暗転

第8話 ブロークングラスメモリアル

 急に目の前が暗転した。

 一瞬怯んだ。そして、目を覚ました。何にも起きてない、と安心していた。けれど、何にも起きていない訳がなかった。辺り一面先程と変わらない景色。だけど、間違い探しのように所々に違いがある。

 そこを探索しながらようやくそこが平行世界だということに気づいた。これが俗に言うドッペルゲンガーか。私はいつ死ぬかも分からないこの世に不必要な存在となった訳だ。

 セカイにドッペルゲンガーだとバレれば消される。本物と合えば高確率で消される。だって、そこですぐに存在に気づかれるから。

 いつ死ぬかも分からない。けど、怖くなかった。現実と非現実。あまりにも突拍子のない出来事に区別ができていなかった。それだけじゃなかった。死ぬ以上に怖いものに直面したのだ。

 ここには私の知っている家族がいない。友達も、ゼミの仲間も、先生も、知人も、ご近所さんも、誰一人いない。私の繋がりはたった一瞬で消えていたんだ。

 私の住んでいた家はない。同じようでもここはもう一つの世界のもので、私の知っているものとは異なる。

 私は「居場所を失った」んだ。

 受け入れ難い現実が心を深くエグくえぐった。

 私は誰にも必要とされていない──

 それが偽物の運命であり、私を廃れさせる原因だった。

 私の心の拠り所へ無意識に向かっていた。

 家に辿り着く頃にはもう心のライフポイントはゼロに近かった。そうして辿り着く家は、私の住んでいた家ではなかった。その現実を突きつけられて、私はもう無気力にその場に倒れ込んだんだ。


 砂漠の上で乾涸ひからびるように倒れているみたいだ。このまま誰にも必要とされず、孤独のまま死んでいくんだ。

 そこに差し伸べられた手。

 彼は優しく話しかけてきた。それに縋るように私は光を掴もうとした。


 死ぬかもしれない私を家に匿ってくれた。そして、美味しい料理を振舞ってくれた。カラカラの心に大量の水が注がれたみたいだ。

 私はこの家に住まわせて貰うことになった。

 彼はまさに命の恩人だ。

 そこの母親とも仲良くなった。もちろん、命の恩人とも仲良くなった。特に彼は私と全く同じ趣味を持っていた。距離が縮まるのに時間はかからなかった。

 彼の部屋は居心地がいい。まるで私の家にいるみたいな気分に陥る。

 それと同時に、彼といる時間はとっても楽しい。

 居場所がなくて、必要とされず生きていく価値のない私に、彼は居場所と生きる意味を提供してくれた。

 幸せな日々が過ぎていく。

 そんなある日、彼の部屋でアルバムを見た。そこには、昔の私と同じ写真が写っている。違うのは私なのか彼なのか。その写真が何か言いたげな雰囲気でなびいていた。

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