第34話

「ま、待て、エイト…」


山爺が行く気満々のエイトに待ったをかける。


「山爺!無理しちゃ駄目だよ!」


逆に起こられて寝かせられると


「お前カズキの言う事守らなくていいのか?怒られるぞ」


「大丈夫だよ!すぐに行ってすぐ帰ってくるから!」


「しかし…」


山爺が渋っていると


「だって…これで山爺がもし…もし!何かあったら僕…」


嫌な事を想像してしゅんとしてしまう…


「いや、そんなすぐにどうにかなるやわな体はしてないさ」


山爺が笑うが


「さっき床に倒れてたじゃん…」


「うっ…」


説得力がない…


「大丈夫…危ない事なんてしないよ。お薬だけ買ったらすぐに戻ってくるから」


ニコッと山爺に笑いかける。


「それにジャックもいるし!一人じゃないよ」


「ガウッ!」


ジャックが頼もしそうに吠えた。


「わかった…じゃあくれぐれも無理するなよ。何かあったらすぐに戻ってきてくれ。エイトに何かあってまで生きながらえたいわけじゃないからな」


山爺が寂しいことを言うので曖昧に頷いておいた…


「じゃ行ってくる!山爺ちゃんと大人しく寝ててよ!」


声をかけるとベッドから起き上がろうとする山爺に注意する!


「ジャック行くよ!」


僕は山爺から貰ったお金と薬の空き瓶を握りしめて山を降りていった…。



町の入り口近くまで来ると木の影から街の様子を伺う。


(町に来るのは…どれくらいぶりだろう…)


町を見ると幼い頃にみた記憶が少し蘇ってきた…


(大丈夫…僕はカズキとナナミの子)


エイトはグッと腕に力を込めると町に歩き出した。


「ジ、ジャック…そばにいてね…」


ジャックに震える声で話しかけるとジャックがピッタリと僕にくっついてくれた。


ジャックの温もりに少しホッとすると山爺から聞いた道順を思い出し薬屋へと向かって行った。


下を向いて早足に歩いていると


「ガウッ」


ジャックが僕の服を咥えた。


ピタッと止まるとクイクイとジャックが何か教えている。


僕は顔をあげるとそこにはお目当ての薬屋が目の前にあった。


「ジャック!ありがとう!」


僕はジャックを外に待たせると薬屋の中に恐る恐る入っていった…


「すみませ…ん」


怖々声をかけると…


「誰だ!」


中から不機嫌そうなおばあさんの声がする。


「あ、あの薬を…」


しどろもどろに言うと


「だったらさっさと中に入りな!いつまで扉を開けておくんだ!」


「す、すみません!」


僕は扉を閉めると奥へと歩いて行く…お店の中は見たことも無い色々な物が置いてあった。


珍しくてキョロキョロとしながら進んで行くと


「ここだ!」


色んな木の枝や木の実、草や液体が入った瓶に囲まれておばあさんがちょこんと座っていた…


「こ、こんにちは…あの…この薬が欲しくて…」


僕は山爺から預かった薬の瓶を見せる。


「貸しな」


おばあさんが瓶を受け取ると瓶の蓋を開けて中の匂いを嗅ぐ。


「この匂いは…東の山の爺の心臓の薬だね」


おばあさんがジロっと僕を睨んだ…。

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