第29話 シン・始まりに潜む真実
守田に初めて出会ったのはサークルの新歓だった。
競技人口の少ないマイナースポーツの新歓は、参加人数も少なく、運命ではなく必然的に席が近くなった。実際に来ていたのは、俺と、俺に誘われ着いてきた上野、守田のほかは2,3人いるかいないかといったところだったはずだ。
俺はこの時点ではフットサルサークルへ入ろうとなんとなく決めており、完全にタダ飯が狙いで新歓に来ていた。
一方で守田は小学生の頃から競技経験があると言い、そのことに先輩方は歓喜し絶対に入部させようと手厚く取り囲んでいた。
そのせいで俺の席からは守田の顔なんてほとんど見えず、声がたまに聞こえるくらいだった。
飲み物を取りに行く、と誰かが席を立ったその一瞬、俺たちの間に隙が生まれた。目が合った瞬間、ものすごい早業で俺は心臓を掴まれた。そして、本当に急に守田は俺に話しかけた。
「黒岡くん……だっけ? は、サークル入る?」
「え、いや……。実は俺さっきもう別のサークルで決めちゃったんだよね」
「……そっか、ざんねん」
これが、学生時代の守田との唯一の記憶。
その後俺はフットサルサークルに入り、守田との関わりはゼロだった。
上野とのルームシェアの条件だった自分の恋愛話をするためのネタも尽きてきたころ、2年生になっていた俺は後輩に告白され付き合うことにした。といっても、3年生の頃に別れその後の彼女もこれと言って続かなかった。
社会人になり1年目の夏に会社の先輩に声をかけられた俺は、彼女もいないしと勇み足で合コンに参加した。そこにたまたま来ていたのが守田だった。
俺たちは在学中に何度か構内ですれ違いはしたものの、ろくに声をかけ会話をしたことはなかった。その微妙な距離感の知人に気まずさがある反面、慣れない合コンの場に素性が分かる人がいるという安心感もあった。
先輩の狙いは守田の同僚の子だったので、問題もなく俺は守田と連絡先を交換することができた。そこから数日にわたり連絡を取り合い、何回かデートを重ね意気投合した俺たちは付き合うことになった。
そしてなんやかんやあり。
社会人5年目になって俺たちは結婚した。
すごくさらっと振り返ってしまったが、俺はちゃんと莉子のことを愛していたんだ。一生そばにいたいと思えたのは莉子だけだった。莉子と出会えたことで俺は、家族が欲しいだとか、爺さんになるまでに何を成し遂げたいだとか将来のイメージに縁取りを捉えることができた。
それだったのにも関わらず。
結婚して一年たたずで、事件が起こる。そして、俺は死んでしまった。
死んで、時間は守田に会う前に巻き戻ってしまった。俺は守田との思い出をすっかりさっぱり失ったまま、お気楽にも大学入学から何も疑問を抱かずにやり直してしまったのだ。
だから、俺が時間が巻き戻った後、実質2回目に参加したサークルの歓迎会で俺が守田に運命を感じたのは。一目惚れだと一人電撃に打たれたのは。
わずかに僕の中の細胞に残っていた記憶が引き出した感情だったのだ。だから運命だのキセキだのと浮かれていたのは見当違いで、俺は大事なことには何一つ気がつけていなかったのだ。なんて恥ずかしい。なんて愚かしいことだろう。
竜也くんは泣きそうな顔で俺から目を離さなかった。
「おれさまには、莉子がお前を選ぶのを変えられなかった。運命の力にはこんな殺すしか能がない小さな死神じゃ抗えねえんだ。もうおれさまがお前を殺すことはないだろうけど、それでもお前の近くでいつでも見張ってるからな」
◆ ◆ ◆
「……新郎?祈りは終わりましたか?」
「はい。この5年ほどのことを懺悔し尽くしました」
「え?懺悔?」
懺悔なんてしてもしきれない。
それでも、今の俺にはようやく一つはっきりとしなくてはいけないことが見えていた。
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