第3話 葛藤


 会社を辞めてから、通院以外で外に出ることは無くなった。皮膚を見られるのが嫌で外に出ることが恐くなっていた。人の視線が恐かった。次第に会話も出来なくなっていった。

 毎日ゲーム、酒、タバコに明け暮れた。こんなんじゃダメだとわかっていても、仕事ばかりで友人との繋がりを疎かにした僕には、拠り所なんてなかった。仕事を辞めたことで行き先を無くしたのだ。


 その年の4月、ちょうど同年代の大学生たちが就職する年だった。僕はまだ外に出られずにいた。周りが働き始める中何もできない自分に焦っていた。少しづつ身体が良くなっていたのは実感していた、でも精神は崩れたままだった。それでも何とかしたい、今の状況を脱したい、神に縋る思いで公共職業安定所に電話をした。電話をとった男性は、とても落ち着いた声で、丁寧に話を聞いてくれた。その男性のおかげで僕は公共職業安定所に足を運ぶ事になった。


 4月末、暖かい光が僕を迎えてくれた、久しぶりの外、少し気持ちが晴れた。だが久しぶりの人との会話、緊張と不安で、何度も嗚咽を繰り返しながらも目的地についた。受付で事情を説明し、番号札を受け取り、自分の番まで待った。自分の番になると、電話を取り次いでくれた男性が僕の担当をしてくれた。もう一度詳しくどういった状況であるか説明をした。

 「今すぐにでも働きたい、ですが身体の状態的に外で働いたり、身体を使う仕事が難しいです。こんな僕に今何ができるのかわからない。」

男性はこう答えた。

 「事務職で探してみるのはどうでしょう。」

もちろんその考えもあった、だが無資格、未経験でチャレンジできるとは思ってもいなかったから選択肢から外していた。

「公共職業訓練はご存知ですか?」

僕は初めて聞いた、その事について説明をしてもらった、どうやら、雇用保険に加入していた人で、再就職に意欲的で、再就職が困難な人を対象に、無料で学校に行って勉強をさせてくれる仕組みらしい。

とりあえずパンフレットを受け取って、その日は帰る事にした。

 僕は受講するしないの答えを出すのに1ヶ月も時間がかかった、人と会うことを極力避けたかったからだ。でもそうも言っていられなかった、変わりたかった、ここで行動しなければ一生変わらない、そんな気がしていた。


 5月末、受講することを決意して、応募書類を出した。どうせやるからには今まで引きこもってきた分を取り返したい、自分に厳しくやりたい、全く知らない環境で挑戦したい。そう思い自宅から5キロ圏内のところを無視し、片道2時間、距離にして60キロ離れた地域にある訓練校へ申し込んだ。定員が30人ということだったが、受験者は50人ほどいた、なぜだか偶然にも合格して、7月1日から9月30日までの3ヶ月、通うことが決まった。変われるきっかけになるかもしれない、という前向きな気持ちの反面、人の視線が恐いという不安もあった。


 そうして新しい生活が始まった。

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