第21話 : 初めて見た顔(智鶴視点)
何が起こったのだろう。
目の前に見えるものをにわかに信じられない。
優治さんの蕩ける眼、間地代理が優治さんの肩を揉んでいると見る見るうちに恍惚に満ちあふれた顔になっている。目の焦点なんか全然定まっていない。
んっ、肩を揉んでるだけ?いや、彼女の胸が優治さんの頭に当たっている。
”ブルン!バシッ、フニャ”という音が聞こえてきそうだ。
女の私が見ても凄い!という感想しかない。あんなことが出来る人は日本中でそうそういないだろう。もちろん私は出来ないし、水琴さんだと尚更だ。
あの後、間地代理が優治さんの腕に胸を押しつけてきて、水琴さんもやって来て、
これじゃハーレムじゃない!
水琴さんはさすがに胸が当たらなかったみたいだけど(貧乳に感謝ね)
だいたい優治さんも優治さんだ。私とベッドで愛し合っている時だってああいう顔はしない。
あの呆けた顔は初めて見た。
ベッドの上で気持ちよさそうに腰を振っているのは演技なのだろうか。私だけ興奮して意識が飛んでいるせいで顔をよく見ていないのだろうか。優治さんは本当に気持ち良くなっているのだろうか。
私の頭にあるモヤモヤした思いはあれからずっとずっと燻っている。
仕方が無い。ここは私も対応するしかない。
間地代理から優治さんが水琴さんの恋愛の練習台にされていることは知っている。
が、それはあくまで水琴さんと優治さんだけの話で、間地代理がそこに直接関わっていることまでは知らなかった。
練習台の内容を具体的に聞かなかった私が悪いのだろうけど、それにしてもここまで露骨に堕としにいかれると私としても負けていられない。
心の中にどす黒い何かが湧いてくるのが自分でもわかる。
優治さんを取られたくない。
そのためにはどんなことでもやる。
相手が美女だからと言って負けられない。醜女には醜女の意地があるのだ。
『今日、お邪魔します』
やることは一つだけ。
間地代理や水琴さんのやったことを上書きするだけだ。
私には優治さんとの関係にアドバンテージがある。それを最大限に活かすのだ。
優治さんの部屋の合鍵は持っている。
ふふん、今日はニンニクづくしのスタミナ料理と栄養たっぷりのドリンク剤あれこれ。
これから一晩寝かせないためには臭いなんか気にしていられない。
私も一緒に食べて、優治さんを搾り尽くしてやる。
明日一日、下半身が反応できなくなるまでトコトン攻めてやるんだから。
ニンニクたっぷりのパスタと焼きニンニク。たまり醤油漬けしたニンニクを使ったガーリックライスも付ける。
ドリンク剤は高麗人参、スッポン、マムシ、ローヤルゼリー、マカ──いろいろ効果がありそうな成分が入ったものを十数本用意してある。
全部飲めば下手な鉄砲も数打ちゃ当たる──はずだ。
玄関の鍵がガチャリと音を立てた。
満面の笑み(もちろん作り笑い)を浮かべて、優治さんを出迎える。
格好は当然(?)の裸エプロン。
ピンクの生地に大ぶりのフリルがいっぱい着いている。ロリータみたいだけど、なかなか悪くないと思う。
これで誰よりも私が優治さんを愛しているとわかってもらうんだから。
優治さんはどこかオドオドしている。やましいことがある感じがありありとしている。
まあ、優治さん一人が悪い訳じゃないから、そこは普段どおりに接しよう。
「あの~、智鶴さん、これ全部食べるの?」
「そうですけど。ニンニクは嫌いじゃなかったですよね」
優治さんの好みは知っている。
ニンニクは好物の一つだ。
「ま、まあ、そうだけど。さすがに、この量は、ね」
「一晩頑張るにはこれくらい食べないと」
そう言いながら、私はエプロンの脇から胸をチラリと見せる。
「あ、は、は・・・・あの~、怒ってる?」
「怒ってないと言えば嘘かな」
顔は作り笑いをキープね。
「このドリンク剤は?」
「もちろん、一晩頑張るには全部飲んで欲しいわ」
「あ、あの~、これ全部飲んだらお腹壊してエッチどころじゃなくなると思うんですけど」
「そういうこと言っていいのですか?」
ここで初めて笑顔を崩す。わかってるでしょ、というアピールのためだ。
「ですよね~」
「だったら食べましょ。私も一緒に食べますから。さ、急いで急いで、夜は長いようで短いですから」
食べ終わったらシャワーなんか浴びさせるものか。
私の覚悟をカラダで教えてあげるから。
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