第20話 : 出来る訳がない(水琴視点)

(18話 当日の話です)


 間地代理がやっていることが信じられない。

 あの”ブルン!バシッ、フニャ” って何なのよ!

 私に真似しろって(?)、出来る訳ないでしょ。私のことを絶望させるようなことはしないで欲しいのですけど。


 私のバストは小学校低学年並みと言われても全く反論できない。およそ膨らみというものはないし、鏡で見ると泣けてくるレベルだ。

 ブラジャーだって本当は要らない。

 でも、ノーブラだとさすがに乳首が目立つ可能性がある。ニプレスなんかを使えばそれだけで充分なのはわかっているし、その方が簡単だ。


 でも、でも、私だって女だ。見栄だってある。

 そんな些細な見栄を目の前で間地代理が叩き潰している。

 あんなことが出来る人がそもそもいたなんて信じられないレベルだ。私に真似しろとウインクしないで欲しい。


 間地代理が私に替わるようにカラダをずらそうとしているけど、それはできない。

 というより、あまりに惨めな未来が見えてしまっている。

 私に出来ることは首を横に振ることだけだ。


 呆けた顔の鬼城院を見ながら間地代理の恐ろしさをつくづく実感した。

 ことオトコ関連では私はこの人に永遠に勝てない。

 並大抵の豊胸手術をしたくらいではあの大きさになる訳がないし、あそこまで自分のカラダを使って攻めることが出来るとも思えない。


 蟻が象と喧嘩するようなものだ。

 ため息しか出ない。


 私にとって拷問のような出来事が視界から消えたと思ったら、間地代理は再び鬼城院を責め始めた。今度は頭ではなく腕だ。そしてチラチラとこちらを向いている。

 今度こそヤレ、というサインだ。その位はわかる。


 仕方がない。私だっていつまでも逃げられない。

 好きでもない奴を相手にこんなことをしようとしている訳じゃない。

 鬼城院相手にこの程度のことを躊躇うようでは、私は昔のままで終わってしまう。


 思い切って間地代理の反対側に立ち、仕草を真似してみるが、私の胸は全然当たる感触がない。というかどうやったらああいう風になるのだろう。

 体勢を少しずつ変えながら試してみても胸の先は空回りするだけだ。


「水琴、お前、ちょっとくっつきすぎ」

 

 鬼城院から死刑宣告に等しい言葉が放たれた。

 私のは一度たりとも触れていないのに──私の負けだ。



 それから間地代理に呼ばれた。

 勤務時間中に話す内容ではないので、メモ書きを見せられた。


『努力はきっと報われるから』


 慰めとも励ましとも取れる言葉がそこにあった。

 惨めだ。ビジネススキルなんて全然役に立たない世界があることを思い知らされた。


 真向かいで晴宗さんがとても恐ろしい顔をしている。

 そりゃそうだろう、あんなものを見せられちゃ普通の女性なら平常心でいられる訳がない。


 晴宗さんと仲良くなれるかも。

 そんなことを考えながら自分の胸に手を当てた。 

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