第11話 女子は雑談がお好き
部室でステッキにワックスを塗り込みながら、先輩や同期とおしゃべりする時間が好きだ。
「莉子ちゃん、この後暇だったらご飯行かない?気になるお店があるの」
野島先輩はサークルの一つ上の先輩で、唯一同性の選手。よくサークル終わりにご飯に連れて行ってくれる大好きな先輩だ。
「今日は叔母の家に行く予定なんですよ」
叔母は実質私の育ての親だ。大学に入り一人暮らしを始めてからも、よく夕食に呼んでくれるので度々甘えさせてもらっていた。特に今日は兄の誕生日でもあり、だいぶ前から食事の約束をしていたのだ。
「明日は空いてないですか」
「お!そしたら明日にしよう」
早速携帯のスケジュール帳に書き込む。そのときふと、来週の練習試合の文字が目に入った。
「ところで、今年のレギュラー誰選ばれますかね」
「そうねー、男子がちょっと多いから誰かは外れちゃうのよね。莉子ちゃんはどう思う?」
競技は5人一組で行うファイブミックスが主流だが、男女それぞれ二名以上チームにいなければならないため、私と野島先輩はレギュラー入りが確実だった。
一方で男子選手は現在四年生が二人、三年生が二人、二年生が一人在籍していて、この中から三人を選ばなければならない。順当に行くと先輩三人からレギュラー入りを決めると思う。実力で言ってもそう。
でも、同じ二年生で同期の黒岡くんに試合に出て欲しい気持ちもあった。
最近はフォームも板についてきて、頑張ってるというのが見てわかるくらいだから。それに、彼にはまだ試合経験がなかった。
先日駅に呼び出され、なぜか泣いてしまった黒岡くんを思い出す。
黒岡くんが最近なにか悩んでいるのは、きっとこのことだ。
「黒岡くんがレギュラー入りするのは厳しいですよね……」
「上がいるからなぁ。最近頑張ってるけどね。今年は難しいかも」
「せめてもう一チーム作る人数がいればいいんですけど」
「そのためには今年の新歓は頑張んなきゃね」
「もう一チームとなると最低でも女子二人と男子一人ですね。入ってくれますかね?頑張らなきゃ」
こんなに面白い競技なのに、知名度が壊滅的すぎて、新歓に来てもらうだけで一苦労なのが現実。笑ってしまうほど目標達成は難しいとわかっていた。
「頑張るのは、黒岡のためなの?」
「えっ」
思わずステッキを革で擦る手が止まる。
「私は競技を盛り上げたくてっ」
「でも自分は確実に出られるのに」
確かに。そうなのかもしれない、と思った。
大学に入るまで同い年で競技をしている人とチームになったことがなかった。だから黒岡くんがサークルにいてくれることは、私にとって特別。彼の競技人生が楽しいものになって欲しいと、いつも願っているんだ。
「そうですね。黒岡くんのためかもしれないです」
「うわ、超素直。そこが莉子ちゃんの可愛いとこだけど」
「先輩もかわいいんで猫かぶっていっぱい新入生入れてくださいね」
「なんだと、このやろっ」
ぽこっと野島先輩にボールを投げられて、二人でアハハ、と笑う。
「実際のとこ黒岡とどうなの?なんかないの?」
この質問は野島先輩から今まで数え切れないほどされてきた。その上、何かあったらすぐに報告するように、と言われている。
「とくに……いつも通りですよ」
「クッソ。もたもたしやがって。絶対あいつ莉子ちゃんのこと好きなのに」
サークル内のメンバーはほぼ確信を持ってそう言う。黒岡くんが私のことを好きだと。でも、本人から言われたわけではないから何とも言えなかった。
「どうするの、もし黒岡に告られたら」
考えたことがないわけではない。
何回も先輩から言われる度に、頭にはよぎる。もしも、本当にもしも黒岡くんに好きだと言われたら……?
正直ピンとこないけれど。
「それは……んーどうなんだろう。……わかりません!」
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