第15話 いつめんめん
走馬灯が見えている。
ルームシェアをしている親友、かつ俺を今殺した上野という男は、大学で同じ講義を受ける友達だった。
それは部活の新歓よりも二日ほど前だったと記憶している。初めての登校日でまだ友達もできていなかった俺は、必修科目の講義で空いている席を探して、やや緊張しながら座った。そのときたまたま隣に座っていたのが上野だった。
この時俺はまさか一緒に暮らすことになるだなんて思ってもいなかった。パッと見た感じ怖いやつではなさそう、むしろ大人びた男だな、というのが第一印象だった。
大学に入りたてで、とにかく友達を作らなければ、となんとなく誰もが浮ついた時期。俺もその一人で、パソコンを開いてぼんやりしている上野に何の気なく話しかけた。根拠はないが、なんとなくこいつとは仲良くなれそうだと思えたのだ。
「俺もこの必修とってるんだ。半年よろしく」
「はあ、よろしく」
上野はどことなく上の空で、とても気さくとは言えない返事に俺はすこし落胆した。大学とは学問も遊びも満喫するためには横のつながりが大事なのに、スタートダッシュがなかなか切れていない。
ふとパソコンの画面が視界に入り、講義とは関係なさそうな文字の並びに、悪いとは思いながらもじっと見てしまった。そこには打ちかけの文字が並んでいる。目に入った文章は会話のような部分もあり、一目で物語か小説のようななもので、課題のレポートとも思えなかった。
「おい、あまりじろじろ見てくれるなよ」
「上野って、それが趣味なの?」
小説や作曲のような一からなにかを作り上げる趣味を持つ人は俺の周りにはいなかったので、単にものめずらしかった。
他人にいきなり踏み込まれたくないことかも、と気がついた時にはすでに遅かった。案の定上野は片眉を吊り上げ、怪訝な顔をする。
「趣味というか。とにかく、人のパソコンを盗み見るような行為はいただけないな」
「あっ。それはごめん。ただ話をかけるってすごいなと思ってさ」
「……ふん。どうせ泣かず飛ばずで小遣い稼ぎにもならないよ。最近持ち込みをしたら恋愛小説が向いているはず、それなら担当をつけようと言ってもらえたんだが……あいにく僕には最も向いてないジャンルだ。ここいらが僕の潮時なのかもしれないな」
「へえ」
なんか面白い喋り方をするやつだなと思った。
今まで出会った人の中で一番クセが強い。
「なあ、無礼な君。面白い恋バナを持ってたりはしないか?」
「え?なに急に」
どっちが無礼だ、と思いつつ俺は少し過去の恋愛に思いを馳せた。必死さと泥臭さの中に青春を感じてたひと時の思い出が俺にだってあった。いや、だからといって。
「今知り合ったばっかのやつに話すかよ」
「ふぅん、そうか。君は面白い話を持ってそうだと思ったんだけどな」
「だからってさ」
仲良くもないやつに恋愛を語るなんてただ恥ずかしいだけだろう。そういうのは和気藹々とできなければ何の意味もない、打ち明け損だ。
俺の言わんとするところを察したのか上野は、ふうむと顎に手を当てる。
「じゃあ、昼にラーメンを奢るよ」
「ありがたいけど、そういうことじゃなくて……」
「一緒にお昼を食べよう。そして」
「ん?」
「僕たち親友を目指そうじゃないか」
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