短編その九 みながゆく道、繰り返される会話

豊島とよしまさん、あそこ見てよ」

「どうしたの、本口もとぐちさん。あら、川田かわださん今日もよだれ垂らしてるのね」


「ねえ、あんな風に人に食べさせてもらわなきゃ食べられないなんて」

「あれじゃ、まるで赤ちゃんみたいね」


「本当よねえ、私はあんな風になってまで生きていたくないわ」

「人は自分で食べられなくなったら寿命みたいなものよね」


「ねえ、あんな生き恥さらして良く平気よね」

「そうね、ああなる前に死にたいわねえ」



***



横山よこやまさん、あそこ見てよ」

「どうしたの、豊島とよしまさん。あそこって本口もとぐちさんの事かしら?」


「そうそう、あんな風に大声出して、恥ずかしくないのかしら」

脳梗塞のうこうそくであんな風になっちゃったみたいね」


「あれじゃあ家族も恥ずかしいでしょうね」

「そうね、私の家族があんな風になっちゃったら辛いし恥ずかしいわ」


「そうよねえ、あんな風にわかんなくなっちゃう前に死にたいわ、私」

「私もよ、人間あんな風になっちゃたら終わりよね」



***



横山よこやまさん、こんにちは」

「あら、海田うみださん、お久しぶりね」


「さっきから何か臭いのよ」

「私も思ってたのよ、どこからかしら」


「多分、後ろの豊島とよしまさんだと思うの」

「あら、またなの。最近よく漏らしてるわよね」


「人にシモの世話されるなんて終わりよね」

「そうよね、誰かにそんなお世話してもらうくらいなら死んだ方がマシよね」


「そうよ、恥さらしてまで生きていたくないわ」

「本当よ、どういう神経してればあんな風になっても生きていられるのかしら」

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