第2話『安息の地は何処?』
引っ越し翌日、陽介の姿はあのシェアハウスにあった。
前の部屋の管理会社と一悶着あったが、
なんとか話が着いたようだ。
ここだけの話、あの隣の住人はマンションの『オーナ』の知り合いだったらしい
要するに陽介は、理不尽にも追い出されてしまったのだ…。
今日から新しい生活の始まりだ、俺は期待に胸を踊らせ、玄関の暖簾をくぐった。
先へ進むと『螺旋階段』があり、登っていくとそこには、扉があった。
俺は扉のノブに手を掛け、部屋に入り驚いた、部屋はもの凄く広く流石工場を、シェアハウスにしただけはある。
目の前には大型のテレビが置いてあり、その手前には横長のテーブルがあった、丁度学食の様な作りだ。
きっとここで、食事をするのだろう。
「俺、自炊なんて、あんまりした事が無いから少し不安だな。」
「作れてもチャーハンや、肉野菜炒め位だ…
これを機会に料理でも勉強するかな。」
陽介はそうぼやくと、再び部屋を見渡した。
左手側には、三人掛けのソファーがあり、その手前には、机の上に旧型のデスクトップパソコンが置いてある。
そして、右手側には台所があり、その近くに
大きな冷蔵庫が、二台置いてあった。
業務用だろうか、凄く大きい。
きっと住人が、それぞれ使用してるのだろう。
冷蔵庫を開けてみると、品物に名前が書いてあった。
他に、勝手に取るな!、、飲むな等と注意書もあった。
「おいおい、住人同士で、食べ物の取り合いしてるのかよ。」
「うわ、こっちなんか、シールが貼ってあるぞ」
「見た感じ個々に、テリトリーと言うか場所が決まってるらしいな、これは慎重に暮らしていかないと、直ぐに目を付けられる。」
陽介は呆れた感じで、その場を後にした。
再び部屋に戻ると、今度は螺旋階段へ向かい
さらに上へ登っていく、すると、洗濯置き場があった。
位置的には3階だ。
洗濯機が二台置いてあり、『ベランダ』には物干し竿や、下着が干してあった。
女性物のパンツやブラジャー等
羞恥心は無いのか?
流石にこれは無いだろうと、陽介は唖然とした。
「マジ、大丈夫か?、、このマンション 先行きが不安だな…」
「まぁ、、一応男と女で別れてるみたいだし、カーテン1枚で仕切られてるけどな、、」
陽介はあまりの衝撃に目を疑ったが、直ぐに
このマンション?だから此処では当然の事なのだろうと思い直した。
そして、その場を後にすると、今度はまだ上に続く螺旋階段を登って行った。
「どんだけ続くんだこの階段は、今4階辺りか?流石に昇り降りだけで、体力減るぞ」
「ぬぁぁー!、、エレベーターを要求するぞ俺は」
陽介は愚痴を溢しながら、4階にある玄関にたどり着いた。
どうやら居住スペースらしい。
玄関先には靴が何足もあり、女性物や男物と、バラバラに置いてあった。
中に入ると、その作りは入り組んだ迷路の様で、左右には部屋の扉があり、さながらRPGのダンジョンの様だ。
その一角に『風呂場』があった。
中を覗いてみるとシャワーがあり、残念な事に浴槽は物が邪魔して、とても入浴出来無い状態なうえに汚い。
「案内された時にチラッと見たが、改めてみると、、何とも言えんな」
「そ、そうだ銭湯に行こう、毎回入浴代が掛かるが、そこは我慢しよう…」
「しかし、とんでもない所に来てしまったな
やっていけるのか?、、1ヶ月もつのか俺は」
陽介は自問自答しながら、さらに続く螺旋階段を登って行った。
すると、今までの扉とは違う素材で、出来たドアが目の前に現れた。
銀色に装飾されたそのドアには、一枚の紙が貼ってあり、そこには一文 『屋上のドアはきちんと閉めること』、と書かれていた。
きっとあのじいさんが貼ったのだろう。
よくよく思い返すと、今まで通って来た場所には、様々な場所に張り紙が貼ってあり、
書かれた内容は、『シャワーの水を出しっぱなしにしない』、『廊下は静かに!』、等
注意書が沢山貼ってあった。
「ここは、学校ですか?、一般的に義務教育を受けていれば、その位言われなくても解るけどな。」
「まぁ、それが出来無いから貼ってある訳で、
これが多人数で住むって事なんだろうな」
陽介は独り言を言いながら、銀色に装飾された、ドアを開けた。
扉の先には、体育館程の広いスペースが、広がっており、周りにはオーナーが植えたであろう、四季折々の野菜や花が、植えてあった。
トマトに、茄子、キュウリ、向日葵、紫陽花、ユリ等様々だ。
よく見ると、屋上周りは落下防止によるフェンスで囲まれていており、流石に5階から足を踏み外して、落ちたら助からないだろう。
そして、入り口付近には、二人掛けのソファーやテーブルや椅子があり、住人達が此処で談笑でもしているのであろう。
時刻は昼12時を回っていた。
マンション?内を探索してから、二時間程経っていて、流石に腹が減ってきたようで、陽介は
自分の部屋に戻り、まだ片付かない荷物を尻目に、部屋の鍵を掛けその場を後にした。
来る途中で見付けた、ラーメン屋を目指し
歩きだした。
俗にいう家系ではなく、昔ながらの赤い暖簾を構えた飲み屋みたいなラーメン屋だ。
町並みはあまり人通りが少なく、商店街の方には、お昼時だろうか、お年寄りや主婦の姿がちらほら見える。
地元名物のコロッケを、売っている肉屋や、八百屋、魚屋、等様々な店が建ち並んでいる。
商店街の先を抜けると、『銭湯』があった。
店構えは老舗の風格を漂わせており、看板は色褪せていた。
「お!銭湯だ、時代を感じるね~
昔ながらの番頭がおばあちゃんで、中にコーヒー牛乳が売っていて、風呂上がり腰に手を回して一気に飲む!」
「一回やってみたかったんだよな~
で、湯上がりの女が居てさ、意気投合して、
仲良くなったりさ」
「あー!たまんね、新生活、銭湯だけは希望が溢れてるな!」
などと言いながら、陽介は小さな掲示板に目をやると。
そこにはこう書かれていた。
営業時間 AM10時~PM24時 年内無休
サウナ室あり、男湯 女湯
次いでにアルバイト募集の貼り紙も
時給900円 4時間~ 応相談
「へ~バイト募集してんのか、別にうちの会社は副業禁止ではないが、実際ここで働いても客で来るのは、、ばあちゃんばかりなんだろうな…」
「ドラマや二次元なら、可愛い子や綺麗な子とか、入浴していて、華やかなんだろうがな、現実は残酷だ…」
そう陽介が落胆していると、ラーメン屋の出前持ちが、横切って行った。
何かを忘れている、そもそも何をしにこんな方まで来たのか、陽介は思い出したかの様に走り出した。
「やべぇ!、ハァハァ、俺は、ハァハァ、ラーメンを食べに来たんだ、ハァハァ、しかも通りすぎてるし、最悪だーっ!」
陽介は周りの物珍しさに気を取られ、ラーメン屋を通り過ぎていたのだ、慌てて来た道を、引き返し、商店街を全速力で駆け抜けてった。
こうしてる間にも、陽介の腹はまるで意志があるかの様に空腹を訴えている。
「待ってろもう少しの辛抱だぜ」と、言い聞かせ抑え込むように、腹を右手で擦りながら
陽介はようやくラーメン屋にたどり着いた。
「ハァ、ハァ……やっと着いた、何故見落としたんだ、あんなに目立つ看板だったのに。」
「と、とりあえず、、もう限界だ…中に入って
チャーハン、ラーメンを食べてやる!」
陽介が店内に入ると、「いらっしゃい!」と四方から威勢の良い声が飛び交ってくる。
流石は昔ながらのラーメン屋、お決まりのリアクションだ。
席に案内され、時間も昼時という事もあり、店内は賑わっていた。
客は、サラリーマン風な人も居れば、OL 風な女性も居たり、お年寄りが座敷に4人で座っていた。
そして、主婦らしき三人が座っている、隣の座敷に陽介は通された。
「注文が決まったら声掛けて下さいね」
店の店員だろうか、40代位の割烹着姿の女性が声を掛けてきた。
陽介は早速メニューを見てみると、お目当てのチャーハンを発見、値段は350円と中々良心的だ。
次にラーメンを見てみると、種類が様々あり、
その中でも目を引いたのが、塩ラーメン。
ラーメンの中で陽介は塩ラーメンが、大好物だった。
因みに値段は600円
ラーメンと言えば一般的には、みそ、しょうゆ
とんこつを、好きな人が多いイメージがある。
だが、陽介はマイナーな塩ラーメンが好きだった。
陽介は食べたい物を決めると、店員を呼んだ。
「すいませーん、、え~と、チャーハンと、塩ラーメンを下さい」
「以上で宜しいですか?」
「はい、お願いします」
「少々お待ちください」
そう言うと店員は、店の奥へと消えていった。
ひと安心したのか、陽介はあぐらをかき
リラックスし始めた。
ようやく食べ物にありつけるのだ。
それから15分程経過して、やっとチャーハンと塩ラーメンが目の前に届けられた。
香ばしいチャーハンの匂いが、陽介の鼻をくすぐり、鼻腔の奥深くへと侵入し、胃を刺激する。
「スーッ、良い匂いだ、もう我慢出来ない
いただきます!」
陽介はチャーハンを一口サイズにレンゲですくい、一気に頬張った。
すると、口の中には絶妙な甘さや、肉や野菜や色々な素材が主張しあっている。その中でも
米!我が強く、もっと食べてくれと言わんばかりに、主張してくる。
「美味い!、パサパサしてなくて、それでいて、ベタベタしていないし、米はくっつかず一粒、一粒が、弾力があり、もちもちしている」
「こんな美味しいチャーハンを食べたのは、初めてだ!」
陽介はまるで、料理系アニメに出てくる、
キャラクターの様にオーバリアクションをした。
それから、無言でひたすら口にチャーハンや、塩ラーメンを運ぶのだった。
塩ラーメンとチャーハンを堪能した陽介は、店を後にして、部屋がある、マンション?にゆっくり戻って行った。
════════════════
マンション?に戻ると、1階にはオーナー、おじいさんが、何やら物を運んでいる。
両手には軍手をつけ、紺色の作業着姿で、
年の割には力がある様で、机を軽々持ち上げていた。
「漆原君、ちょっと」
「はい!どうかされましたか?」
「少し手伝ってくれないか?」
「え?俺ですか?、、分かりました汗をかいたので、一度部屋に戻り着替えて来ます」
「わかった、待っとるよ」
陽介は1階で呼び止められ、オーナーの手伝いをする羽目になった。
部屋に戻ると、段ボールから未開封の袋に入った、ジャージ上下を取り出し、急いで着替えを済ませ、オーナーの待つ1階へ向かった。
前に運動しようと購入してあったのだが、三日坊主で、ジャージは使われる事無く封印された。
だが、その封をオーナーの為に今この瞬間、解いたのだ。
「お待たせしました!」
「おう、こっち、こっち」
「何処ですか?」
「こっちだよ、これを持ってあそこへ置いて」
「お、重っ!、、5キロの米袋二つ分はあるな…」
陽介が持たされたのは、大きな鉄板だ、
軍手もせずに、持った為に手が擦れて痛い、
痺れも襲ってくるし、両手でやっと運べる重さだった。
それから1時間、陽介はオーナの手伝いをした。
内見の時の印象とは違い、結構スパルタな感じだ、遠慮無く命令してくる。
運動不足のせいだろうか、足腰が悲鳴を上げ、限界が近付いていた。
「おう、ありがとう、お陰で片付いたよ
2階でお昼でも食べよう」
「ん?、、はい!、、ヤバイな、つい条件反射で、返事をしてしまった。」
「あの!じいさんまるで、自衛隊の教官の様にこきつかうからな、、こっちはさっき昼食べたばかりだって…」
「先に行ってるから」
「分かりました、着替えたら直ぐ行きます」
オーナーは螺旋階段を登り2階の部屋に消えていった。
陽介は急いで部屋に戻ると、Tシャツと、短パンに着替え、2階にあるリビングに向かった。
時刻は13時30分を回っていた。
リビングの扉が閉まっていたので、ノックをした後ドアノブを回し、陽介は部屋に入った。
すると、オーナーは大きいテレビを観ていて、背もたれがある、椅子へと腰掛けている。
観ているテレビは時代劇の再放送だ。
オーナーにテーブルの椅子に座りなさいと言われ、席に着くが、何か先程から違和感がある、なんだろうか?、、体のある部分に強烈な違和感が。
この耳障りな音は何だ、、何処から聴こえてくる?
陽介は音の出所が解ると驚愕した、あり得ないからだ。
なんと、音の出所はオーナーが観ているテレビからだった。
驚くのも無理もない、音量のメーターで言えば、45レベル。
近所からクレームが来る程の大音量。
恐らくマンション?中に響いてるであろう。
陽介が、呆気に取られていると、ガチャっと
音がして、扉が開いた。
「あ~暑い、本当今年の夏は暑いわね
茹でダコになっちゃうわ」
そう言いながら、部屋に入って来て、その女性?老女は陽介の目の前に座った。
「あら、時代劇観てるの?、この人亡くなったのよね、可哀想に」
老女はオーナーに向かって、話し掛けた。
そのやり取りから、大体察する事が出来た。
きっと奥さんに違いないと。
「あらら?あなた新入りさん?、確か、、え~と」
「漆原です!」
「そうそう、漆原君ね、どう?、このマンションは」
「オリジナリティーがあって、面白い所でとても、気に入りました。」
「それは良かったわ、そうだ、、お昼でもご一緒にどう?昨日作ったカレーを寝かせてあるの」
「はい!先程オーナーにお昼を誘われたので是非。」
「じゃあ、直ぐ用意するから待っててね、あ、それとワタシの事は奥さんって呼んでね。」
そう陽介に言うと、台所へお昼の支度をしに行った。
中々気さくな感じで、オーナーとは対称的だ。
年の割に、髪の色がオレンジ色でパーマをかけていた。
まるで、有名アニメの声優、『矢澤明子』みたいだ。
時刻は14時を回った。
「さあ、お昼の用意が出来ましたよ~
漆原君も、た~んと食べなさい」
「はい、いただきます」
中皿に目一杯盛られたカレーは、陽介の腹を刺激する。
先程の刺激とは全く異なるものだ。
腹から悲鳴が聴こえる、もう食べられないともう、やめてくれと。
その証拠に、さっきから胃酸が逆流して吐きそうだ。
チャーハンや塩ラーメン、色々な物が口から吹き出しそうだった。
「どうしたの?、お腹空いてないのかしら
食べないと体に毒よ」
「いやいや、あんたがまさに毒を今盛ってるよ
現在進行形で盛ってるよ…」と陽介は心の中で毒づいた。
「……ご馳走さまでした。美味しかったです」
「綺麗に食べたわね、偉い!、はい!お粗末さまでした。」
「お皿…水に浸けて置きますね…」
「あら、いいのに、、ありがとうね」
「それでは、部屋の片付けがあるので、失礼します。」
陽介は限界を迎えながらも、必死に堪えたが
奮闘虚しく、トイレへ駆け込むのだった。
═════════════════
陽介は部屋に戻ると、胃薬を2錠手に取り、
こちらへ来る途中の駅で買った、ペットボトルの水を口に含み流し込んだ。
薬を飲み終えた陽介は、あまりの気持ち悪さから、ベッドに倒れ込んだ、とても意識を保っていられず、そのまま深い眠りについた…。
時刻は17時30分を回っていた。
何やら周りが騒がしい、食器の重なる音や、
椅子が動く音、それにテレビの音。
そして、住人達の笑い声。
どうやら陽介は、眠り過ぎた様だ。
携帯を見てみると、夕方になっていた。
まだ、胃はキリキリするが、眠る前よりは大分マシになった。
あまりにも周りが、騒がしいので陽介は、
螺旋階段を登り、屋上へ気分転換をしに向かった。
気分が優れないせいか、螺旋階段が前より長く感じられる。
体感では二倍の長さだ。
やっとの事で、銀色の扉の前まで来ると、ゆっくりドアノブを回した。
扉を開けた先には、明かりが灯り、一角だけが、ライトアップされ、その光が周囲を覆っていた。
丁度その場所は、今朝、探索した時に見つけた、二人掛のソファーの辺りだった。
陽介は、その明かりに向かって歩きだし、
近付くにつれその明かりは、徐々に鮮明さを増し、その周りの視界をクリアにしていく。
そして、うっすらと人影が見えた。
一人?、二人?、三人だろうか?
陽介は恐る恐るその影に近付いた。
「あれ?誰かおんの?」
「居ますね」
「俺、見てきますよ。」
その人影から、話声がしてくる
どうやら、見付かったらしい。
その人影の一人が、陽介に近付き話し掛けてきた。
「見掛けない顔だけど、新人の人ですか?」
「はい、、漆原と申します」
陽介が挨拶すると、その男は急に大声で叫んだ。
「ともよさーん!、、新人の人でしたー!」
「あーそう!、、こっち連れておいでー!」
二人が大声でやり取りをしている。
近所迷惑にならないだろうか?
話がついたのか、先程の男がまた話し掛けてきた。
「ともよさんが呼んでます、一緒に行きましょう」
「は、はい、、」
陽介は緊張した面持ちで返事をした。
普段あまり、人見知りをしないのだが、
ルームシェアという初体験で、
オーナー以外に会ったのは、初めてだったので珍しく緊張していた。
「連れてきましたよ」
「おおきに、、あんたが新人さん?、、
アタシ大月知世いうねん、よろしく」
「漆原陽介です、よろしくお願いします」
パーカー姿で見掛け40代位だろうか、ぽっちゃりとした、女性が挨拶をしてきた。
喋り方に特徴があるみたいで、どうやら何処かの方言の様だ。
「俺は樽井健太です、よろしくお願いします」
「漆原ですよろしくお願いします」
先程呼びに来た男が挨拶をしてきた、見掛け20代で若い割には、声をよく聞くと野太い声していた。
「最後は俺ですね、赤木広大です」
「漆原です、よろしくお願いします」
三人目は体格がでかく、腹が出ていて、眼鏡を掛けている男性だった、見掛けは20代だろうか、シャツの大きさで例えるなら3L以上だ。
「あんさん、今日引っ越し来なすった?、、オーナーさんからは一応新人が、今日来る、きぃとったから、てっきり顔見せあんのかとおもうてな、まっとったわ」
「はい、今日越して来ました、すいません、オーナーさんの奧さんに、カレーをご馳走になり、、その後部屋で爆睡してました。」
「なるほど、だから漆原さんはリビングに居なかったんですね、新人さんの歓迎会を初日にするのが、ここの恒例になっていましたから。」
「俺は、新人さんが来るのは噂で聞いてたんですけど、、女の子だと思ってました。」
陽介は、常にMAXの声量で話す、大月知世の迫力にたじろいで、本来の自分を出せないでいた。
いつもの陽介なら、冗談の一つも交えながら
談笑するのだが、大月に対して、警戒心を抱いた感じが否めなかった。
逆に冷静に話し掛けてくる、赤木広大と、樽井健太に対しては、普通のやり取りが出来ていた。
「漆原さん、なるほど、、オーナーさんに手伝わされたんですか、それは災難だったですね。」
「俺も、手伝わされた事があります」
「あ、やっぱり、ここではそれが当たり前なんですね、、」
「あんた、災難やったなー、、オーナーにはきぃつけた方がええよ、怒ると怖いで
アタシなんかしょっちゅう怒られてはるから」
皆の話をまとめると、どうやらオーナーは、
誰彼構わず、声を掛けては何かの手伝いをさせるらしい。
そして、結構短気な性格らしい。
内見で会った時の印象と大分かけ離れていた。
「あんた、奧さんにおうた?、、あの人もクセあるひとやから、きぃつけた方がええよ」
「確かに、奥さんは俺も苦手です、、俺が引っ越してきて間もない頃に、勝手に部屋に入って来て、掃除するんですよ、、」
「仕事を休んだ時も、看病とか言って、勝手に部屋に入ってくるんで、正直ウザイと思いました。」
「漆原さん、奥さんはね、、ちょっとヒステリックな部分がありますから、慎重に話した方が良いですよ。」
「確かに、とっつきにくいと言うか、明るい方みたいですが、早口で少々聞き取れない部分があって、これから苦労しそうです。、、」
「でも、少し安心しました、、住人の方達は
優しい人達だったので、シェア生活なんとか
やっていけそうです。(一人除いては)」
陽介は皆から情報を得て、少し不安にはなったものの、ファーストインプレッションは
成功したと実感した。
時刻は夜20時を回っていた。
話が盛り上がり、二時間近く談笑をした甲斐があってか、すっかり大月知世への警戒心が解かれ、陽介は、シェア生活に少しの希望を見出だしていた。
「そう、そう、、あんたさ、もう一人きぃつけた方がええのおるわ。」
「金井彰久っちゅう、ガキや、、年は19で、、ニートや、、しかも生意気な奴でな、悪戯ばっかすんねん、せやからあんたもきぃつけなはれ。」
「彼ですか、確かに問題児です、、漆原さんくれぐれも彼に近付かない様に。」
「本当ですよ、、俺もアイツは嫌いです、何を考えてるか解りません、、明日早いのでそろそろ俺休みます。」
「じゃあ!ー、お開きにしよか。、、また話そうや、、暇な時はアタシは屋上におるから」
「では、漆原さん、また話しましょう」
「はい!今日は楽しかったです、ありがとう、ございました」
「お休みなさい」
楽しい談笑もお開きとなり、陽介達はそれぞれ、部屋へと戻るのだった。
カシャ!カシャ!
何処かでシャッター音がした。
「○○さん、酷いなオレの○○言って、
漆原かぁ、、弄り甲斐がある奴が入って来たな、、さてさて、、何日もつかな、クフッフッフ」
この時、他に招かれざる客が潜んでいた事を、陽介達は知る由もなかった。
果たして、この人影は一体何者だろうか、
陽介の身に、何が起ころうとしているのか、、
夜空に浮かぶ月だけが、それをただ、ただ静かに見つめていた。
═════════════════
うーん、
住人達と打ち解けたのも束の間、また新たな
トラブルに巻き込まれそうな陽介、
加えて、オーナーや奥さんとの関係も良好にしないといけない!
やる事が多すぎる!?
果たしてこれからどうなるのか?
安息の地は一体何処だ!
それでは、3話でお会いしましょう。
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