第31話 1回目のエピローグ
結論から言うと、あっさりと犯行は見破られ上野は逮捕された。
というのもすみれちゃんが殺されたことをニュースで知った例のミステリーマニアが、怖くなって警察へ洗いざらいゲロったのだ。そいつはテレビの取材に向かって、本当に殺すだなんて思わなかった、小説のネタとして提供しただけなのにとボロボロと泣いていた。
そして当然そいつは警察に、自分の教えた方法ならアリバイ工作のための協力者がいるはずとはっきり伝えたのだ。
そこから俺の所に警察の手が届くまでは、本当に数日もかからなかった。
上野が喋ったとは思えないから、もともと目をつけられていたのだと思う。
ある日仕事から家に帰ると、警察官が二人待っていて傍には落ち着かない顔をした莉子がいた。上野の逮捕を莉子ももちろん知っていたので、俺が関わっているかもしれないと予想も付いただろう。何かの間違いだと思う一方、俺を信じる根拠もない状況に泣きそうな顔をしている彼女がとても不憫だった。居たたまれなくて、早く家から離れたくなった俺は、けんもほろろに任意同行に応じたのだ。
警察の話では、俺がアリバイ工作に積極的に協力したことになっていた。
上野がそう言うとは思えないから、ミステリーマニアの筋書きがそうだったんだろう。でも違うと言い切ることはできないと思った。現に俺は結果的にではあるが協力する形になったのだから。すみれちゃんの遺体を見ておきながら逃げたくせに、知らずに鞄を運んだだけです、なんてしらばっくれるのも違うと思ってしまったのだ。
そうして俺は殺人ほう助の容疑であっけなく逮捕された。
逮捕から数か月後、俺は判決を言い渡され刑務所にいた。
忘れもしない、皮肉にも莉子の誕生日だった。莉子が面会に来てくれる予約が入っていたが、いざ部屋へ通されてみるとそこにいたのは玲子さんだった。「莉子は今日来れなくなったの」俺を咎める目つきで玲子さんはそう言った。
その時俺は突然に胸に鋭い痛みが走って、その場に倒れこみ、抗えどなすすべもなく意識を手放すことになった。せめて莉子が来れなくなった理由だけでも知りたかった。どうか無事でいてほしいと。
今思うとあれが初めて竜也くんに殺された日だったのだ。
死因こそ俺には誰も教えてくれないから分からないが、経験から言うと突発的な心臓発作の何かだ。
でも本当の死因は、俺が莉子の不幸の原因となってしまったから。
殺されてもしょうがない人間だったからだ。
薄れていく意識の中で、莉子に必死に謝っていた。
莉子に出会ってしまったばかりに、辛い思いをさせてしまってごめんなさい。叶うなら俺に出会う前から、君にはやり直しをしてほしい……。
そして俺は全ての記憶を置き去ったまま、莉子に出会う前、大学入学直後へ時間は大きく後退する……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます