは!?」
桃太郎として気持ちよく主役を演じ終えたところでようやく本来の目的を思い出しました。
しかし、既に桃太郎のお話は終わってしまいました。
「くそっ、次だ次」
「ああ、このガラスの靴を履いていた女性はどこに!?」
「王子様、
次の世界ではチー太郎はシンデレラになっていました。
灰かぶり姫にふさわしい顔つきだね、と同意を求めたいところですがこれ以上容姿をいじるのは昨今の事情を鑑みるにやめておくべきとの見解が示されたので、ここはお口チャックレディです。
「ぶわっはっはっ、ありがとよ名前も知らない魔女さん」
こうしてシンデレラは王子様と幸せに暮らしましたさ。
めでたしめでたし。
「って、魔女の存在こそチートじゃねえか。物語に最初から登場するから俺のチートじゃねえし。くそっ、次だ次っ」
次のおとぎの国ではチー太郎は働きアリになっていました。
「もはや人間ですらなくなった!」
やがて、寒くて厳しい冬を迎えます。
「なーに、俺には夏の間に蓄えた食料がある。餓死することはないのさ」
こうしてアリは幸せに暮らしました。
めでたしめでたし。
「いやいや待て、待って。ただの働きアリの生態の紹介だよね。どこにも含蓄ないよね。多分これアリとキリギリスの寓話の物語なんだろうけど、どこにもキリギリス出てないじゃん。しかも夏に頑張ったから冬を越せますねって普通のことじゃねーか。どこにチート要素あるんだ」
チー太郎はとうとうおとぎ話そのものにダメ出しをするようになりました。
でも、文句を言っても何も解決しません。
「そもそも普通に働いているアリよりも、まだ遊んでるキリギリスの方がチートを必要としているんじゃないのかって話じゃん。うん? ということは、そうか……」
チー太郎はあることに気付きました。
「――つまり、チートを広めるなら主役よりも悪役になるべきだ」
そこでチー太郎は
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます