第11話 接触


 剣道部の稽古が再開する。


 基礎練習は済ましてあったので、技術面の稽古を細かく分析していく。


 その視線に映る生徒達は慣れない様子はなく、こわばった動きもない。生徒達はいつも通りの活動をしている。


「休憩!」


 生徒達は一斉に大きな返事をして休憩を取り始めた。


 顧問の先生は海慎かいしんたちにこの稽古の様子を伺った。


 海慎と宇野は交互に言葉を紡いだ。


安倶水わたしたちの指導形式と似ています。驚きました」

「とても指南が的確ですねぇ。体制もバッチリですし」


 顧問は指導員達がかつて安倶水の剣道系列の出身であることを説明した。


 宇野はそれを聞くとニタリと笑い、海慎を見ながら話す。


「あらぁ、それはとても大変な思いをされたでしょうに。ほら、一度全系列を解体しましたからねぇ。それでもリスペクトしてくださってるなんて」


 海慎は少し声をこぼしながら引きつった笑顔を見せた。


 指導員の先生たちが話をする時間を作った。


 ここで安倶水財閥主催の合宿試運転の知らせを再度告知する。


「急な申し出で失礼します。良い経験を約束しますので是非ご参加ください。試運転かつ、今回は個人にお願いする形となっているので参加料も移動費込みで一律3千円といたします」


 破格の参加費に一同は頭を悩ませた。顧問に渡された紙を参加費同封で渡すと参加となる。


 風成は参加することにした。


(更なる高みを目指す機会だしな)


 稽古は終わり、下校時間を知らせるチャイムが響く。


 生徒達は海慎達に色々質問していた。


「とても活動的ですね!」

「いえいえ、この街には多くの用事もありますし」

「すごい⋯⋯この街の会社にそんな大きな取引されてるところあるんですね⋯⋯」

安倶水わたしたちの活動の一つに、“伝説、伝承の調査と保護、継承”があるのを知っていますか?」

「そういえば怪異系の書籍とかお名前掲載されてました!」

「そう。この街にもとても興味深い伝説があるので、そこを見て回るつもりです。どこにいくかなどは詳しくはいえませんが。危機回避のためなのでご了承を」


 それを聞いていた風成は昔調べていた物事を思い出し納得した。


 女子の黄色い声が聞こえ無意識に視界を向ける。いつもは最後まで残って自分を見る彼がそそくさと帰宅していった。


 よくないことが起きそうな胸騒ぎが彼女を襲った。



 街灯が頼りの道を少女は1人で歩く。人気のない道先、誰かの影が見えた。


(あれは⋯⋯宇野さん)


 風成を視界に入れた彼女は笑顔で自分に近づいてきた。


「こんばんは! どうしても君に話しかけたかったんだ。ずば抜けていたからねぇ、実力が!」


 平均男性の身長くらいある背丈の彼女は、相手に合わせ少しかがんで話をした。


 風成は夜遅くということもあり、早々に話を切り上げて帰宅しようとした。


「そうですか。ありがとうございます。では」

「君程度でトップレベル! 衰退したなぁ、武の世界は」


 宇野のひどい言葉に風成は眉をひそめた。


「⋯⋯あ?」

「あぁ、つい本音が。まぁ事実だから仕方ないだろう! あと、帰ろうとしないで! 私は君には興味ないけれど、君の存在にとっても関心というか利用できそうなものを見つけることができたから声をかけたんだ」


 少女の全身に鳥肌が立つ。


 彼女の雰囲気が明らかに常人と異なることに寒気がする。


 それでも強がってしまう自分を止められない。


「⋯⋯何者? 私を利用して何を企む」

「健気だなぁ。助けも呼ばず、威勢を張るんだねぇ。やはり、

「私は一人だ。誰にも⋯⋯。だから、利用なんて」

「ククク。まぁ、さっき毒を盛った2人も保護者というより君を監視してたっぽいしなぁ」


 風成は誰のことか頭を捻ったが、マリード周りの奴らだろうと推測した。同時に毒を盛ったといことに冷や汗を垂らす。


「殺したのか?」

「いや、幻覚をしばらく見る程度のものだ。安心しな。君たちの定義である“生命体”が作るようなモノとは違うし」

「⋯⋯お前は」

「見てもらった方が理解が早いだろう。あなたの立場を、な」


 街灯によって照らされた2人の影。それは徐々に大きな影に飲まれていった。



 マリードとその直属の部下として配属された内の4人の魔法使いは街の至る所にある“伝説、伝承跡”を見て回っていた。無論、先ほど聞いた海慎の居場所を探し出すためだ。


 数分おきに連絡を取り合い現状報告をする。しかし一時間経っても一向に連絡がつかなくなっていた。


(何が起きた)


 王に選出された彼らが連絡を怠ることなどない。彼らは王だけでなく自身に対しても絶対的なものを感じている存在だ。


 それが風成の見張り含めた6人全員、一切音沙汰がなくなった。


(⋯⋯安倶水。わざわざ人前で予定を告げた。あれが罠だったか)


 山中を進む彼。道を抜けると足膝くらいの高さの石を守るように囲んでいる古い小屋と、それを見ている海慎がいた。


「やはり来たか。さて、少し話をしよう。お前たちの上に立つ者は──は元から他者の失敗を許すことを想定していない。

改め精進するである部下など必要としない。だからこそ動機になるを封じる蛮行に出た。思うように動く人形の方が便利と」


 攻撃を仕掛けようとしたが、その石に目を向けてしまい動きが取れずにいる。


「⋯⋯気になるか。これは“鎮めの三ツ石”。はるか昔、大災害の化身がいた。は愛する者の運命に耐えきれず力を振いかけた。それを見た僧は、彼女を少しでも慰めヒトとして留めるため、村の中、浜辺近く、小山ここに気休めの石を置いたそうだ。

──河鷲法師かわわしほうし。安倶水記を記し、海初様しょだいさまを見届けた僧の名だ」


 海慎はその石を見終わった跡、マリードに背を向け歩き出しながら話をする。


「想いは不滅であるよ。ただ、皆遠くに追いやられただけで──」


 マリードは勢いよく海慎を切り裂こうと剣を振るった。海慎は振り返り水の剣を作り出しそれを受け止めた。


「話は最後まで聞きなさい、“会橋えばし 堅期けんご”くん」

「裏切りの罪人。使“アンセン”。始末する」

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