第9話 ゲマインシャフト
私達は晴れて彼氏彼女の恋人同士となった。
より幸せを噛み締める。
そんな日々の中。私は疑問を抱えていた。どうして彼氏は私と似たような人生を歩んでいるのだろうか。
その疑問の火種にさらに油を注ぐ出来事が起きた。
扉を開けてやってきた一人の男。彼ではないようだが、彼に似た雰囲気を持っている。いやそれ以上に、私の父と瓜二つだ。
思わず吐き出した「お父さん」と、それに対して笑って返す彼の父。
そうだ。例え私の父と彼の父が一致していたとしても、この世界では私の父にはならない。本物か偽物かの違いがある。
この家は私の住んでいた世界では私の家があった場所だ。もしかしたら彼は私と同じなのかもしれない。
どこかに眠っていた不安感も何故か吹き飛んでいた。
ずっと幸せが続くと思っていた。
なのに──
唐突に言われた束縛発言。私を家から出さないと決意を伝えられた。
ようやく感じた幸せも、彼に対する気持ちも、全てが失いそうで怖かった。その怖さに私は支配された。勢いで家を出てく。だからと言って、行く宛てはどこにもなかった。
適当に進む。
なすがままに進む。
そこでふと懐かしい山の麓に辿り着く。
そこで感じた不安感とそれからくる怒りを抑えていく。
冷静になった頭で自分を振り返っていく。私は彼に居場所を貰って、生きる価値を貰った。それで私は彼が必要不可欠な存在になっていた。
「そうか。私は強く依存してたんだ。」
依存しなきゃ生きていけない自分が情けない。何も言わずに出ていくしかできなかった私が情けない。情けない私に怒りが湧いてくる。
彼によって導火線に火がつき、不甲斐ない私への怒りが猛烈な炎を生み出していた。
「ほんとに。私は私が一番嫌いだ。」
木々が揺れる。
ビビットカラーの橙色がいつの間にかペイルカラーの橙色に変わっている。
「どうしてこんなにもムカつくんだろう。ずっと優しくありたいのに怒りが沸いて許せなくなって、もうどうしようもなくなる。こんな私、大嫌いだ。」
どこにもいけない。
時間が経っても消えないムカつきの灯火が揺らめいでいる。
バイブするスマホ。彼からの着信だった。私は小さな怒りをまとって電話に出た。
彼の声が不安定な心を優しく包むように広がっていく。
「私、弱いなぁ。」
電話を切って放った言葉だった。
ケータイ越しに演じながらも、内心では彼を求めている私がいる。そうでもしないと死んでしまいそうな弱々しい私が見える。
試すようにここへと呼んだ。
彼はやはりここに来れた。それと同時に私は彼のドッペルゲンガーだということが確信に変わった。
男か女か、この世界かあちらの世界かの違いしかない同じ存在なのに、どうして私と彼でこんなにも違うのだろうか。私はこんなにも弱いのに、彼はとっても強い。私も男に産まれていればな、きっと──。なんてことを考えながら山道を登っていった。
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