最終話 ドッペルゲンガーの消失

 依存していた対象を失った。それも私のせいで。

 この世界は私の住む世界とは違う世界。私がここにいること自体が許されないこと。居場所も人間関係も全て彼から貰ったものだった。

 あまりにも胸が痛くて外の風を浴びていた。

 涙ももう出し尽くしてしまった。

 もう彼の笑う姿を見ることも声を聴くこともないのだろう。

 死んだら天国で会えるだろうか。

 風に訊ねても何にも返されない。

「私ってヤンデレだったんだね。今頃気づいたよ。」

 一人でボソボソいいながら、花火を見たあの山へと向かった。

 山の木々が揺れている。

 彼のいない世界はこんなにも灰色だったのか。そういや彼に会う前も同じ色だったな。

 昼間のそこは懐かしい思いも感じさせなかった。

 ここから飛び降りて彼と同じ死に方をしよう。そう思ったのに私は飛び降りることができなかった。それは彼と同じ天国に行けるのか分からなかったからだ。その不安感が足を止める。

「どうしたらまた一緒になれるのかな。」

 木々の中に指す太陽の光。その光が嘘みたいにわらっていた。「それならいい方法があるぞ」とニヤけていた。

 私は飛び降りるのを止めた。そんな彼とあの世で一緒になれるか分からないギャンブルをする気はない。

 私は彼のドッペルゲンガー。だからこそ高確率で彼の元にいける方法があった。

「これが本当か嘘か分からないけど、もし本当なら、私はずっと幸せになれる。」

 こんな噂を聞いたことがある。

 ドッペルゲンガーがセカイによって消されると、あの世で本物と永遠とわに一緒に過ごしていく、と。

 そうなれば私と彼とまた会える。それだけではなく、ずっと一緒に幸せな日々を過ごしていける。

「ねぇ、このセカイ様。私は違う世界から来たドッペルゲンガーです。私の本物は──」

 太陽がニヤリと口元を見せている。

 それは木々の揺れる爽やかな昼間の事だった。




 何も無い無の空間。

 そこにいるのは彼と私の二人だけ。そこは何にもない虚無のはずなのに、私の瞳には幸福の風景が広がっている。

「また会えたね。これでまた一瞬だね。いえ、これからずっと一緒だね。仲直りして、また告白みたいなことしたのに、すぐに会えなくなるなんてね、神様って意地悪だよね。けど、私達一緒になれたから実は優しいのかな?」

 手を取り合う。

 彼の腕は優しくて温かかった。

「どうかな」と彼の声。その温かい声が私を安心させた。

 何も無いはずの無色透明の世界に花柄の雰囲気で色つき始めた。

 いつしかそこはビビッドカラーのお花畑とペイルカラーのお空に囲まれた二人だけの空間になっていた。




      ─────────


          完


      ─────────

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パラレルゲンガー ふるなる @nal198

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