第35話 回廊

視界を失ってからは、身体のあちこちをぐいぐいと力任せに引っ張られるような感覚がして、外からの情報がシャットダウンされていく中、かわりに夢を見るような心地になる。

走馬灯を何度も見てきた俺だが、いつもよりも神秘的というか世界を見下ろすような万能感があった。

光に満ちた回廊を、空気の流れに逆らって歩いているのだと気が付いた時、自分は時間をつかさどる聖域か、はたまた天国へ続く道かどちらにいるのだろうと思った。前者なら嬉しいけれど。

キャンドルが揺れるような暖かな光は、結婚式の日の教会を思い出す。光の壁の向こうに度々なにかの気配を感じるものの、俺の目に触れることはとうとうなかった。

終わりのない廊下を歩いていると、誰かに呼び止められたような気がして立ち止まる。その声の方向には誰もいないように見えたが、確かに誰かがどっしりと座っているのが伝わってきた。


あなた、ほんとうになんかいもここにくるのね。


その声の心地よさは莉子に似ていた。でも全く別物だとすぐに分かった。


わたしは、あのこの祈りをききとどけるだけ……。

もしもまたこんどがあるのなら、あのこの祈ったことたずねてみることね。


足元から持ち上げられるような催促を受け、俺はまた歩き出す。

気が付けば、出口はもうすぐそこにあるようだった。

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