第4話 出会い
7月1日、入校式を迎えた、訓練校はビルのテナントの一角を貸し切って運営されていて、とてもこじんまりとしていた。1時間ほどで入校式を終え、誰とも目を合わせず、会話せず、速やかに自宅に帰った。外に出て遠い場所に行った。この事実が僕にとっては大きな第一歩だった。
翌日、自己紹介が行われた、僕が通う訓練校は男性4人、女性26人の計30人構成で、ほとんどの人が30代を超えていた。22歳の僕は正直肩身が狭かった。そんな中、1人だけ、年が近そうな女性がいて目が溜まった。アニメが好きで、自己啓発本をよく読み、以前はアパレルの仕事を2社ほどやっていたという。容姿は、女性にしては骨格が大きく、背中まである黒く長い髪に、シースルーのパッツン。ちょっと濃いめのアイラインを引いて、笑うと目が薄くクシャッとなる、女性らしい女性、まさにそんな印象を受けた。多分この時から一目惚れしていたのだろう、でもこの場所には勉強と就職を目的に来ていて、この人と関わることはないだろう。そう思った。
自己紹介が終わり、授業が始まる。1日目は誰とも会話せずに終わった。
学校が始まって2週間、無言で授業を受け、昼休みは近くの大きな公園で弁当を広げ、午後の授業を受けそのまままっすぐ帰る、そんな退屈な毎日を過ごしていた。やっぱり僕みたいな社会不適合者が、こういう人が集まる場所に来るべきではなかったと後悔した。
その翌日の学校の休み時間、外でタバコを吸っていると、クラスの数名の仲良しグループが僕に声をかけてくれた、今思うとその人たちが声をかけてくれていなかったら、僕が3ヶ月学校を通い切ることはなかっただろう。
僕たちはすぐに仲良くなり、休み時間には自然とタバコを吸いに集まり、お昼ご飯は教室で食べ、帰りも一緒になる事が自然となった。
それなりに打ち解けることもできて、人と会話することにも慣れ始めた時には1ヶ月が経過していた。その頃には面接練習をグループワークでやることになっていて、偶然にも、自己紹介の時に目が溜まった女性と一緒のグループになった。一緒のグループになれば当然会話もするわけだが、僕が想像していた以上に真面目な女性だった、授業はきっちりメモを取り、人の話を相槌しながら聞いて、愛想もいい、何よりいつも笑顔で僕はそんなところに惹かれていった。普段は綺麗な人だなと感じても、話しかけることはないが、彼女には興味が湧いて話しかけることができた。
話をしていてわかったことは、僕の一つ年上で、高校を出てから一人暮らしをしているらしい。通りでしっかりしてるわけだと思った、それと同時に自分と近いものも感じた。
それから彼女が気になるようになった、本を読んだりすることは話に聞いていたが、他にもよくイヤホンで耳を塞いでいたり、話しかけられない限りは自分の世界にいるような様子が自分と重なっていたからだ。彼女は、誰よりも人一倍就活をしていた、一人暮らしだと言っていたから必死だったんだと思う。授業中、時々うたた寝している姿も可愛らしかった。
頑張っている姿を見て、自分も頑張ろうって思えて、余計彼女に惹かれていった、あくまで再就職するために与えられた環境なのに、だ。
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