第2話 不幸の始まり

 

 就職して半年くらいの時のことだ、重度の皮膚アレルギーになった。光線過敏症、アトピー性皮膚炎、コリン性蕁麻疹、等々いろんな診察結果が出た。通院し、多量の薬を投薬されながら我武者羅に働いた。

 仕事は忙かったが、「忙しいのは当たり前」と言い聞かせて働いた。毎日22時まで仕事をする事は、当時18歳だった僕にはとても苦行だった。

 就職して1年を迎える頃には、皮膚アレルギーは悪化し、髪の毛は抜け、頭から足先までの皮膚はただれ、人間の形をした何か。のような状態になっていた。そんな状態でも毎日仕事をしていた、当時の僕にはそれしかなかった。周りの友人は学校で新しい出会いがあり、毎日遅くまで仕事をしていた僕とでは時間が合わず、疎遠になっていった。なによりそんな酷い見た目で友人と会うわけにはいかなかった。


 その生活も長くは続かず、入社4年目を迎えた頃には限界が来ていた。会社を休みがちになり。その年の9月8日、休職をした。

 投薬された薬が合わず、アナフィラキシーショックを起こし、全身は腫れ上がり、頭皮からは膿が出る。顔の皮膚は赤黒く崩れ、夜は痛みと痒みで充分に睡眠が取れず、精神的にも肉体的にも、悲鳴をあげていた。そんな悪状況なのはとっくの昔からだった、こんな状態になるまでどうして働いていたんだと、後悔した。

 

 病院を変えた、自宅から1時間くらいのところにある、美容皮膚科・アレルギー科専門の医院だ。そこの医院長は僕の身体を1時間かけて診察し、適切な治療を施してくれた、そのおかげもあって、12月になる頃には睡眠が取れるくらいには回復していた、身体の状態は良くなってきてはいたが、周りの人間に指をさされたり、コソコソ何かを言われる。そんなような見た目をしているくらい万全とは言えなかった。


 翌年の1月5日、仕事に復帰した。現場の人はとても心配をしてくれて、「皆君のことは理解しているから、気にしないで休みたい時は休んで。」と、とても親切にしてくれた。それで終わればよかった。

 夕方、会社の所長、部長、課長との面談があり、休職中の事や、治療の進行状況の説明をした。

 「君はもう万全なんだね?」

と聞かれた。


 「3ヶ月もお休みさせていただきましたが、正直なところ万全とまではいかず、今日も仕事中身体が辛かったです。このまま休んだり来たりを繰り返していては、会社に迷惑がかかりますし、自分自身前に進めない、そんな気がするので別の仕事に就くことも考えています。」


嘘は良くないので正直に話した。だが思いもしていなかった言葉を所長から発せられた。


 「仕事に気持ちが向いていないから、治るものも治らないんじゃないの?」


と呆れ顔で言われた、聞き間違えかと思った、普通の人ならあまり気にしない発言だろう。でもその当時の僕は今までの自分を全否定された、何かをえぐられた、そんな気分になった。


 「仕事に気持ちが向いてないからって…じゃあ約3年も通院しながら、薬で体調を調節して、仕事にしがみついてきた僕は何だったんですか。仕事と向き合ってたから、そこまでしてでも働きに来てたんじゃないですか。どうしてそんな気持ちも考えられないような発言平気でするんですか。もう貴方とは話にならない。」


気づいたら席から立ち上がり、声を荒げていた、ざわついていた事務所は静まり返り僕に視線が集まる。

「帰ります。」

この一言を言い残して僕は職場を後にした。


それからすぐに直属の上司に電話で面談の時に何があったか、これからどうするかを話した。僕が所属していた場所や隣接していた部署の人間はとても良くしてくれていた、だがもう働ける精神状態ではなかった。


 1月、たった1日だけ出勤をして、3年10ヶ月働いた会社を辞めた。

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