短編その八 元気でいて欲しい
【息子】
俺もまだまだ働かなきゃいけないから、出来るだけ母には元気でいてもらわないとさ。今のところはまだ自分で色々出来ているからいいけど、これからが心配だよ。
家では甘やかしたりしないで何でも自分でやらせてるんだよ。やっぱり人間ってのは誰も人に世話になりたくないと思うしさ、だから母もそう思ってるはずだし、俺も本当は助けてやりたい気持ちはあるけど、心を鬼にしてるんだ。
【息子嫁】
最近ちょっとずつ物忘れが強くなってきてるのよ、お義母さん。年齢も年齢だから仕方ないとは思うけど、認知症にはなってもらいたくないの。認知症ってボケちゃうって事でしょ、知らない間にふらふら外に出たりして、ご近所さんに迷惑をかけたりしても困るでしょ。
そうそう、ちょっと前から家にあるお菓子を見つけると何でもかんでも食べてしまって、届かないところに隠すようにしたのよ。そしたら最近は冷蔵庫を勝手に開けて、中に入ってる物を食べるようになっちゃって。でも、私たちがいる間は食べなくて、出かけたのを見計らってやるのよ。
【娘】
久々に会ったら色々出来なくなってたのよ。ちょっと前までは二階に干してある洗濯物を取り込んだりもしていたけど、最近はそれもやらなくなってたの。危ないからって、兄嫁がやらせないようにしているって。
そんな事してたら足腰が弱くなっちゃうじゃない。骨粗しょう症も無いんだから、もっと動いて筋肉が減らないようにして欲しいけど、兄嫁は私の言う事を全然聞いてくれないのよ。本心はきっと、お母さんに早く死んでもらいたいとか思ってるのよ。
私はお母さんをよく外食にも連れて行ってるけど、本当に嬉しそうにたくさん食べるのよ。もしかしたら家ではあまり食べさせてもらえてないかも、って心配してるくらいよ。
【本人】
もう老い先長くないから好きに食べたいの。頑張れ頑張れって言われるから頑張ってるけど、膝も腰も痛いから、もっと若い人たちに助けて色々やってもらいたいよ。
【
75歳になっても頑張って働いている息子と、99歳になっても頑張れって言われる母……なんかなぁ。
私は長生きしなくていいや。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます