第39話 : エロいアンドロイド

「これ、また鬼城院が何かしたんでしょ」


 翌朝、水琴がカンカンになって俺を責めてくる。

 10時開場なので、俺達は9時集合だ。一時間で鈴華達の動作確認をしたのだが・・・・


「どうしてこんな動作をするの。これじゃエロアンドロイドじゃない!」


 ごもっとも。

 鈴華はじめ三体は必要以上に胸を揺らす動作をする。

 特に鈴華は肩からすぐに膨らみが始まっていて、なまじそれが大きいため非常に揺れ幅がある。

 動作として見ると、パンフレットを渡す際に不必要に体をくねらせ、乳房を縦横に揺らしている。


「どうするのよ!」


 ぶち切れた水琴の声に周囲からの視線が集まる。

 昨日の間地代理に眼を奪われた私が悪いんです。


「仕方がないわね。とにかくここは私達にはどうにもできないから予定どおりやるしかないわよ。お客様に何か言われたら、仕様については調整中と答えておきましょ」


 10時になると同時に報道各社が動き出した。

 お客さんの動きを捉え、ブースの紹介とインタビューをしている。

 当然、ウチのブースは人だかりがしている。

 もちろんそれはマスク美女を揃えたから・・・・ではなかった。


 なぜ鈴華のような外観のアンドロイドを作ったのか。

 話題の大半はそこだった。


 間地代理も水琴も答えてはいるが、水琴は「デザイナーがそこにいます」と俺に振る案件が多かった。

 あれだけ怒っていたのだからそこは仕方がないだろう。


 説明以外のことでは、プロの皆様は皆鈴華を写している。

「美女だと当たり前すぎるじゃない」などという声も聞こえてくる。

 話題作りなら申し分ないという所だろうか。


 アンドロイド達の動きについても質問が来る。

 どうしてああ言う色っぽい仕草をするのだと訊いてくる記者もいる。

 今の仕様は調整中なので、販売時には違っているかも知れませんと答えるが、無理がある答弁だと自分でも思う。皆さんごめんなさい。


 午後2時を過ぎたら少しだけ人の波が落ち着いた。

 鈴華達の人気は大したもので、昨年も参加した水琴達は三倍を軽く超える来訪者があったと言っていた。

 俺もインタビュー責めで全然余裕がなかった。

 そんな俺の前に水琴が鈴華達の動作を真似している姿があった。


「どうすれば揺れるんだろ?」


 そう呟く彼女に「無理なことは止めろ」と言えば殴られるのだろう。

 子供(の胸)とオトナのそれではできることが違って当たり前だという事実を彼女は認められないらしい。

 無駄な努力というと可哀想だが、どんなに頑張っても東大に入れない奴はいるし、金メダルを取れない奴もいる。

 自分を正しく知って受け入れることが第一歩だと──怖くて言えない。



 会社に帰ると課長からテレビを見たと言われた。

 事前に局側から顔出しで放送することの許可を求められ、放映時刻を教えられていたとのこと。


「それにしてもあの変な動作は何なんだ。何か意味があるのか?」


 この問いにきちんと答えられなかった俺は盛大に怒られた。

 開発二課への復帰は随分先なんだろうと思っていたら、二課の課長がやって来て、責任取らせるから時間外はこっちで働かせるようにと言ってきた。

 相当お怒りのようで真っ赤な顔をしている。


 

 え~っと、ですね。

 修正プログラムが完成するまで開発二課への異動は希望しません。

 間地代理や水琴にどんなに怒られようとここで頑張ります。


 本当です。

 開発二課の皆さん、俺に怒りのメッセージを送るのは止めてください。

 わかってます。あなた方の気持ちは重く受け止めます。

 俺は皆さんのことを心から応援しています。


 課長、開発二課との掛け持ちは絶対に断ってください。

 俺、ここで骨を埋める覚悟ができたんで。

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