第14話 愛憎のもつれとか

キャンプから帰ってから、上野の独り言が増えたなとは思っていた。服を脱ぎっぱなしにするな、とか俺への小言もなんだかわざとらしく増えた。男同士の同居は心地のよさが最大のウリなのに。それも言い方がなんだか演技じみているのだ。母親の真似事のように。

明らかに何かを企んでいる。


そしてある朝俺が起きてくると、上野の様子はさらにおかしかった。おかしいのは上野だけではない。なんとなく部屋も散らかっていた。

そしてダイニングの上には一人プレイ中の人生ゲーム。

ナイフで桃を剥いて食べながら、奴は盤面上でアイドルとしての人生と会社員としての人生を同時進行でに全うしていた。

「朝から何してんだ……いてっ!」

不注意で床に転がっていたレゴブロックを思い切り踏み潰す。なんでこんなところに一つだけ落ちているのか謎だが、ブロックに攻撃を受けた素足は穴が空いて血が出ていた。


そんな俺を軽く一瞥すると、上野は人生ゲームのルーレットを回し、会社員のコマを進める。

ため息をつくとゆっくりと立ち上がって俺を睨む。

「もう僕はね、我慢の限界なんだ。君のだらしなさとか、僕を顧みない態度とかにね」

「は?なんだよ、急に」

「ご飯を作っても、ありがとうとも言いやしない。この前もだ。急に泊まりになると言われたってこっちが困るんだよ」

「今まで何も言わなかったじゃんか。急になんだよ」

「何も言わないからって何も思ってないと思わないでくれ!」

上野は珍しく大声を出す。

それに俺が怯んだ隙を見て、上野はさっきまで桃を切っていたナイフ片手に近づく。


えっ

うそ。うそうそうそ。


「さよならだ。黒岡くん」


上野は俺の腹に深々とナイフを突き刺し、俺は体へ異物が無理矢理食い込んでいく感覚をまざまざと受けた。

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