27、夢に向かって

 静華さまの姿が見えなくなった翌日の夜、俺はアパートにいたが落ち着かずにいた。それに、晴れていたはずなのにいつのまにか重い雲が垂れ込め、雷鳴が轟いている。そして、神社のほうからすごく嫌な感じがした。だが、白羽さまから夜は外に出るなと言われている。もし俺が外に出てまた捕まるようなことがあれば、静華さまや白羽さまに迷惑をかけてしまう。それは避けたかった。だから俺は隆幸さんに電話をすることにした。

 スマホから隆幸さんの番号を探して通話ボタンを押す。遅い時間だったが、隆幸さんは数コールで電話に出てくれた。

「もしもし、冬馬です」

『冬馬くん、どうしたの?何かあった?』

電話口から隆幸さんの声の他に雷の音が聞こえる。その音はアパートの外から聞こえるよりもずっと大きかった。

「あの、神社のほうは大丈夫ですか?急に雷が鳴ってきたし、なんだか嫌な感じがして」

『ああ、うん。雷はたぶんこの神社の真上で鳴っているよ。外で何が起きているかわからないけど、私も外に出ないように神さまからお告げがあったんだ』

隆幸さんの声は困惑が滲んでいた。たぶん、神社で何かが起きているのだろうが、隆幸さんの目では何かが起きている、ということしか見えないのだ。

『とりあえず、僕は大丈夫だから冬馬くんはアパートにいるんだよ?』

「わかりました。明日、少し早く行きますから」

隆幸さんの言葉に俺はうなずいて電話を切った。

 カーテンを開けて神社の方向を見ると時々稲妻が見える。何が起きているのかわからないこと、自分には何もできないことを悔しく思いながら俺は無理矢理眠りについた。


 翌朝、昨日の雷鳴が嘘のように空は晴れ渡っていた。俺はいつもより早くアパートを出ると神社に向かった。

 鳥居をくぐると境内は何かが暴れたように荒れていた。まるで竜巻でも起きたかのような有り様に俺はポカンと口を開けた。

「冬馬くん、おはよう」

「あ、おはようございます。隆幸さん、昨日は大丈夫でしたか?」

社務所から出てきた隆幸さんが俺に気づいて声をかけてくれる。俺が駆け寄ると隆幸さんは苦笑しながらうなずいた。

「大丈夫だよ。神さまからももう大丈夫だって言われたしね」

神さまが夢枕に立ったのだと言う隆幸さんに俺は安心したように息を吐いた。そのまま気配を感じる社に目を向ける。その気配はいつもより弱々しいように感じた。

「何があったのかわからないけど、神さまが少し弱っていらっしゃるね。僕の目にも光が弱く感じる」

「そうですね。でも、大丈夫って言うなら、きっと大丈夫なんですよ」

俺がそう言うと隆幸さんはにこりと笑ってうなずいた。

「よし。じゃあ早速境内の片付けをしようか。このままじゃ参拝にきた人たちが驚いちゃうから」

「そうですね。俺、着替えてきます」

隆幸さんの言葉にうなずいて俺は社務所に着替えに走った。


 それから、相変わらず俺の目に静華さまや白羽さまの姿は写らなかったが、それでもそこにいるのだという気配は感じることができた。神職になりたいという俺の希望は変わらなかったが、高校に行っていない俺はまずは神社で働きながら通信教育を受けて高校卒業認定試験を受けることにした。そして、神職の家系以外でも入ることができる大学で神職資格を取得することを目指すことにした。

 隆幸さんは仕事の合間に俺の勉強を見てくれた。金銭面での援助もしてくれると言ってくれて、最初は断ったが行く行くは神路神社を任せたいからと言われると断りきれなかった。

 再婚して新しい旦那さんと仲良く暮らしている母は、俺が神職になりたいと言うとにこりと笑ってうなずいてくれた。「応援してるから」と言ってもらえたことが嬉しかった。

 今まで勉強なんてろくにしてこなかった俺にとって高校卒業認定試験を受けることも簡単ではなかったが、隆幸さんや茜さん、神社に参拝にきてくれる人たちに励まされ、応援されてなんとか勉強を続けることができた。俺の今までの人生の中で一番勉強をした期間だったように思う。ただ、その間も俺が静華さまや白羽さまを見ることはなかった。それがなんだか寂しかったが、静華さまは俺が心から会いたいと望めばそれが叶うだろうと言った。その言葉を信じ、俺はいつか静華さまや白羽さまにまた会えたときに誇れるように、必死に勉強に励んだ。

 そうして俺は無事に高校卒業認定試験に合格し、その後は大学の受験勉強に必死に取り組み、なんとか大学に合格することができた。

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