第4話『激突!?純善、対 純悪、譲れない闘い』

時刻はPM 19時を回っていた。


陽介は帰り道、考えていた、昨夜あった事は衝撃だった。


 敵に思えた金井彰久が、味方に、味方だと思っていた、オーナー夫婦が、敵に。


事実とは異なっていた。

これからどうすれば良いのか解らない、ただ、解ってる事は、陽介が求めていた、自由は直ぐ近くにあった。


それ程陽介にとって、騒音問題は大きな出来事だった。


考えながら、歩いて居ると、目の前から

樽井が息を切らしながら走って来た。


 表情はとても険しい顔をしている、陽介を見付けるなり、声を掛けてきた。


「う、漆原さん!、、た、大変です!


オーナーが!、、オーナーが、、」


突然の事に、何が何だか解らない陽介は、樽井を落ち着かせようと、両肩を揺すった。


 「落ち着け!、樽井、どうしたんだ?

大変だけじゃ、解らねえよ」


「物凄く怒ってるんです!」


 「誰が?、誰の事を?」


「う、漆原さんの事をです!」


樽井の言葉を聞いた陽介は、一瞬頭が真っ白になった。


何故?、俺が?、、どうして?


オーナーとの仲は良かった筈だ、じゃあ何故?


「どうして、、俺が、、何故?、、俺何だ?」


 「解らないです!、、朝俺がバイトに行く時、怒鳴り声が聞こえて、見に行ってみたら、、オーナーが怒っていました。」


そう、陽介が聞いた朝の怒号はオーナーの声だったのだ。


 よく考えてみると、心当たりはある、形情とはいえ、オーナーを裏切ったのは間違いない。


だとしても、何故?オーナーに知られたのか?


知る事が出来たのか?


 あの事を知り得るのは、金井、林藤、諸星、赤木、そして、陽介の五人。


「ま、まさか、、昨夜の事を知られたんじゃ

それとも、誰かが密告したのか、、」


 「ど、どうします、、?俺も一緒に行きますよ、何かの勘違いかもしれないし。」


「サンキューな、とにかくオーナーの元へ向かおう。」



陽介と、樽井は、オーナーの待つリビングへとたどり着いた。


 そこには、顔を怒りで赤かくし、ヤカンの様に沸騰した様な姿があった。


 オーナーは、椅子に座りながら此方を睨み付け、叫んだ。


「漆原!、よくもこんな事をしてくれたな!


君がそんな奴とは知らなかったぞ!」


 「ま、待って下さい!、俺が何をしたんですか!」


「自分の胸に手を当てて聞いてみろ!」


 「解らないです!、教えて下さい!」


「シラを切りやがって、折角決まっていたのを台無しにしやがって!」


「4階に住んでるカップルは知ってるな!


来月に引っ越しが決まっていたが、キャンセルされたんだよ!」


「しかも、今日出て行った、、お前のせいでな!」


 「4階のカップルなんて、会った事も無いし、それと、俺がどう関係あるんですか!」


「往生際が悪い奴だな!、じゃあこれを見てみろ!」


普段温厚な口調のオーナーは、人が変わった様に陽介に罵声を浴びせた、それは金井が言っていた通りの人物その者だった。


オーナーはA4用紙一枚分の紙を陽介の方に向かって、罵声と共に丸めて投げた。


その紙を拾った陽介は、書いてある内容に驚愕した。


初めまして、私は漆原陽介と申します。


この度、○○さん達に良いお話があり、文を書いた次第です。

さて、良い話というのは、○○さんが来月引っ越しなさるという話を小耳に挟みまして、実は私はルームシェア用のマンションを経営しておりまして、是非とも当マンションに入居していただきたいと、思いました。

正直、此処のマンションのオーナーは、住人達を奴隷の様に扱い、家賃の他に賃金を巻き上げるという悪い噂を聞きました。

ですから、オーナーが別に所有するマンションに、また引っ越しするのでしたら、私の所有する所が良いと思い手紙を書きました。是非、当マンションへお越しください。


「……何だ、、これ、、知らない!、、俺はこんなの作った覚えがない!」


 「とぼけるんじゃない!ガキが、他に誰がこんな事をするんだ?」


「とぼけてない!、、俺は、、」


「そ、そうだ!、筆記体とか確認すれば、、誰だか解る筈!」


陽介はがく然とした、先程、手紙を読んで気付かなかったが、気が動転してたせいか、大事な部分を見落としていた。


 手紙は、パソコンで文字が打たれた物だった、文字は寸分の狂いも無く、癖も無い、当然筆記体等、見分ける事は出来無い。


 側で見ていた、樽井が心配しながら、話掛けてきた。


「う、漆原さん、ヤバいですよ、、これじゃ誰が書いたなんて解らないし、証拠も無いです、」


 「いいかい?、、一週間期限をやるから

退去する用意をしときなさい!」


 「退去!、、退去!、、退去!!」


「分かりました、、でも、、俺じゃ!、、無いです、、信じて下さい、、」


オーナーは気が狂った様に同じ言葉を繰り返していた、危険だと判断した、樽井は陽介を連れて、その場を後にした。


いつもの明るい陽介とは違い、顔が青ざめて、息が上がっていたからだ。


「ど、、どうして、、こんな、、ことに、、」


 「とにかく、落ち着きましょう、、きっと何かの間違いです。


樽井は困惑する陽介を支えながら

屋上へと急いだ。


時刻はPM 20時10分


屋上に着いた、樽井と陽介はソファーに腰掛けていた。


樽井の介抱もあり、陽介は落ち着きを取り戻した。


「サンキューな、樽井君、、さっきは突然の事で、気が動転して、しまったみたいだ。」


「もう、大丈夫だ、ありがとう」


 「そ、それは良かったです、、でも一体誰があんな事をしたんだろう、、」


「解らない、、身に覚えが無い、」


 「取り敢えず、赤木さんを呼びましょう、何か、解決の糸口を見付けてくれるかも知れません。」


「頼むよ、俺には時間が無い、、俺を嵌めた犯人を探さないと。」


暫くすると、携帯で呼び出された、赤木広大が屋上に現れた。


「大変でしたね、漆原さん、樽井君に事情は聞きました、」


「それで、提案があるのですが、聞いて頂けますか?」


陽介と樽井は赤木の話に耳を傾けた。


 「樽井君と俺が一緒に、証拠を探すので。、漆原さんは、その間出来るだけ普通に過ごして下さい。」


 「変に漆原さんが、動いたりすると、余計オーナーに怪しまれるので。」


 「一週間以内という、期限付ですが、なんとか探してみます。」


 「た、確かに短いですけど、俺達に任せて下さい。」


「二人共ありがとう、嬉しいよ、でもどうしてそこまでしてくれるんだい?」


 「お、俺は正義の味方になりたかったんです、警察官とか、自衛隊とか、、でも、今はこんな生活してるから、、せめて困ってる人を救いたいと思いました。」


 「俺も同じです、漆原さん。、、正直言うと、あのオーナーは、気に入らない事があると直ぐに退去と言い出し、住人に嫌な思いをさせるんです、だから止めたい。今回の件は余程の事だと思います。」


「分かった、、二人に任せるよ、俺も出来るだけ、考えてみるよ、誰が犯人かを。」


こうして樽井、赤木の二人は、犯人探しに乗り出したのだった。

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時刻はPM 22時05分


陽介は眠れずにいた、先程の作戦会議で、

不安は少し晴れたものの、まだ困惑している

自分がいた。


 犯人探しといっても、証拠が無い以上、住人一人一人に、聞いたとしても、有力な情報は得られないだろう。


 ましてや、陽介の中で、金井彰久、林藤、諸星、赤木宗則達には、仲間意識があり、容疑者から外れている。


残るは、大月、赤木広大、樽井、だが、彼等が果たして、陽介を嵌めたりするだろうか?

否、それは絶対に無い。


陥れようとする相手を助けるだろうか?


陽介は、あらゆる可能性について、考えていたが、袋小路にハマり見出だせないでいた。



「彼等じゃないなら、カップルしか居ないけど、、確か出て行ったって言ってたしな、、

仕方が無い、明日、大月さんに聞いてみよう。」


「大月さんは、何年も、此処に住んでるらしいから、カップルについて、連絡先等知っているかも知れない。」


「赤木君は動くなと言ってたけど、無実の罪を着せられるのは、もううんざりだ、、」


「必ず俺を嵌めた犯人を見付けて見せる!」


陽介は決意を胸に、精神的に疲れた体を癒すべく、眠りにつくのだった。


そして、3日後の朝


あれから、3日経つが一向に捜査が進まない。


進展しないのだ、大月に聞いた所、カップルの連絡先は手にいれたが、二人は陽介の存在すら知らなかったという。


間違いなく犯人は、陽介の名を語り、カップルを騙した。


だが、彼等は逆に嬉がってる状態だ。


 電話口で、新しいマンションをとても気に入ってるらしく、オーナーの所有するマンションには今更行きたくないらしい。


「手詰まり状態だな、樽井君の方は順調なんだろうか、、」


「連絡したいが、、動くなと言われた以上、それは難しい。」


「二人に任せるしかないのか。」


一方、樽井と赤木は、二人で案を出し合い


様々な可能性について模索していた。


明らかに陽介は、何者かに嵌められた。


しかも犯人は住人の中に居る。 


「さて、どうしましょう、、樽井君、俺は金井彰久が、今回の件に関わってると睨んでいます。」


「手口が姑息で、汚い、そして、やり方が、稚拙過ぎる。」


 「お、俺も同意見です、間違いなく金井が

犯人だと思う」


「ですね、、で、引っ掛かる点が二点あります。」


「どうして、ターゲットを漆原さんに絞ったのか?」


「何故、このタイミングなのか?」


 「た、多分漆原さんを狙ったのは、いつもの新人いびりだと思う、俺も入居したての頃に酷い目に遭ったから。」


「それは俺も考えました、恐らくそうでしょうね、、、ではもう一点、、何故?、今なのか?確か最近もう一人、入居してきましたよね?」


 「な、名前は林藤 修だったかな、そいつがどうしたんですか?」


「いえね、同じ新人なのに何故?ターゲットが漆原さんだけなんですかね、、もしかして、意図的に彼だけ外れている?外されてる?、、」


 「そ、そんな例外あるんですか?、、此処の住人は金井の洗礼を必ず受けるんですよ?、、絶対そんな事無いです。」


「…と言うことは、その林藤が、金井と組んでる可能性が出てきましたね、明らかに金井は林藤を特別扱いしている。」


 「そ、そういえば、大月さんから、Rinに妙なメッセージが、届いていたんですが、意味が解らなかったので、放置してました。」


「見せて下さい、何かの手掛かりになるかも知れません。」


樽井の携帯を受け取り、赤木が内容を確認すると、そこにはこう書かれていた。


おはようさん

樽井君、うちな、もうじき此処出るねん、なんでもな、林藤っちゅう新しくきはった新人おるやろ?金髪のあんちゃん

あんこにな、誘われたんや、ルームシェアしよってな、でな、そのマンションはな、ごっつ綺麗な所でな、家賃もえろう安いんやわ、せやからな、うちな、そこに引っ越そう思うねん、他の皆も来るらしいしな、樽井君も、きはったらええよ。


赤木は、メッセージを読み終えると、眼鏡を上下に揺さぶりながら、得意気な顔で、話始めた。


「なるほど、そういう事でしたか、矢張、金井と林藤は組んでいましたね。」


 「え?どういう事なんですか?」


「良いですか?、、簡潔に言うと、漆原さんは、林藤が経営するマンションに住人を移住させる為の駒にされたんです。」


「あたかも、漆原さんが、カップルにマンションを勧めた様に見せ掛け、騙し、移住させる。」



「それが、林藤が仕掛けた罠です、金井はそれを利用して、オーナーと住人を揉めさせようとした。」


「そこで、白羽の矢が立ったのが、漆原さん、


多分、目立ち過ぎたのでしょう、入居してきた理由が、騒音問題、耐えられなくなり、此処から何れまた、転居する可能性は一番高い、、だから、住人を移住させるという点において、うってつけの役、退去すれば、後腐れ無く、目的だけ果たして、出れますからね。」


 「な、なるほど、だから漆原さんか、、でも何故、漆原さんは、金井を疑らなかったんですかね?」


 「金井は危ない奴って、あの時伝えた筈なのに、、」


「これは、俺の推測ですが、恐らく漆原さんは、既に金井に懐柔されているのかも知れません。」


「だから、樽井君が、止めに入った時、金井の名前が出なかった。」



 「だ、だとしたら、、漆原さんが危ない!」


「不味いですね、一刻の猶予もありません!

急いで、漆原さんを探しましょう!」


急を要する事態になり、二人は陽介を探しに出た。

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時刻はAM 10時35分


赤木、樽井が陽介を探しに出た頃、陽介の姿は例のルームシェアハウスのマンションにあった。


内装は写真と全く同じで、部屋は綺麗で、プライバシーに配慮されており、防音設備も充実していて、何かもが、現在のあのシェアハウスより上回っていたのだった。


案内してるのは、林藤 修だ、見掛けチャラチャラした感じに見えるが、これでも此処のオーナー。


その振る舞いは、手慣れた感じがした。


「どうっすか?、気に入ってもらえました?

あの、おんぼろマンションと比べたら、月とすっぽんでしょ?」


 「確かに、これで、今の家賃より安いとなると、最高ですね。」


 「それに、会社からも近いし、、まさか山宿にこんな良い物件があったなんて、知らなかった。」


「そうすっすよね、主要駅近くで、これだけ安い部屋は、なかなか無いっすよ、漆原さんは、ラッキーな事にその権利を手にいれたんで、マジ引っ越しちゃいましょうよ。」


 「そうだね、こんなに良い所は他に無いですね、、契約しようかな。」


「いいっすね~、乗り気な人、オレすきっす

これに、名前を書いて、印鑑押して、成立っす。」


 「分かった、、ん?、、ごめん、印鑑を忘れてきたみたいだ。」 


「後からで、大丈夫っすよ、、取り敢えず書類は預かっておくっすね。」


「じゃあ、金井さんとの待ち合わせ時間、おくれっとアレなんで、戻りましょうか」


林藤は車のキーを挿すと、勢い良く回し、

陽介を助手席に乗せ、金井の待つ、マンションへ向かった。



一方、陽介を探しに出た、樽井と、赤木は

心当たりがある場所を、手分けして二人で探していた。


 探索範囲が解ら無い為、赤木が、商店街の方を担当し、樽井が、駅周辺を担当した。


 休日の午前中という事もあり、歩行者や、車の通りが少なかった。


「う、漆原さん、どこですかー!、、返事してください。」


「は、早く探さないと、、金井のせいで、、退去させられてしまう。」


「時間が無い、、これで奥さんまで、関わってきたら、もっと大変な事になる、、」


樽井が、いくら探しても、陽介は見当たらなかった。


ただ、ただ、時間だけが、過ぎていった。


反対側の商店街を探索していた、赤木は、この数日間、陽介と訪れた場所をくまなく探していた。


銭湯や、コインランドリー、公園、図書館、コンビニ等、陽介が立ち寄りそうな所を。


「漆原さーん!、、どこですか!」

「他に、考えられる場所、、一体何処へ、、

ん?、、樽井君からだ。」


樽井から、赤木に連絡が入った、どうやら樽井側は、見付から無かった様だ。


赤木はガックシ、肩を落とすと、公園のベンチに座り、また一から考え直すことにした。


「俺が、もし金井なら、どうするだろうか?、懐柔した後、何をさせる?、、あの手紙の内容だと、林藤って奴が、黒幕に間違いない。」


「きっと、自分のシェアハウスに引き抜くのが、目的だったのだろう。」


「だとしたら?、、次の手は、、なるほど、内見だな、、って事は契約させるつもりか!」


「本当に汚い手を使うな、、漆原さんを巧く利用した訳だな、、。」


「何としてでも、探しださないと!」


赤木は、右手の拳を強く握り、決意を固くするのだった。


丁度その頃、陽介、林藤、金井の三人は屋上に居た。


陽介が椅子に、金井、林藤がソファーに腰掛けながら密談をしていた。


「漆原さん、如何でしたか?、、楽園の御感想は?、とても素晴らしい所だったでしょ?

貴方はこんな所に居るべきではない。」


 「そうですね、、予想以上に過ごしやすい環境でした!、、やっぱり俺の中で防音設備が決め手でした。」


金井は得意気な表情で、陽介に話し掛けてきた。


「マジ気に入ってくれて良かったっす、今週中には、移動の用意たのんます。」


 「楽園計画成功ですね、、残るは、大月さんに、樽井、赤木、の三人ですか、ちょろそうです。」


 「大月さんはほぼOKっすね、昨日再確認取っといたんで、オレ面識無いんで、他の二人たのんます」


「クッフッフ、、ざまあ無いですね、オーナー、、俺にした仕打ちに比べれば、こんなの蚊に刺された程度でしょう。この位で済むんです、有り難いと思って欲しいですね~。」


「じゃあオレは、用事があるんで漆原さん、、印鑑明日でいいっす、、書類預かってんで、どちらにせよ決まりなんで、、ふぁ~」


そう言うと、林藤は欠伸をしながら、自部屋に戻って行った。


時刻はPM 12時30分を回っていた。


金井、林藤、陽介達の会話が終了した頃、

樽井、赤木は、一旦、マンション前に合流していた。


「う、漆原さん、何処にも居ないです、、」


 「こちらも、収穫無しです、、」


「うーん、もしかしたら、部屋に戻って居るかも知れません。」


 「その可能性はありますね、、幸いオーナー夫婦は、朝から出掛けていますから、金井が動くなら今日しかないですね。」


「漆原さんに、会って、金井の計画を教えないと、」


「そ、それには証拠が無いと、、うーん、

ん?、確か手紙はコピー用紙で書かれていたんですよね?」


「も、もしかしたら、金井の奴アレで手紙を作ったんじゃ!」


 「何か、解ったんですか?、、なるほど、リビングにある、オーナーのパソコンですか!」


「確かに、稚拙な金井なら、灯台もと暗し、みたいな発想をするかも知れませんね。」


 二人は、螺旋階段を駆け上がり、リビングへと向かった。


 リビングに着いた、赤木は急いで、オーナーのパソコンを立ち上げ、金井の痕跡を探した。


「流石に、目立つ痕跡を残すとは思えないですが、、」


 「で、でも、見付けないと、、漆原さんが、退去させられますから、、急がないと。



赤木は検索履歴や、色々な部分を探してみたが、決定打になる物は見当たらなかった。


焦りながら、パソコンのキーボードを打つ赤木、それを見守る樽井。


『自分に出来る事は無いのか?』


樽井は、自問自答していた。



 そんな状況下の中、樽井がふと周囲を見てみると、パソコンの椅子の四隅に、一枚の丸められた用紙が落ちており、開いて見てみると、その用紙は、文面は違えど、似て非なる、文章の書いてある、手紙だった。


「赤木さん!、見付けました、金井が犯人という証拠を!!」


 「やりましたね!、、樽井君、恐らく失敗した、手紙の一部だったんでしょう。」


「そういえば、前に見た事があります、金井がパソコンで作業している時、紙を丸めて、周りに放棄していたのを。」


「癖が仇になりましたね、金井彰久。」


二人は、歓喜し、こちら側の勝利を確信した。


後は、陽介を探すだけだ。


 樽井、赤木が、喜んで騒いでいると、何やら後ろの方から、気配がした。


二人が、振り返ると大月知世が、ビックリした表情で、こちらを見ていた。


「どないしたん?、二人で騒いで、何か、嬉しい事でもあったん?」


 「お、驚かさないで下さいよ、知世さん。」


 「そうですよ、金井かと思ったじゃないですか、、漆原さんが見つから無い状態で彼と会うのは不味いですから。」


「何が不味いの?金井君が、どうしたん?、、金井君なら、さっき漆原さんと、林藤さんと屋上へいきはったよ。」


「お、屋上ですね!、ありがとうございます。」


 「大月さんは、巻き込みたくないので、リビングに居てください!」


知世が呼び止め様としたが、それより先に、二人は駆け出した後だった。

═════════════════

時刻は13時00分


陽介と金井は、ソファーに寄り掛かりながら、お互い終始無言のままだった。


元々、仲が良い訳ではなく、今回の作戦の為に一時的に組んだ様なものだったからこそ、


先に音を上げたのは、金井の方だった。


「そろそろ、オレは行きますね、漆原さん、もう少しで、楽園に行けますから。」


 「金井さん、林藤さんを紹介してくれて、ありがとうございます。」


「いえ、いえ、こちらこそ、ニチャ」


金井が、屋上を去ろうとし、ドアノブを回そうとした瞬間、勢い良く扉が開かれた。


金井は扉に押され、後ろに倒れた。


「ってぇ!、な、、誰だ!」


 「何とか間に合いましたね!」


 「だ、大丈夫ですか漆原さん!」


陽介の目の前に赤木と樽井が現れた。


何が何だか、状況が掴めない陽介は驚いていた。


「どうしたんですか、二人揃って、何やってんですか!金井さん倒れたじゃないですか!」


 「漆原さん、落ち着いて聞いて下さい!良いですか、、金井は漆原さんを、罠に嵌めたんです!」


 「ほ、本当ですよ!、今回の件は金井が仕組んだ事だったんです!」


「…罠に嵌める?何を言ってるんだ、二人共、、金井さんが、そんな事をする筈無いじゃないか!」


「俺の楽園を、、邪魔しないでくれ!」


樽井、赤木の言葉を聞いた陽介は、ますます混乱した。


 金井は陽介の事を哀れみ、林藤をひきあわせてくれた、謂わば恩人に近い、その恩人に対し、この二人は、敵意剥き出しで、支離滅裂な      事を言っている。陽介の中で、どちらが善悪か、ハッキリしていた。


「ってぇ、て、て、酷いじゃないですか、、赤木さん、それに樽井!」


「漆原さんに、何を言ってるんだ?、オレが罠に嵌めた?、、だと?、、なら、あるんだろうな、オレが罠に嵌めた証拠が!」


赤木は、陽介の隣に座り、腕組みをしながら、語りだした。


「ありますよ、証拠、、見たいですか?、、

しかし、金井君、、案外抜けてますね、」


「隠滅しようと、パソコン内のデータを消したみたいですが、、灯台もと暗しでしたよ、」


「癖って、直せないものですね、、樽井君、アレを」


 「か、金井彰久、観念しろ!」


樽井は、一枚の用紙を金井に見せた、それは先程、リビングで、手に入れた手紙だった。


それを見た金井の表情は徐々に曇り始めた。


 三人のやり取りを見ていた、陽介は樽井から、手紙を乱暴に取り上げると、食い入る様にそれを見た


 そこに書かれた文面は、オーナーと揉めた際に見た、文面に似て非なるものだった。


 「いっ、、一体これは何なんだ?、、何でこんなものが、、」


「漆原さん、それは金井がオーナーのパソコンを使って、作り出した手紙の失作です、

パソコンの椅子の四隅に落ちていましたよ。」


「よく紙を見てください、同じ紙質、そして、同じ様な文面の組み立てです、それに、このマンションで、オーナーのパソコンを使えるのは、金井だけです!」


「俺も最初は、他のパソコンから作られた、手紙だと、考えたんですが、何処かで見た様な紙質でしたから、、それで思い出したんです、金井だけが、オーナーから唯一、パソコンの使用の許可が降りてる事を。」


「簡潔に言うと、漆原さんは、あの手紙の内容通り、金井が仕組んだ、ルームシェアの

引き抜きにまんまと利用され、挙げ句の果て、オーナーとの対立を余儀なくされたんです。」


「全部、金井が書いたシナリオ通りに、事が運んだって事です!」


赤木は、まるで探偵の様な口調で、陽介に説明をした。


 黙って聞いていた、陽介は、体を震わせながら、右拳を握り、力を込めていた。

 それは、金井に対する怒りでもあり、己に対する怒りでもあった。


急に辺りが静まり返り、まるでそれは、嵐の前の静けさだった。


そして、その静寂を破ったのは、金井彰久の不気味な笑い声だった。


「クッフッフ、、クッフッフ、、赤木さん、半分正解で、半分不正解だよ、、」


「教えて、差し上げましょうか?、、オレが書いたシナリオには、キャストが、後一人居るんですよ、誰だか解りますか?、、漆原さんなら解りますかよね?」


 「俺なら?、、解る?、、一体、、誰だ、、そうか!、林藤 修!、、アイツか!」


「正解、正解、そうですよ、彼が今回オレの協力者、うーん、真の黒幕といったところでしょう~、、、、まぁ、脇役だった、赤木さんや、樽井は知らなくて当然ですが。」


「オレとした事が、そんな汎用なミスを犯してしまうとは、自分に呆れました、まぁ、遅かれ早かれ、ばれる事だし、手間が省けて良かったです。」


金井は悪びれる様子もなく、淡々と話し始めた。


「で、でもどうして、漆原さんを狙ったんだ!」


「どうして?ですか、、特に意味はありませんよ、、ただ、タイミングが良かっただけです、 


騒音問題で追い出され、挙げ句、こんなおんぼろハウスに来た間抜けは、利用価値があった、、だから使った、、それだけです」


「そうですね、、強いて言えば、目障りだった、、誰にでも愛想良く振る舞い、他人を疑いもしないし、善人の皮を被ったコイツが、、、ウザかったんだよ!」


「ああ~、、完全に洗脳して、、その後真相ばらして、、心ズタズタにして、壊れたオモチャにして、捨ててやろうと思ったのに、、まったく、台無しだ。」


先程とは、違いその言動は荒々しいものになり、金井は別人格に徐々に変わっていく。


「…オレは、こいつみたいなのが一番嫌いだ、コイツだけじゃない、世の中の全部が!」


「誰にでも体裁良く振る舞い、、他人に傷つけられるのが怖いから、媚びへつらう!」


「その癖、友情、愛情を信じる割には、、簡単に崩れる!、強い者には尻尾を振り、そのうえ、弱者を踏みにじる!」


「オレは、そんな人間達が大嫌いだ、きらいだ、嫌い、嫌い、嫌い、嫌い、嫌い、嫌いだ!」


「だから、壊した、壊してきた、、友人も!家族も!」


金井は狂喜に満ちた表情を浮かべ、身振り手振りしながら、完全に標的を陽介に定めた。


「漆原!、、お前を、殺す!」


金井は、懐に忍ばせていた、ナイフを取り出し一気に陽介との差を詰め、勢いを付けて獲物を 


 振り回した、陽介を庇う為に飛び出した、赤木は、そのナイフによって、脚を傷つけられ、赤木の側に居た、樽井の二の腕を切り裂いた。


 出血はしたものの、二人は致命傷に至らなかった。


「金井ー!、、こっちだ!、俺を殺りたいんだろう」


陽介は金井の注意を引き付け、二人からなるべく金井を引き離した。


金井は陽介の挑発に乗り、奥へと、奥へと進んで行く。


陽介は屋上のフェンス越しに、金井を迎え撃った。


 相手は武装している、対してこちらは、丸腰、信じられるのは、己の拳のみ。


陽介は、右拳に力を込め、構えた。


色んな想いが込められた拳を握り締め、陽介は、金井と対峙する。


「来い!、、皆の痛み、、俺が、、お前を!」


 金井は、やや、体勢を低くし、利き脚を利用した、反動を付けて、陽介に向かってくる。

獲物は、生命が宿ってるかの様に、血を欲する様に、それはキラキラ光っていた。


「上等だ!三下!、、、刻んでやるよっ!」


容赦なく陽介に、襲い掛かる金井の一撃は空を裂いた。


 間一髪、その一撃を交わし、右側に飛び退いた陽介は、その勢いで、金井を殴ろうと、右拳を振り下ろした。


「こ、こいつっ!」



 「遅いんだよ、三下っ!」


陽介の拳は空を切り、そのまま体勢を崩し、前のめりになった所を、金井の右蹴りが、容赦なく、陽介の腹にめり込んだ。


「かはっ!、、っっっ、、、うぁーっ、」


口の中に含んだ空気が漏れだし、一気に吐き出され、、陽介は力なく、吹っ飛んでいく。


「ハァ、ハァ、ハァ、、流石に、、効いたな、細い、脚なのに、、なんて力だ、、」


陽介は腹を左手で、抱えながら、立ち上がり、頼りなく、右拳を構え、金井を見据えた。


 金井は、陽介が立ち上がるのを待ち、右手で挑発をした。


「こんなもんか?、あ?、、さっきまでの勢いどうした?、、もっとオレを楽しませろ、、しようぜ、、命のやり取りってやつをよ!!」


 「ああ、お前の、、そのねじ曲がった、、、根性、叩き直して、、やるよ!」


[────!?]


その直後、二人は再度激突した、先に仕掛けたのは、陽介の方だった。


 金井との距離を一気に詰め、背後に周り、利き脚からの、蹴りを食らわせた。


 金井は大きく仰け反る形になり、フェンスに激突した。


それを見た、陽介は間髪入れず、今度は、金井の顔面に右拳で、思いっきり殴った。

金井の体が再度フェンスに激突し、殴られた、口から出血していた。


金井は、自分の身に起きた事が、未だ信じられず、体勢を崩したまま、その血を拭った。


「血だと、、、このオレが?、、おい!、三下!、、よくもやってくれたな!!」


金井は逆上し、一瞬で陽介と自分の位置を、入れ換えた、フェンス越しに背を預けた形になった陽介は、何度も、フェンスに体を打ち付けられた。


「おい!どした、、あ?、どうしたんだよ

反撃してこいよ!、、あ?、、きこえねえな?」


 「お、俺は、、お前、まけ、、、な、、かはっ!つっっ、。」


呼吸が苦しく、息継ぎさえ容易じゃない、体がガタガタで、意識が飛びそうになるが必死で耐えていた。


「そろそろ、、お前の死でフィナーレ、、を飾ってやるよ!!」


金井は、先程陽介に殴られた時に、落としたナイフを拾い、陽介の腹目掛け突進してきた。


と、その時。



[───────!?]



 陽介を支えていたフェンスが後ろに倒れ、陽介の身は頼り無く宙に放り出された。

人間は、重力には逆らえない、鳥とは違うのだから。


 崩壊していくフェンスの近くに、一本の鉄柱があった、堕ちていく最中、陽介は幸いにも、両の手で掴む事が出来た。


マンションの高さは、五階建てのビルに相当する。


落ちたら先ず、助からないだろう。


陽介は必死にしがみついた。



一方、負傷した、赤木、樽井は、知世に事の事情を説明し、応急処置をしてもらい、救急車と、警察を呼んだ。


「これで、いったん落ち着く筈や、、後は病院いかなぁあかんよ!」


「あ、ありがとうございます、知世さん」


 「助かりました、今頃、漆原さんは、、」


ドーン



[─────!?]

 


何やら上の方で、何が落ちた音がした、それを聞いた、樽井、赤木は、急いで、屋上へ向かうすると、そこに、金井、陽介の姿は無く、一部フェンスが、崩壊していた。



「あ、赤木さん!、見てください!」


「フェンスが、、壊れてます!」


 「きっと、二人でしょうね、、とにかく、漆原さんの安否を確かめないと!」


「漆原さーーん!どこですか!」


二人の必死の呼び掛けに、答えるかのように、何処からか、声が聴こえる


声の主は陽介で、最後の力を振り絞り、声を上げたのだった。


「おーーい!、、俺はこっちだーー!」


「あ、赤木さん、居ました!、漆原さんの声です、こっちです!」


 「漆原さん!、、大丈夫ですか!、今助けます!」


赤木は屋上の物置に置いてある、オーナーが、部屋を作る際に使用する、ロープを取りに行くと、急いで、小屋の頑丈な部分に、ロープを縛り付け、その先端を陽介に向けて垂らした。


「漆原さーん!それを、、掴んで上がって来てください!」


「分かった!、、やってみるよ」


陽介は両の手で掴んでいる鉄柱から、垂れ下がれたロープへ、何とか渡った。


 腕の力だけでは体は上がらず、ロッククライミングをする様な形で、上手に脚を使い、壁をよじ登る体勢で、ゆっくりと上がって行ったのだった。


やっとの事で、屋上へたどり着いた陽介は、

生きていた実感を味わう様に、大きな安堵の溜め息を付いた。


「………はぁ、、」


「助かった、、もう駄目かと思ったよ、、」


 「ほ、本当にどうなるかと思いましたよ、無事で良かった!」


「漆原さん、救急車を呼んでありますから、安心してください。」


「二人とも、、ありがとう、、」


「そ、そういえば、金井の姿が何処にも見当たら無いです。」


 「漆原さん、、まさか、崩壊に巻き込まれたんじゃ、、」



「…あいつは、、、、、俺は、、、」



事切れる様に、陽介はそのまま意識を失った。

═════════════════

その後、金井の姿は何処にもなく、見付から無かった。


陽介は救急車で病院へ運ばれ、他の者達は警察の事情聴取を受ける事に。


残った、赤木、樽井は、崩落した、フェンスの残骸を屋上から見下ろした。

それはまるで、金井の人生そのものに思えて、仕方なかった…


═════════════════


ようやく陽介と金井の決着が着きましたね!

だけど、肝心の金井の姿は無いし、

一体何処に消えたのか?、、重傷を負った陽介は病院へ!?


この先どうなる、ルームシェア生活!!


それでは、次話でお会いしましょう。

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