第5話 DistANCE

 あれから楽しい日々が続いたのに。

 心の隅にある不安は彼女との日々では一向に払拭されない。それどころか、増幅していく一方だ。この不安は一体なんだろうか。

 週に数回しかない授業。少し大変なアルバイト。そこですり減った心の体力を回復させる彼女という存在。そんな毎日が繰り返される。

 日が経つに連れて増える不安。しかし、その不安の正体は未だに分からなかった。

 人気少ない電車の中で揺られていく。

 何も見るものはない。外の景色だって相変わらずの変わらない背景でしかない。

「おい。やめてくれよ。」

 大きな声が聞こえた。

 そこには消えてく男性の姿があった。

「死にたくない。」と言い残し消えた。

 このセカイに消されたのだ。

 もしかしたら彼女もまた同じように消えてしまうのではないか。

 それだ。

 俺の胸の中にある黒いモヤモヤはそれだったのだ。彼女が消えてしまうのではないか、という不安感だったのだ。


 ある日、この世界ととある世界が交わり合い、今は二つの世界が隣接している。それが原因でこの世界から向こうの世界へ、向こうの世界からこちらの世界へ、迷い込む現象が起きた。

 世界に同じ人間は二つあると矛盾が生じる。その矛盾が生まれないようこのセカイは迷い込んだ偽物を消滅させるのだ。

 長らく研究されて分かった結果だった。

 迷ってきた者ども──ドッペルゲンガー──がこのセカイにその存在が知られると、その偽物どもはこのセカイに消されてしまう。

 それ以上の詳しいことは内容が難しすぎて全く頭に入ってこなかった。


 そもそも今までは他人事のように思っていた。

 けど、今は大切な人がその危機の隣にいる。

 あの時、ちゃんと勉強しとけば良かったな。他人事として受け取らずにしっかりと身に染みるように学ぼうとしていれば良かったな。

 いつの間にか後悔していた。

 まだ何も終わってはいないはずなのに。

 踊るように揺れる電車の中で、余計なお願い事を何度も何度も神に祈っていた。

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