第2話 受拾近ボーイ断捨離ガール

 相変わらずの道を歩いていく。

 灰色に満ちた床は太陽の熱を浴びて愉しく笑っている。笑う気持ちは俺には分からない。

「ん? 俺の家ん前に誰かいるぞ。」

 表札がついたコンクリの壁の前に持たれかかっている一人の女の子。憔悴しているように見える。

 普段なら声をかけようか、誰かが助けるのを待とうか、それとも見過ごそうか迷うどころだが、俺の家の前ということもあって、選択肢は声をかけるしか選べなかった。

 大丈夫ですか。他愛ないそんな言葉。対して無言が返された。

 大丈夫じゃなさそうだ。

 どうすればいいだろうか。病院に電話すればいいのか。いや、ここは警察にか。もしくは両方か。俺はスマホを取り出した。

「病院と警察に電話するからちょっと待ってて。」

「待って。やめて。病院も警察も駄目。」

 さっと携帯をポケットにしまった。さてこれから俺はどうすればいいのか。

 病院や警察への電話も駄目。ではこのまま見過ごすのがいいのか。それはそれで駄目だろう。それじゃあ──

 ふと思いついた選択肢。

 体が勝手に動いてた。

 俺は彼女を家の中へと入れた。

 父は単身赴任で、母は夕頃まで仕事がある。誰もいない家の中で彼女はベッドの上に横たわった。

 男と女。俺の良心が活発に働いていく。

 良心のせいで自分の部屋には入れない。ダイニングの椅子に座って前足を浮かし、ゆらゆらと時間を潰す。

「これって犯罪……じゃないよな。」

 時間が経つ事に冷静になっていく。その度に後悔も強くなっていく。

「ごめんなさい。何か食べるものを頂けませんか。」いつの間にかそこに立っていた。

 彼女の同意があれば、それと彼女が高校生以下じゃなければ何も問題ないか。勝手に納得した。そのまま冷蔵庫の中にあるものを探り、食べれそうなものを差し出した。

「ありがとう。助かった。」

 微笑むことができるぐらい回復したみたいだ。

「それは良かった。それはそうと、どうしてあそこで野垂れ死にそうだったの?」

 当然の質問。何の変哲もない疑問。

「ここは見慣れたように見えるけど、私の知ってる場所じゃない。いつの間にか、ここにいてさ、私の家も家族も友達も、何もかもなくなってたんだ。」

 つまり。

「私はドッ──」

「それ以上は言わないで。死ぬから。」

 彼女はドッペルゲンガー。この世界とは違う平行世界から迷い込んだ人間。彼女は偽物。本物がこの世界にいる。

 本物が暮らす世界で偽物には家も金も人間関係も何もかもがない。そして、何より死のリスクが付きまとっている。

「それは可哀想に。」

 いつの間にか同情している自分がいる。

 そして俺は彼女を助けたいという気持ちが強くなっていた。

「行くあてがないなら、この家で暮らす?」

 思いつきの提案だった。

「ありがとうございます。住まわせて下さい。」

 たった数分の出来事だったのに、見ず知らずの女の子と一つ屋根の下で暮らすことになった。今まで学びに打ち込んだせいで童貞を貫いていた俺にはとても重大な事件だった。

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